小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

第十二話 ~三匹で会合~

 お昼下がり。古寺の茶の間で、いつもの妖三匹が、各々好きな食べ物を持って、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃおしゃべりをしていた。
「三人だけで話すのも久しぶりだね」
 銀狐である葉子。大量のおあげの入った皿に手を伸ばしつつ。
「いや本当に本当に」
 妖狼太郎。彼は生肉にかぶりついている。今朝猪を捕まえてきたそうな。調理したものより生のほうが太郎の好みなのである。
「そうさね。最近こういう機会がなかったからな」
 烏天狗の黒之助。こっちは飴玉をぽりぽりやっていた。
「頭領は?」
「どこにいったのかね」
「姫さんは?」
「朱桜ちゃんを寝かしつけてるよ」
「つきっきりだね、姫様」
「可愛いんだろうね。ここには姫様より年下がいなかったから」
「年下・・・・・・何歳でしたかな、あの子」
「俺も知らねえぞそれ」
「半年だって」
ぶっと黒之助が飴玉を吐いた。ころころっと床を転がる。
「おいおい、どうみたって半年には見えないぞ」
 冗談だろと太郎がいう。朱桜の見た目は五歳ぐらいに見える。半年などとてもとても。
「一応妖の血を引いてるんだし、どうってことないんじゃない」
「いや、まあ」
「あげもら~い」
 ぱーんという小気味よい音が響いた。太郎が手を押さえている。心配そうな顔をした妖達が顔を見せるが、しっしと黒之助に追い払われた。
「あげるわけないだろ」
「けち!」
「けちで結構ですよ~だ」
 しょうもないことをと言いたげに太郎と葉子を見ている黒之助。
 まあ自分もされたら怒るのだが。
「こうやって馬鹿やっているのもいつまでかね」
 目をそらしてしみじみと言う。二人が顔を黒之助に向けた。
「え」
「どういうこった」
「いや、そのままの意味だよ」
 ふっと一呼吸置く。
「いつまでもここに皆でいるわけじゃない。それぐらい分かってるだろう?」
「そらまあ・・・・・・そうなんだろうけど」
「生まれてからここにずっといる、ってわけじゃないんだ」
 また、一呼吸置いた。
「我々の生きてきた長い年月から見たら、ここで過ごした時間など微々たるもんさ」
「そだね」
「そうだな・・・・・・珍しいな、お前がそんなことを言うなんて」
「なに、昨日鞍馬の大天狗様から手紙がきてね」
「・・・・・・」
 二人が黙る。黒之助が言葉を続けた。
「そろそろ戻ってこないかと、そういう内容だった」
「どう返事する気?」
「もう少し先になると書いて送ったよ。それで思ったのさ、いつまでここにいられるんだろう、って」
「あと百年ぐらいいるんじゃねえの?」
「そんなにもいないだろうよ」
「そうなのか?」
「姫さんがここからいなくなれば、我々三人が顔をつき合わすこともないさ」
「そうかもね・・・・・・」
 確かにそうかもしれない。
 「姫様」という中心が無くなれば、この寺にいる必要もないのだ。
「・・・・・・」
「クロちゃんは鞍馬山へ。あたいは里へ。あたいらにはいくとこがあるさ。太郎は?」
「俺は・・・・・・いくとこないな。この寺で一生暮らすのかな」
「あんたもいい人見つけたらいいのに」
「へ、余計なお世話だっての。大体姫様がここを出ていくって・・・・・・」
「そら、好いた人の一人や二人できたら・・・・・・」
 にたにたと葉子が。あとを黒之助が続ける。
「その人の元にいくんじゃないかね」
「ここで皆と暮らせば・・・・・・いや、そりゃあ無理か。でもそんなのまだまだ先のことだろ」
「そうか?姫さんももう十五だ」
「そろそろそんな話があってもいいころだろうよ」
「でも、ありそうか?」
「・・・・・・いや、ないけど」
「それなりに評判なんだけどな」
「どうも姫さんには・・・・・・色恋沙汰がないよね」
「まあこんなとこにいるんだからしょうがないけど」
「若い人、この辺にいないからな」
 黒之助が遠くを見つめた。
「姫さんの花嫁姿、綺麗だろうね」
「綺麗さ、間違いなく日本一だろうよ」
「俺は・・・・・・俺は見たくないけどな」
「寂しいのか?」
「そらまあ、ね」
「正直だね」
「家族なんだ。もう少し、もう少し皆で一緒にいたいよ」
「お、いいこと言うじゃない。太郎、このあげあげるよ」
「ありがと」
 そのあと三人は口を開かなかった。黙々と、食べ続けた。食べ終わった葉子と黒之助が台所に皿を置きに行った。一人、太郎だけが残された。
「姫様の花嫁姿・・・・・・そりゃあ確かに綺麗だろうよ」
 でも、やっぱり見たくないね。そう呟くと、太郎も台所に向かった。