小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫(4)

あやかし姫~蛍火~

夜道。滴が、ぽたりぽたりと木々から落ちる。 蛙の鳴き声がする。 姫様が持つ虫籠の中には、黄色く動く光が一つ。 ぽっぽと、姫様と太郎の前を、青白い火の玉が揺らめいて。 「もうすぐだ」 「もうすぐ?」 「ああ。そこを曲がれば、ほら」 河原が見えた。 …

あやかし姫~蛍~

姫様、目をぱちくり開ける。 薄い掛け布団を、静かにどける。 ゆっくりと、身体を起こし、ゆっくりと、闇に目を慣らす。 葉子が自分の掛け布団を蹴飛ばして、壁に転がっていた。 耳と尾っぽ。ちょこんと姿を見せていた。 葉子の寝息だけが聞こえる。 神経を…

あやかし姫~かき氷~

湿っぽい風をその身に受けて、風鈴が可愛いらしい音を古寺に響かせる。 じとっとした暑さ、しとしとと降る雨。 屋根の下にぶらさがっているてるてる坊主。日の光にその色を変えて。 古寺の姫様彩花はうちわをぱたぱたさせながら、部屋で皆とゆったりくつろい…

あやかし姫~梅雨~

小さな山の、大きな古寺。 木々に囲まれ、静かに佇む。 そこには、幾多の妖達と一人の少女が暮らしていた。 「う~、じめじめする~」 「べたべたする~」 「する~」 「梅雨って、嫌い」 「うん」 「うん」 古寺の庭を望む縁側に、何匹もの妖が。 ある者は…

あやかし姫~鬼姫、暴走(4)~

「すばしっこいねえ」 少女は、肩で息をしていた。 こきこきと、鬼姫が首を鳴らす。 溢れていた膨大な妖気は、全て自分の中に収めて。 鬼姫は、結局楽しんでいた。 「ほらあ!」 「にゃあ!!!」 「これは……一体?」 彩花と朱桜。砂埃舞い立つ大広間へ。 「…

あやかし姫~鬼姫、暴走(3)~

「なんだこれは……」 転々と散らばり倒れ伏し、泡を吹いている鬼達。 大獄丸が、あぜんとしていた。 「ど、どうしたら……ムギュ!」 大獄丸をよびに来た鬼も気絶した。 鈴鹿御前の妖気にあてられたのだ。 大獄丸も、歯を食いしばり必死に耐えていた。 「鈴鹿………

あやかし姫~鬼姫、暴走(2)~

「俊宗ー」 とんとんと鈴鹿御前が部屋の戸を叩く。 部屋の中には布団を頭までかぶり、うつぶせになって寝ている若い鬼。 鈴鹿御前の夫、藤原俊宗である。 もぞもぞと、鈴鹿御前の声に反応するかのように布団が動き出した。 うーん、鈴鹿がよんでる。 今、何…

あやかし姫~鬼姫、暴走(1)~

「どう、彩花ちゃん。調子の方は?」 「う~ん、元気です。前と変わりないですよ」 「そう、なら良かった」 「あの……こんにちわ」 「や、朱桜ちゃん。どう、親父殿は?」 「父さまは……特に変わりないです」 「そう」 古寺の姫様彩花。西の鬼の王、酒呑童子の…

あやかし姫~お帰り~

太郎の傷が癒えるのには時間がかかった。命を、落としかけ、いや、落としていたのだから。 ずっと、姫様と咲夜と磨夜が看病した。 たまに、黒い狼が太郎に近づき、何も言わずに立ち去る。 その繰り返し。 太郎が姫様に、 「寂しくないのか? みんながいなく…

あやかし姫~輝き~

太郎の胸に顔をうずめる少女を見て、妖狼達は困惑していた。 急に現れたこの少女が、何者か、害のある者かどうか分からないのだ。 「離れていて、下さい」 少女が、顔を上げ言った。 「?」 「離れて!」 凛とした声。 妖狼達が離れていく。 「そう、離れて……

あやかし姫~泣くな~

「太郎さん!太郎さん!」 血溜まりに一人の少女が現れた。 どこからともなく現れて、倒れ伏した狼の元に駆け寄る。 遠くから見ていた妖狼達も、近くにいたヒヒも、驚いていた。 一体この娘は何者で、どこから沸いてきたのかと。 「いや! 返事して! ねえ、…

あやかし姫~血戦、終了、姫様~

「おうおう、この程度か?」 五十はいた妖猿の群れ。 残りは既に十ばかし。 生きている者は、太郎の強さに怯んでいた。 「お前達……十殺陣」 ヒヒの言葉にキイっと返事すると、妖猿達はくるくる太郎を回りはじめた。 そして、一斉に地を走り、太郎を襲った。 …

あやかし姫~血戦、開始~

「きゃっきゃっ!」 「きっ、っき!」 妖猿共が、鳥居をくぐる。 ばっと赤い血が飛んだ。 仲間が盛大に血飛沫をあげるのを眺めた。 動けなかった。 「あ……」 「三吉ー!!!」 「おうおう、数だけは多いな」 妖狼太郎。 口を赤く染めている。 妖猿の喉元を、…

あやかし姫~襲来~

「何故、あの男を呼んだ?」 一対一。黒い狼と小さな狼。 その二頭を、妖狼族が囲んでいる。 咲夜は、うなだれていた。 きっと顔をあげると、黒い狼に言った。 「父上、父上はこの村は滅んでもよろしいのですか」 「よくはない」 「今夜、またあの者達が来て…

あやかし姫~宣言~

「咲夜様!その男は!」 「咲夜様!何故そのような……」 村の中央に位置する広場。 そこに妖狼達が、集まっていた。 怪我をしているものがほとんどで。 近づいてくる二人の姿を視界に捉えると、皆咲夜の姿に安堵の表情を浮かべ、皆太郎の姿に困惑の表情を浮か…

あやかし姫~太郎の里帰り~

嫌いだった。 太郎は自分の生まれ故郷が嫌いだった。 二度と戻ることはないと思っていた。 金銀妖瞳を爛々と光らせる真っ白い大きな狼。 その傍らには真っ白い小さな狼がぴったり寄り添って。 「兄様、もうすぐです!」 「知ってるよ、俺もあそこにいたんだ…

あやかし姫~妖狼の理由~

大きな狼が暗闇の森を駆け抜ける。 牛ほどの大きさ、怪しく光る金銀妖瞳。白い風が、するりと木々の間を通り抜ける。 妖狼、太郎である。 その後を、小さな狼がはあはあ息を切らしながら、必死に追いかけていた。 「疲れたか?」 「いえ、そんなことないです…

あやかし姫~豹変~

泣いていた、女の子は泣いていた。 古道具の妖、付喪神が周りでおろおろ。 庭で寝ていた大きな狼が、その泣き声を聞きつける。 すぐに姿を消し、女の子の前に現れた。 「どうしたい、彩花ちゃん?」 「いないよ、とうりょうさまもようこさんもクロさんも・・…

あやかし姫~まだ、~

ぼ~っと、自室に座り、本を手に持つ娘が一人。 部屋には他に誰もいない。 姫様は、本をその手に持っている。 持っているだけだった。 誰かが、姫様の、自分の部屋の戸に立った。 姫様は何も反応しなかった。 そっと部屋の戸が開けられていく。 姫様はじっと…

あやかし姫~帰ってくるもの、こないもの~

「・・・」 なんだろう・・・なんで、にやにや笑ってるの? 「玉藻様・・・どうしました?」 「い~や、何にもないよ。なあ木助」 木助もいたのか。 いるよね、あの子が、私に挨拶しないわけないもんね。 「ええ」 木助もにやにや笑ってる・・・・・・ 二人…

あやかし姫~狐の、姉妹~

遠き大陸の、遠い祖先に玉藻御前が歌を捧げる。 段々と、人の姿が解けていく。 玉藻御前の本性、巨大な九尾の狐が現れる。 銀毛の尾が五、金毛の尾が四。 大狐の甲高い声。 黙って、それを聞く。 長い、哀しい歌が終わったとき、儀式は終わる。 大陸の、祖先…

あやかし姫~烏、帰る~

うつらうつら。 厚手の着物を羽織り、一枚の皿を傍らに。 皿の上には串が二本。 姫様彩花は座ったまま寝息をたてていて。 そろり、 そろりそろり、と誰かが古寺の門より入ってくる。 古寺の灯りを避けるように、闇に溶けて。 姫様の寝息が、止まった。 ぴく…

あやかし姫~お出かけ、帰りはじめ~

白湯気たてる土作りの杯二つ。 一人は八霊、古寺の頭領。 一人は全身真っ白の丸い毛の玉。 三つの眼が、きょろきょろ動いている。 二本の足で座り、二本の手で杯を持ち、残りの四本の手が手持ちぶさたに空を蠢く。 八本の手足は虫のそれ。 土蜘蛛。 洞窟を作…

あやかし姫~それぞれの、~

男と子供。 二人手をつなぎ、小さな庭の小さな小さな石の前に。 石には、何か字が彫ってある。 庭の草花が、石を飾り立てるように咲いていた。 「これが、父様?」 女の子が口を開く。 「そうだ、これだ」 男が、答えた。 男の額には角があり。 美しい、鬼。…

あやかし姫~お出かけ~

今日のお寺は朝から静か。 「静かですね~」 春の光が差し込む縁側で、姫様足をぶらぶらさせていた。 ほとんどの妖が前日の夜、寺を出た。 今、寺に残っているのは姫様彩花と・・・・・・ 「みんなが出て行っちゃうと・・・なんだか、寂しいですね」 「姫様…