小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

第二話の2

「もしも~し」
 十兵衛が庭でたむろしている連中に話しかける。
「誰だ!」
「いや、怪しい者じゃないですよ」
「怪しい!」
 十兵衛はどっちも怪しいのだろうな、と苦笑いする。なるほど、格好は忍びのようだが皆背が低い。声も子供のようだ。
「お前ら、伊賀組のもの?」
「違~う!」
「我ら!」
「真田の忍なり!」
「言っていいのかよ・・・・・・」
 右助がつぶやいた。
「あ・・・・・・」
 慌てている。こいつらアホだと左吉は思った。
「か、かくなるうえは・・・・・・」
「やっちまうの?」
「いいの?」
「いや、だって・・・・・・」
 悩むところかとおせいは思った。
「しょうがないじゃん、とりあえず朝まで眠っててもらおうよ」
「そうだね」
「じゃあ、朝まで眠っていてもら・・・・・・」
 そう言った奴がふっ飛ばされた。おせいが強烈な一撃を腹に打ち込んだのだ。
「な・・・・・・」
「やっちゃっていいですよね、十さん」
 もうやっているだろうがと苦笑しながら十兵衛が答えた。
「いいよ、あんまり怪我させるなよ」

 一方的な展開だった。三つの嵐が荒れ狂う。一人減り、二人減り・・・・・・またたくまに全員が伸びてしまった。抵抗らしい抵抗もさせなかった。その間、眠そうに十兵衛は座って見ているだけだった。
「いや、早かったね」
「十兵衛殿も手伝って下さいよ」
 拳をふりながら右助が言う。
「いやだよ、怪我したくないもの」
「むー」
「どうしましょう、こいつら」
 折り重なった忍達を指さす。
「う~ん、それは・・・・・・そこの人に聞いたらいいんじゃない」
 そうやって屋根を指さす。屋根の上に一つの影があった。
 その影が地面に降り立つ。おせい達が十兵衛を守るように二人の間を遮る。
 影はじっと十兵衛の顔を見ていた。
柳生十兵衛三厳殿とお見受けする」
「・・・・・・」
「猿飛佐助でござる」
「ああ、佐助殿か」
「覚えていてくれましたか」
「ええ、まあ」
「しかし、相変わらずお強い方々ですな」
 佐助はおせい達の方に目を移す。三人は油断無く身構えていた。
「こちらには何のようで」
「いや、馬鹿弟子達が江戸を見たいというのでな。修行ついでにいかせたのだが・・・・・・」
「・・・・・・許可取ってませんよね?」
「ばれなきゃいいと思ったんですがね」
「ばれたら大事になりますよ」
「そうですな、いや、家光殿にばれるとは思いませなんだ」
 かかかと笑う。笑いながら、伸された連中のほうに移動する。
「ほれ、起きんか馬鹿共」
「師匠!?」
「お師匠さま!?」
「父上・・・・・・」
「どうだった、江戸の様子は?」
「人が多かった」
「建物が大きかった」
「食い物美味しい」
 ふむふむと佐助が頷いている。
「絶対遊びに来てるぜ、あいつら・・・・・・」
「さてと、これにておさらばしたいのですがよろしいですかな?」
「どうぞどうぞ」
 いいんですかとおせいが目で訴える。かまわないと十兵衛は頷く。
「それでは」
 十一の影がその場から消えた。
「いやはや、佐助殿まで来ているとは・・・・・・」
 十兵衛は汗びっしょりだった。
「なんですか、あれぐらいで怖じ気ついたんですか」
「だってずっと殺気をたたき込んでくるんだよ」
 怖いじゃないか、と続ける。
「怖いって・・・・・・もうちょっとしっかりして下さいよ」
 無理無理と首を振る。ついでに手を貸してくれと言う。起きあがれないらしい。
「はいはい」
「まあ、これで家光様に報告出来るわけで」
「なんて報告するんです?そのまま行かせちゃったし」
「あれは行かせたほうがいいでしょ。報告は真田の忍者が遊びに来ていたって言っておくよ。あとは家光様にお任せするさ」
「十さん、今回もなにもしてませんね」
「情けなや」
「情けなや」
 二人が続ける。
「・・・・・・」
 すねているらしい。
「ああ、そんなにすねないで下さいよ」
「・・・・・・早く帰ろう・・・・・・」
「そ、そうですね」
 三人に慰められながら、とぼとぼと十兵衛は夜道を歩いていった。