小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫(6)

あやかし姫~お正月~

「姫様、元気だねー」 「昨日あんなに皆で騒いだのになぁ」 「うんうん」 姫様、背筋を伸ばしてすたすたと歩いていた。 艶やかな振り袖姿。 よく、映える。道行く人々の視線を集める。 長い髪に、簪を挿していた。 それがまた、姫様によく似合っていた。 三…

あやかし姫番外編~鈴と鈴鹿と俊宗と~

縁側で足をぶらぶらとさせる女が一人。 森を見ていた。木々の葉が落ち、寒々しい。 遠くに映る山々は、うっすらと雪化粧を身につけている。 獣が、啼いた。 一つ、二つ。 女の眼が、炯々と光った。二つの、薄緑色。 それは、すぐにやんだ。 女は、そっと、自…

あやかし姫~初雪~

うっすらと雪が積もっていく。 初雪。 いつもの古寺の、いつもの縁側に座って、ぼおっと、それを眺めていた。 庭が、白装束を纏っていく。 まだ秋の香を残す葉々が、白装束を纏っていく。 吐く息が、白装束を纏っている。 星々を従え、半月が嗤う。薄雲の合…

あやかし姫~迷いの森(終)~

「うっ!」 両腕をあげた。咄嗟であった。 不思議と、姫様は怖くはなかった。 もう一つ腕が重なる。 そして、さらに、小さな影。 「や!!!」 音がした。叩く音、叩かれる音。 大きな音。 何かが、木にぶつかる音。 めり込む、音。 何かが滑り落ちる。 何か…

あやかし姫~迷いの森(4)~

ぽんと、煙が起こった。 闇が動きを止めた。 朱桜と沙羅が目をまあるくする。 姫様が、よし、といった。 闇が、怯む、後ずさりする。 煙が、晴れる。 姫様のかざした手の平。そこにはもう、なにも書かれていなかった。 「わん」 「……」 「……」 「……」 一瞬、…

あやかし姫~迷いの森(3)~

「長いな~」 姫様がそう、いった。左手に朱桜の小さな手。 その背中には沙羅がおどおど隠れながら。 どれほど、歩いただろうか。距離も、時間も、わからなかった。 「ねえ」 姫様が、明るくいう。自然な明るさ。いつもの、姫様。 二人の、暗い顔とは対称的…

あやかし姫~迷いの森(2)~

切り株の上でぼーっと一休み。 一休み、二休み、そのまま、お休み。 古寺の頭領、いつものようにおさぼり中。 「なにかあるじゃろ」とはいったものの、あまりにも見つからないので、面倒になってしまったのだ。 そうなればやることは一つだけ。 身体を動かさ…

あやかし姫~迷いの森(1)~

「あんまり、ないねえ」 「そうですね……」 枯れ葉が、積もる。落ち葉が、積もる。 積もって、積もって、朽ちていく。 肌寒い日。ともすれば、白い息がその目に映る。 秋の終わり。 夕日が色濃く、空を染める。 「もう、おしまいにしようか、朱桜ちゃん、沙羅…

あやかし姫~蟲火(終)~

神無月の、終わり。 小太郎がやって来て、七日目。 姫様は庭にいた。 洗濯物を干していたのだ。 冷たく乾いた風が、姫様の長い髪を攫う。 もう、虫の音も少なくなって。 「うー、寒い」 目を細め、その小柄な躯をぶるっと震わせた。 手のひらをすり合わせる…

あやかし姫~蟲火(4)~

神無月。 小太郎が来て、三日目―― 姫様達は、居間にいた。 大きな机。 そこに、姫様は正座していた。 黒之助が、柱にもたれ掛かり本を読んでいる。 妖達が、ぱらぱらと周りに散らばり静かにしていた。 机の上には、大きな箱と小さな箱。筆や、和紙。 姫様は…

あやかし姫~蟲火(3)~

「姫様、もう遅いし、そろそろ寝よっか」 夕ご飯を食べて、のんびりとする姫様。 もっぱら、小太郎と一緒にいて。 微笑ましい光景、なのだが、あいも変わらず小太郎は姫様と太郎以外に慣れなくて。 そんな幼子に内心複雑な気持ちを抱きながら、そろそろ、と…

あやかし姫~蟲火(2)~

妖達が居間に車座になっている。 古寺の妖のほとんど――頭領を除いて――がそこにいた。 銀狐の葉子、烏天狗の黒之助は半人半妖の姿。 銀色尻尾に銀色お耳、黒い羽根。 困惑した表情を浮かべていた。 妖狼太郎は、興味なしと、部屋の隅っこで尻尾を見せて。 こ…

あやかし姫~蟲火(1)~

静かに本を読んでいる二人。 すらすらと、読み進める少女。 雪のような白い肌に、長い長い黒髪が、艶やかに。 薄い藍色に、壱羽の揚羽が描かれた着物を身につけて。 ゆっくりと、随分と薄い本をめくっていく若い男。 無造作な髪、犬のような雰囲気。 ともす…

あやかし姫~お月見~

秋が深まっていく。 時折、肌寒さを覚えるほどに。 いつもの古寺。 庭で黄金色のすすきが揺れている。 水の跡が、ぽつぽつと。 灯りが、漏れている。 今宵は――十六夜。 まあるいお月様が、輝く星々とともに、空に浮かんでいた。 「まったく、わざわざ昨日雨…

あやかし姫~秋の花(2)~

「すごい、ですね」 「……うん」 「なに……これ……」 舞い踊り、舞い散る、桜の華びら。 色艶やかな桜が、咲き乱れていた。 今の季節は、秋。 その証拠に虫達の鳴き声は秋の音色。 でも、桜は咲いていた。 姫様が、そっと花びらを手に取る。 本物、だった。幻で…

あやかし姫~秋の花(1)~

いつものいつもの古寺。 夏は去り、秋が来て、山の色が姿を変えていく。 庭の草木も、同じように。 「やっぱり、涼しいほうがいいよね」 「……」 銀狐葉子が縁側に腰掛け嬉しそうに姫様に。 姫様は答えない。口を閉じてにこにこと微笑みを浮かべているだけで…