小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫(10)

あやかし姫番外編~鬼之姫と(終)~

「お土産は?」 「鈴鹿は、なんじゃった?」 「あたしと鈴はねー。鰹節と……これは? ……あー、蜂の子ね」 「儂はのう……お菓子いっぱいじゃ! ひなあられ、菱餅! 美味しそうじゃ、甘い匂いじゃー! それに……」 「それに?」 「儂の、似顔絵……下に、またあそぼ…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(16)~

「お待たせなのです!」 とんとんと、走る。 息、切らせながら、走る。 風のように、走る。 彼女は気付いていないが、それは、人の疾さを越えていた。 西の鬼の姫が、茜色の袋を二つ持って、かみなりさまと雪妖の巫女の前に立った。 「遅いのじゃ、朱桜ちゃ…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(15)~

「地震なぁ。あれが、地震かあ」 のんびりとした、白月の声。 三人、雛壇から降りてきた。 お内裏様以外に、雛人形には変わりはなかった。 お内裏様は、もともと、ぐらついていたようです。 そう星熊童子が言っていた。 「そうです、地震ですよ」 「びっくり…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(14)~

「……坊主……」 揺れが、収まった。 痛くない。 光は、おそるおそる目を開けた。 目を大きくしている朱桜ちゃんが、自分の顔の真ん前に。 よかった。 元気そう。 身体を、起こす。 こつん。 何かに、ぶつかった。 後ろを向く。 お内裏様が、倒れ掛けの姿勢で、…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(13)~

ゆれる、ゆれる。 身体が、雛壇が、揺れる。 これがなにか、おいら知ってる。 じしん……そう、地震って奴だ。 葉子さんに、教えてもらったんだ。 結構大きい。やっぱり、怖い。 ……光は、気づいた。 朱桜ちゃんが、危ないと お内裏様が、今にも倒れそうだと。 …

あやかし姫番外編~鬼之姫と(12)~

「むう……下が遠いぞ」 「高いねー」 「そうですねー」 足をぷらぷらさせるお子様三人。 朱桜、光、真ん中に白月。 雛段々の、一番上。 ふんわり笑う、お内裏様とお雛様の前に腰掛けていた。 ぽりぽりと、音。 三人は、お菓子に手を伸ばし。 色鮮やかな、雛あ…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(11)~

姫様が、眠っていた。 すやすやと、すやすやと、寝息を立てていた。 机の上に、頬寄せていた。 傍らに、白い狼が。 こちらも、丸まってすやすやと 辺りに、ぽとんぽとんと妖達が落ちていた。 「いい、寝顔。本当に、いい、寝顔」 葉子が、小さな小さな声で、…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(10)~

「凄いのぅ……これ、朱桜ちゃんのものじゃろう? やっぱり、お姫様じゃのう」 白月が、言った。 「でっっっっけぇ!」 光が、言った。 「……まぁ、そ、そですかね……」 朱桜が、言った。 三者二様。 段々、 雛壇、 雛人形。 大きな、大きな、雛人形。 お雛様に…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(9)~

くつ、と、笑みを浮かべていた。 壁にもたれ、悠然と腕を組んで。 嬉しそうに、女は笑みを浮かべていた。 子供が、遊んでいる。 広い、空間。 三人の、妖の子供。 今は、頭を突きつけ寝っ転がって、ぺたぺたお絵かきの真っ最中。 あちこち絵の具撒き散らし、…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(8)~

傷が、疼く。 じっと、されるがままになっていた。 「傷……あまり、変わりありませんね」 女が、男に巻かれていた布をほどいていく。 どちらも、寝具の上に腰を落としていた。 男は、上半身裸であった。男の、心の臓。 その場所に、惨々とした傷があった。 溶…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(7)~

三つの、宝剣。 大通連、 小通連、 釼明。 それを、そっと鬼姫は撫でていく。 小太刀――小通連が、嬉しげに宙を踊る。 大太刀――釼明が、早く鞘から抜けと訴えるかのように、鬼姫の前をふらふらと。 巨大な巨大な刀――大通連は、小刻みに小刻みに身を、震わせて…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(6)~

「……小鈴、さん」 「そう、小鈴!」 呆気に、とられていた。西の鬼達が、呆気にとられていた。 そんな中、小鈴とあくまで名乗る女は、軽やかな足取りで女の子に近づいた。 それから、 「あら?」 そう、声を漏らした。 可愛らしい声であった。 「虎熊さん………

あやかし姫番外編~鬼之姫と(5)~

次に門をくぐったのは、かみなりさまの、男の子。 朱桜が手を振ると、ちょっと照れながら手を振り返した。 それから、ずらっと居並ぶ鬼を見て、あんぐりお口を開けてしまった。 「……」 「どうしたのじゃ、光? そんなに呆けた顔をして」 「どうしたの、光く…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(4)~

鬼が緊張していた。 一言も発さない。 いったい、 何年、 何十年、 何百年振りだろうか。 この城を、訪れるのは。 ――大妖。 絶大なる力を誇る、妖の中の妖。 土蜘蛛の翁―― 鞍馬の大天狗―― 玉藻御前―― 鬼ヶ城の主、酒呑童子。 そして…… ――西の鬼姫、鈴鹿御前…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(3)~

「ふーむ」 牛鬼―― 鬼の頭に、蜘蛛の身体。 丁度、名の通り、牛ほどの大きさ。 その牛鬼は、牛車を引いていた。 宙を、歩む。ゆっくりと、歩む。 ぞわり、ぞわり―― ふわりと、大江山に、その八本の足を落とした。 もぅと、一声、吠えた。 それと同時に、牛車…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(2)~

「お勉強ねぇ」 「お勉強ですよー」 次の日、またまた同じ部屋。 同じように、鬼の娘。足を投げ出し、本を広げて。 そして、四人の、鬼。 囲碁を打っている者や、寝そべっている者や、女の子と同じように本を広げている者や。 小さな女の子と、男が四人。男…

あやかし姫番外編~鬼之姫と(1)~

「なに、してるんだ?」 「お勉強ですよー」 「ふーん」 大江山。 西の鬼々が集う豪華絢爛鬼ヶ城。 その、中程に位置する一部屋。 男が、いた。美しい鬼が、いた。 顔を覗き込んだ。 女の子の、顔を。 小さな角を額に生やした女の子。 鬼の、娘。 本を広げて…