小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

小説-あやかし姫-第十話~(太郎と黒之助)~

「なんで泣きやまないんだよ!」
「わからん」
 赤ん坊を抱えた男と隣で腕組みした男。太郎と黒之助はどうしたものかと頭を抱えていた。
 本来彩花の世話をするのは葉子の役目。二人は遊んでやりこそすれ、葉子に世話を任せっきりだった。
「なにか悪い病気とか」
「まさか」
「あの~」
 手足のある湯飲みが二人に話しかけた。湯飲みは寺に住まう妖で、付喪神である。
「なんだ?あ~、湯飲み一、だっけ」
「あたいは湯飲み二ですが。赤ちゃん、お腹空いたんじゃないですか?」
「あ、なるほど」
「台所になにかあるといっていたような」
 赤ん坊の声が、大きくなった。
「とりあえず、探しにいくぞ」
「お、おお」
 二人で台所に急ぐ。赤ん坊を抱えて。湯飲みがそれを見送った。
「あれが太郎さんとクロさんかよ・・・・・・」
「なんだか不思議な感じだな」
「湯飲み一、お前もそう思うか」
「思うぞ湯飲み二よ」
「だよな」

「とりあえず泣きやんだようですな」
 赤ん坊はほ乳瓶をくわえて満足そう。二人には少し疲れが見えて。
「ちゃんと用意してくれてたんだな、葉子」
「・・・・・・いわれたような気がする」
「黒之助もか・・・・・・。他になにいわれたっけ」
「覚えとらん」
 色々言われたような気がする。するのだが思い出せない。葉子と頭領が出かけると知らされたとき、二人はしこたま飲んでいた。話を聞いているときもふらふらの状態だったのだ。
「前日に知らせがくるとかないよな」
「本当急だったな」
「・・・・・・」
「よし!」
「どうされた?」
「先に全部用意しちまおうぜ」
「・・・・・・いい考えですな」
「なら手分けして探すぞ」
「御意」
 二人は赤子をみる。お腹いっぱいになったのだろう、にこにこと笑っていた。
「この子はどうする?」
「どうするって・・・・・・俺が預かっておくよ」
「おぬしが?」
「なんだその口調は」
「・・・ぬしでは心配だ。さっきのように拙者が預かろう」
「さっきってなんださっきって?」
「拙者が預かっていたではないか」
「抱えていただけだろ」
「ああ!?」
「てめえみたいな堅物には彩花ちゃんは似合わないっての」
「ぬしのような不真面目な男よりはましだろうよ」
 両者の顔に青筋がたった。
「・・・一戦交えたいんだな」
「・・・よかろう」
 部屋に緊張が走った。

「ああよしよし、泣いちゃ駄目ですからね~」
「クロさん、太郎さん、喧嘩はよして下さいよ」
「今日は頭領がいないんですよ」
 彩花がぐずりはじめていた。妖達が周りに集まっている。
「喧嘩するの、やめとくか」
「さすがにいまは不味いか」
「・・・・・・」
「こいつらにやらせるの、どう?」
「なるほど、いい考えだな」
 妖達が、ざわめいた。
「なんですかそれ」
「お二人の仕事でしょう?」
「ずるいやいずるいやい」
「おいら達が見ているから二人でやって下さいよ」
「黙れ」
 にこやかにきつく。それは二人が同時に発した言葉。場が静まりかえるのだった。
「・・・やります」
「やれせていただきます」
「やらせてください」
 妖達がぱっと散る。残されたのは二人と赤子。
「しかしあれだな」
「なんだ」
「俺達大喧嘩すること最近ないな」
「そういえばそうだな」
「・・・・・・」
「この子が来てからか」
「やっぱ、恐がられるのはいやだよな」
 二人はよく喧嘩をした。寺を半壊させたこともある。頭領が止めても聞かないことも。それが最近ではほとんどなくなった。赤ん坊が寺に来てから。
「皆変わりつつあるのかな」
「?」
「拙者とぬしもそうだが、他の妖もだ」
「そうか?」
「そうだと思うぞ」
「ん!?」
「どうした?」
「臭いがする・・・」
「臭い・・・あっ」
「やっぱし」
 赤ん坊のおもらし。すぐに取り替えてやらねばならない。またぐずりだした。
「おしめの取り替えかた・・・」
「俺やり方しらねえぞ」
「拙者もだ」
「とにかく」
「手探りでやるしかない、と」
「ちゃんと話聞いてればよかった」
「しみじみと実感するぞ、その言葉」
 妖達が戻り始めた。
「皆でやるか」
「そうだな」

 夜。なんとか無事にきた。皆ほっと一息。一安心。
「結構慣れたな」
「うむ、矢でも火でももってこい、だな」
「本当ですかい?」
「本当だ」
「本当かな~」
「・・・・・・いぬ・・・・・・」
 ぽつりと落ちた言葉。
「だ、誰が犬だ!!!」
「あたいらがいったんじゃないですよ」
「んじゃあ誰だいったのは!!!!!?」
 それは赤子がもたらした言の葉で。目をまんまるとする妖達。
「も、もう一回言ってくれ」
「・・・いぬ・・・」
「しゃべった・・・」
「すげえ」
「いぬだって」
「太郎さんのこと?」
 太郎が赤子を抱きかかえると、赤子は楽しそうにもう一度いった。
「いぬ」
「おおー!!!!!!」
 黒之助がばっと赤子を取り上げた。じっと顔をのぞき込む。
「は、お前さんにはないって・・・」
「からす」
「おおー!!!!!!」
「よんだ・・・」
「もしかして初めてしゃべった?」
 うんうんと妖達がうなずく。
「葉子よりも頭領よりも先に俺達のこと?」
 うんうんとまた妖達がうなずいた。
「俺達、すごくねえ?」
「・・・・・・」
「どうした、黒之助?」
「いや、うれしいな」
「うれしい、か」
「お主は?」
「うれしいに決まってるじゃねえか」
「そいつはよかった」
「俺が先に言ってもらったからな」
「拙者が二番目だ」
「よろしい」
「・・・・・・やっぱり変だ」
「ああ?」
「赤子に一喜一憂、か」
「そういうのもいいんじゃねえの」
「いいか」
「いぬ、からす!」
「はいはい」
「・・・・・・またおもらしか」
「夜は長いぞ」
「うん」
「葉子ってすごいな」
「同意」
「じゃあ、やりますか」
「おお」