小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

愉快な呂布一家

愉快な呂布一家~人物評~

人を魅了するには何が大事だろうか。 そんなことを話しても、大抵の相手は引くだけである。 時は乱世、諸勢力が盛大な花火をあちこちで打ち上げている世の中だ。 あちらに名門の主がいれば、そちらに乱世の奸雄がいて、こちらでは小覇王と仁君が争っている。…

愉快な呂布一家~超久々に、本編です~

深き夜、じとりとした汗と共に目覚めると、山狗の孫娘は、恐怖に怯えた。 「恐い、怖い、コワイコワイコワイ……」 あれがもうすぐやってくる。 数多の綽名を持つ戦の化身が、自分の首を獲りにやってくる。 「――」 魔王と呼ばれたお爺様。天下をねじ伏せかけた…

愉快な呂布一家~鄧艾の名~

司州、洛陽。後漢の帝都。 その繁栄も栄光も、董卓によって灰燼となった。 炎に包まれ崩壊した街だが、そこかしこに脈々と、人の営みは息づいていた。 「これで、少なくなったほうなのだな」 「そうですねぇ。焼かれる前は、もっと多かったでしょうよ」 少女…

愉快な呂布一家~新、編成~

「名前が多いー!」 ぶわっと、紙が舞った。 一つ束ねの髪を揺らすと、少女はあーっと、綺麗になった机にうっぷした。 「はいはい、書類を投げない」 したり顔で、ささっと宙舞う文房具を集める男。 それからどさっと、少女の顔の横に置いた。 「さ、呂布様…

愉快な呂布一家~馬兄弟と、従妹が一人~

遠目に映るは、涼州の荒武者。 近くに映るは、涼州の砂埃。 豪華絢爛華盛りの、鎧装束で固めた若武者一人。 獅子の兜に、鷹の羽が翻る。 錦馬超は、率いる軍から少し離れた場所で、僅かばかりの供回りと調練の様子を見やっていた。 十部軍……西涼の、豪族連合…

愉快な呂布一家~お肉なお祭り(終)~

馬岱「……馬というのは……」 魏延「馬?」 馬岱「仲良く座って、ニンジンを網で焼くことが出来る生き物なのだろうか……」 馬超の従兄弟、馬岱。その目の前で、わくわくしている呂布の愛馬赤兎と、張遼の愛馬黒捷。 何度も、目を擦る。目に映る光景は、変わらな…

愉快な呂布一家~お肉なお祭り(1)~

呂布「というわけで……」 西涼の地。戦が終わり、覇権が移り、平和が戻った。 おそらく、束の間の。 戦勝者たる呂布の目は、すでに董狼姫に向けられている。 怨を、憎を、込めながら。 それでも…… 今宵は、確かに、平和であった。 かって敵味方として争った兵…

愉快な呂布一家~錦馬超の選択(2)~

「俺が死ぬってか?」 腕を、後ろ手に縛られた。特に、抵抗はしなかった。 馬岱は、自由に城を歩けるようだった。 戦の後、どうなったか、うっすらと予想がついた。 「そう思ってんのか、馬岱?」 涙の痕を宿したまま、馬岱は顎を引いた。不意に、懐かしさが…

愉快な呂布一家~錦馬超の選択(1)~

これから、どうなるのだろう。 馬超は、ぽつんと、座っていた。 窓のない部屋。灯り火が頼りだった。 自分は――この火に誘われ飛び込む、蛾のようなものだったか―― そう思わずには、いられなかった。完璧に負けたのだ。 あんな、愛らしい少女に。愛らしい、悪…

錦、対、戦姫(終)

刀が、手から落ちた。 二本とも、である。 ほぼ、同時に。呂布の動き。見切れなかった。 痛み。両手首を、鈍い痛みが走る。 打たれたのか? どうやって? 何も、見えなかった。捉えられなかった。 呂布が、赤兎馬が、自分の眼前にいる。 どうして、こんなに…

錦、対、戦姫(6)

虚をついた。 そう、思った。 二刀流。張遼と闘ってから、身につけた。まだ、自信があるわけではない。 それでも、十分だった。呂布の、笑みを奪ったのだ。 あとは…… 「その首を、貰う」 馬超の声に、はっと呂布は身を固めた。 右の刀。ぎんと煌めき、その細…

錦、対、戦姫(5)

踊りを見ているようであった。 二人の動きにただただ魅入っていた。 一人は、徒手。 一人は、剣。 一人は、女。 一人は、男。 色の白い、髪を短く切った女が、壁にもたれかかり、飽きることなく眺めていた。 雛は、呂布の義姉・貂蝉、呂布軍筆頭高順、二人の…

錦、対、戦姫(4)

人が集まっていた。 視線が集まっていた。 やはり目立つのだ。 それは、あまり心地良いものではなかった。 「張飛殿……」 「ん? 待ってろ、もうすぐ来るから」 「いえ、そういうわけではなくてですね……」 劉備の義弟、張飛(チョウヒ)。 劉備軍武将、陳到(…

錦、対、戦姫(3)

「先生」 少女が、言った。 剣を背中にしょっている。汗を、少し額に浮かべていた。 「鄧艾(トウガイ)?」 若い男が、入り口の方に身体を向けて、言った。 「うん。司馬懿(シバイ)先生、ちゃんと出来ましたね」 にこりと、鄧艾が笑った。 「……ああ、いつ…

錦、対、戦姫(2)

ふぁーっとあくびを一つ漏らす。 もう一つおまけ。 もう一つもう一つ。 呂布軍第二武将の張遼は、一人のんびり調練を眺めていた。 「おい」 「うん、臧覇?」 振り向くと、ぷにっとほっぺたをつつかれた。 ぷにぷに。 「なにやってるのー」 拒むわけでなく、…

錦、対、戦姫(1)

馬。 騎馬軍。 二万の軍。 中央の戦なら、そう、多いということはないだろう。 だが、その二万の兵が、今の錦馬超の全て、であった。 涼州に現れた漆黒の戦姫、呂布。 その勢いは、とどまるところを知らなかった。 最初は十数人だった。それも、赤子を入れて…

愉快な呂布一家~再起(終)~

「馬岱さん! 頭を上げて下さい!」 「頼む」 額を、床に擦り付ける。 「え、あう」 そんなこと、急に言われても、と。 「無理、か……そうだな……」 ぺたんと腰を下ろすと、憂いを帯びた子犬のような瞳で魏延を見る。 顔を真っ赤に染めた魏延は、 「じゃ、じゃ…

愉快な呂布一家~再起(6)~

「今日は、一体どうしたんだ?」 そう、馬岱が言った。 自分に与えられた部屋。 今日は、外に出る事を許されなかった。 城の空気が、変わった。 それは、部屋の中でじっとしていて、感じる事が出来た。 「呂布様が……馬岱さんと、お話したいって」 魏延が、遠…

愉快な呂布一家~再起(5)~

ぼけーっとしていた。 口を開けて、目を細め、窓辺にもたれ掛かっている。 浅黒い肌。桃色の着物。 武器は持っていない。 囚われの将、馬岱である。 「今日は、調練に行かないのか?」 廊下。呂布軍が砂埃を巻き上げるのをぼーっと眺めながら背後の「男の子…

愉快な呂布一家~再起(4)~

「魏延なら、どう攻める?」 「ぼ、僕ですか!?」 かぽかぽと、赤い巨馬が軍の先頭を闊歩する。 馬中の馬と詠われる、赤兎、である。 乗ってるのはもちろん呂布さんで。 総勢、千三百あまり。 呂布さん、高順、張遼。 そして、魏延。 眼前の兵。 十部軍が二…

愉快な呂布一家~再起(3)~

最初、兄様が負けたということを、信じる事は出来なかった。 従兄である馬超は、涼州の武の華。 誇り、だった。 城に戻ってきた馬超は、別人のようであった。 自室に籠もると、滅多に出てこなくなった。 元々、『あの戦』に負けてから、兄様の様子はどこかお…

愉快な呂布一家~再起(2)~

「……こんなところに?」 松明の灯りを頼りにたんたんと階段を下っていく。 目に、刀傷。 元・袁術筆頭武将紀霊であった。 扉が見えた。 とんとんと、叩く。 中から悲鳴が聞こえた。 散らかす音。 切羽詰まった金切り声。 「袁紹様!?」 袁紹、ついでに顔良…

愉快な呂布一家~再起(1)~

呂布さんが涼州西平郡に居を構えて十日間。 今日も今日とて、続々と集まってくる兵の調練が行われていた。 夕方。 「よっし、これで最後! みんな、頑張るよー!」 「おー!」 呂布軍第二武将・張遼が、愛馬・黒捷を加速させた。 へろへろになりながらも、兵…

愉快な呂布一家~錦(終)~

龐徳が、少しずつ包囲の輪を縮ませる。 嫌々ながらも、兵はそれに従う。 足取りは重い。顔は貰い涙でうるうる。 それを知ってか知らずか、呂布はよしよしと義妹を慰めていた―― というわけで、一月振りの更新です^^ 曹操との二度目の大戦にまたも敗れた呂布…

愉快な呂布一家~錦(5)~

「くそ……」 飲み込まれそうだ。 これは…… 武器を構えるだけで、精一杯であった。 気力を奮い立たせる。必死で、奮い立たせる。 思い出す。あの日の事を。病床にいた、あの人のことを。 「は……負けられない、そう、言っただろう」 声に、出す。 そうだ。 負け…

愉快な呂布一家~錦(4)~

二人が、また、同時に動いた。 三合、打ち合う。 どちらの得物も、相手の肩を掠めた。 少し、息を荒げた。片方だけ。 張遼だった。 あえぐ。 構えが、崩れ始めている。 拮抗が、崩れ始めている。 それを見逃す、馬超ではなかった。 無音の気合いをこめると、…

愉快な呂布一家~錦(3)~

「大丈夫? 雛さん、疲れてない?」 「いえ……大丈夫です」 大きな「汚い黒」の馬。上に一人。雛である。 その馬の手綱を握るが一人、呂布さん。 赤子が、三人。 雛と、もう一人――その母親たる貂蝉が、赤子を抱いている。 小さな黒い馬。 魏延が、その手綱を…

愉快な呂布一家~錦(2)~

「全く、あの馬鹿息子め」 男が呟いた。右眉の上に傷がある。古いものに見えた。 刀を、横の椅子に立て掛けてある。 街の広場。 椅子が大量に並べてある。そこに座っている人は少ない。 屋台が、それなりに散在している。暇そうにしていた。 広いテントを背…

愉快な呂布一家~錦(1)~

「最悪」 「うん」 ゆっくり、頷きあう。 薄茶の布を、身に纏っていた。それは、すっぽりと頭まで覆って。 旅人で、あろうか。 総勢、赤子を含めて十三人。馬が、二頭。 皆、同じ格好をしていた。 「どうしよう、貂蝉姉様。張遼と、完全にはぐれちゃったよ!…

山狗(3)

「ヒッ!」 「閻行……貴様」 閻行が、もう一度刃を振るった。今度は、受け止められた。 涙をいっぱいに貯めた成公英に。 成公英は、 「……閻行様……義父上……閻行様……義父上……閻行様……義父上……」 同じ言葉を繰り返しながら、閻行の刃を受け止めた。 閻行は、刃を…