小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

小説-あやかし姫-第九話

 それは昔々の物語。寺に赤ん坊が拾われてしばらくのこと。

 
 庭で花咲くたくさんの煙。色鮮やかに咲くそれは、寺のものには迷惑で。
「なんでこんなに煙が・・・って葉子の仕業だな」
 妖狼太郎。金銀妖瞳を持つ妖は、朝早くから煙に燻され。それはそれは不機嫌に。
「葉子!やめねえか!」
 それでも煙は止まらない。ぽんぽん小気味よい音を立て、様々な色で咲き誇る。
「黒之助」
「承知」
 呼ばれて飛び出た烏天狗は、手にもつ団扇で大きく扇ぐ。猛烈な風が、鮮やかな煙を吹き飛ばした。
「こほ、こほ、何すんだよ!」
 煙の中から現れたのは、金銀宝石細工の施された着物を着た女。名を葉子といい、九尾の狐、妖である。
「・・・・・・どしたのその格好?えらいまた・・・・・・」
「派手ですな」
 それは見慣れた姿とは大分違う。普段地味目な着物を身につけている狐だが、今目の前にいるのは豪華絢爛といった感じ。
「派手?そうかな、だいぶ抑えてるんだけどね」
 くるりときらやかな姿を翻す。きらきらと光を反射させながら。
「それでかよ・・・・・・」
 小さな声で、葉子に聞こえないように。口に出したのは太郎だが黒之助も同じことを考えていた。
「いくつも煙をたてていたのは?」
 葉子と太郎は変化の度に煙をたてる。何度も変化すれば煙がたくさん起こるのだ。
「そんなにたってた?全然気づかなかったよ。服選ぶのに夢中でさ」
「あ・・・・・・そう」
 太郎がちょっとあきれ顔に。
「どこかへお出かけですかな?」
「は?」
「いや、何度も着替えていられるとのことなのでどこぞへお出かけになるのかと」
「・・・・・・」
「どした、葉子?」
「あんたら、昨日言われたこと覚えてないわけ?」
「へ?」
「昨日?たしか・・・・・・」
 頭領を含めた四人でちびちび酒を飲んでいて・・・・・・
「そうそう、葉子が一族の集まりにでるって言われたな」
「頭領もそれについて行くと言われましたぞ」
「あれ?」
 つまり二人が寺を留守に。引っかかることがあった。それは最近増えた住人のこと。
「あの赤ん坊の世話は?」
「あんたらに任すっていっただろうに・・・・・・」
「え」
「そ、そんなこといわれた覚えは・・・・・・」
 二人がう~んう~んと考える。
「あ」
 思い当たる節があったようだ。
「頭領!」
 老人が庭に顔を出した。
「葉子、支度はできたか?」
「こんなもんでいかがでしょうか?」
「ふむ、よく似合っておるよ」
 ちょっと派手過ぎる気もするが、あえて触れないでおく。実際良く似合っている。
「まだ地味な気もするんですがね」
「・・・・・・」
「あ、あの、頭領」
「お前達、彩花のことよろしく頼むよ」
「・・・え、ええ」
「さ、そろそろいこうかね」
 そういって、頭領が蔵のほうにいく。葉子もそれについて行った。
「・・・・・・」
 二人はまだ固まっていた。赤ん坊の世話など二人ともしたことがない。
 蹄から青い炎をだしながら、頭領の鬼馬が飛び上がるのが見えた。
「いってしまわれた・・・」
「・・・どうする」
 赤ん坊の泣き声が聞こえた。寺の中が騒がしくなる。
「と、とにかく泣きやまさせよう」
「お、おう」
 二人が寺に走り込んでいった。

「大丈夫ですかね、あの二人」
「一応、教えたんだろう?」
「ええ、一応」
 二人は優秀な生徒とはいえなかった。
「あの二人ならうまくやるさね」
「だといいんですが」
「な~に、大丈夫さ。それ、少し上げるよ」
「え、ちょっと頭領!?」
 それは少しではなかった。景色が過ぎるのが速くなる。
 葉子は死ぬ、そう思った。たどり着く前に死ぬ、と。
「ちょっと調子悪いね」
 そういう頭領はむすっとしていた。
 思ったより遅いらしい。
 とりあえず、頭領と同じ馬に乗るのはやめようと葉子は思った。