小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫(16)

あやかし姫~猫(11)~

勝利を確信した。 強かった。切り札を使わされた。それでも、自分達の方が強かった。 同胞の仇討ちはなった。 妖狼だろうと、人の娘だろうと、全てを穿つ必殺の一撃。 偉大なる古き神々の力を宿す――宝具。 ――金王鳥の面。 ――風神猿の扇。 ――三頭狼の骨。 ――…

あやかし姫~猫(10)~

火羅は、相手の出方を窺がった。 元々、火羅の戦い方は待ちに徹することを軸にしていた。それは、弱小の妖狼族を率いる者として、知恵を絞り策を講じ耐え忍びながら勢力を拡大させる際に身に着けたものである。 太郎や葉子とは根本が違う。激しやすく危い人…

あやかし姫~猫(9)~

鬼姫の技が、大角を生やした男に片手で払われた。 務めて冷静になろうとしていた姫様の掌に、じんわりと汗を噴き出した。ああなった朱桜の攻撃を、簡単に防げるものではないのだ。 小妖達に宇嘉達を呼ぶように伝えると、どうしたものかと考える。 自分が狙わ…

あやかし姫~猫(8)~

削ぎきれると、思った。 真達羅という妖虎は、自分を捕えられない。 虎面人駆の身体は満身創痍である。 大きな盃を杖代わりにして立つのがやっとに見えた。 「こすい手を使いおって。堂々とわしの前に立たぬか!」 「堂々とは、何だ? お前の得意な戦い方で…

あやかし姫~猫(7)~

黒之助から、元検非違使が現れたと報せが届いた。 だからといって、黒之丞の日常は変わらない。検非違使は脅威だが、こんな片田舎に流れ着くぐらいであれば、大したことはないだろうと踏んだ。勿論、この地に巣食っているのは、ただの流れ者とは言い難い面々…

あやかし姫~猫(6)~

また、猫が鳴いている。 嬉しげな響きだった。 喉をくすぐられ、その掌を掴まれても、されるがままになっている。 風格のある、大きな門。 その柱の前で寝転がる猫。 それは、ある日の穏やかな景色。 まだ、猫が幸せであった頃の光景。 「今日は、引っ掻かれ…

あやかし姫~猫(5)~

姫様は、寝床から起きようとする宇嘉をやんわりと制して額に触れた。 熱は和らいでいる。 心配そうな美鏡と太郎を見やり、大丈夫でしょうと言った。 「薬が効いたようです」 「宇嘉様が熱を出すなんて、初めてで」 美鏡は、見ていて可哀想になるほど憔悴して…

あやかし姫~猫(4)~

「火羅は、偉い人だったですよね?」 突然、朱桜が尋ねてきたのは、朝餉の片づけをしている時だった。姫様が稲荷の童の許から帰ってこなかったので、渋々二人で洗い物をすることになったのだ。 手を動かしなさいよと軽口で返そうとして、思いつめたような表…

あやかし姫~猫(3)~

「お主は、検非違使が怖くないのか?」 「私が何かを恐れるように見えるか?」 「……否でござるな」 買い被らないでくれと、なずなは言った。 「綱姫は怖い。あとは、金時だな。お前も知っている通り、相手にするのが面倒だ。しかし、検非違使全体を見回せば…

あやかし姫~猫(2)~

沙羅の思考は、目の前の情景についていくことが出来なかった。 化粧咲きの山桜を月心と一緒に見に行った帰りである。 月心の知人と思しき男が現れ、刀を突き付けられた。 妖怪だと見抜かれているらしい。 滅すると言っている。腹の底が煮え立つような殺気を…

あやかし姫~猫(1)~

猫が鳴いている。 物悲しい響きである。 姫様は、宇嘉の手を握りながら、その様を眺めていた。 周囲は薄暗い闇で包まれており、二人と猫の身体だけが仄かな光を帯びている。 闇に慣れてきたのか、品の良い調度品が目に入った。 見覚えのない場所だが、吟味さ…

あやかし姫~稲荷童~

仄暗い夜、草木も眠る丑三つ時――妖達の騒がしい時間。 小妖達に囲まれながら、姫様は書き物に勤しんでいた。 「あの子の名前は、何と言うのですか?」 そう朱桜が口にして、姫様はさてと首を捻り、筆を置いた。 寝床で徒然と書き物をしていた姫様は、そうい…

あやかし姫~夕立~

叩き付けるような雨であった。 大人が三人ほど腕を回せるであろう大きな檜の下に入れなければ、姫様も太郎も濡れ鼠になっていただろう。幸いにして、本降りとなる前に、天然の傘に駆けこむことができた。 「降ってきましたね」 「うん」 空が暗い。分厚い雲…

あやかし姫~お風呂日和~

「お風呂をどうにかしたいですか」 姫様は、そう、縁側に座る彩華に言った。 「この人数では手狭になっておる。妾は待つのが嫌いでな。それに、男女共用なのも気にくわぬ」 姫様に始まり、頭領、太郎、葉子、黒之助、彩華、火羅、朱桜、美鏡、稲荷の姫、これ…

あやかし姫~姉妹問答~

人が増えたことで、それなりに気苦労も産まれると身構えていたが、せいぜい火羅と朱桜の諍いぐらいのもの。大人数で騒がしかった小妖達と暮らしていたからか、新しい生活にもすぐに慣れることができた。 ただ一人。 双子の姉を除いては。 「お悩み事なのです…