小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

第二話の1

「う~、ちょっと寒い」
「そうですね」
「早く終わらせたいよ」
「うんうん」
 十兵衛一行は、将軍家光の命によりボロ屋敷にいた。
 家光の手紙には、人の住んでいないはずのある屋敷に最近妙なことがおこるので、調べてほしいというものだった。具体的には、夜遅くに明かりが点いていたり大勢の話し声が聞こえたり。
 周りの住人が気味悪がっているのを、たまたま通りかかった家光が聞きつけたらしい。
 手紙を読んだあと、十兵衛達はすぐにその場所に向かった。そこで、おせい達が周辺に住む妖に話を聞いたところ、
「そういや、最近騒がしいね」
 といわれた。屋敷には妖は住んでいないという。少なくとも妖の仕業ではないらしい。
 さっぱり分からないので、十兵衛達はその屋敷で一晩過ごすことにしてみたのだ。
「何が起こるのかな」
「知りませんよ」
 十兵衛とおせいが屋敷の中心に。右助と左吉はそれぞれ犬と猿の姿で表門と裏門に待機。
 そのまま何も起こることなく、時間だけが過ぎていった。
「う~、寒い。もう少し厚着してくればよかった」
「十さんがそんな夏みたいな格好でいるからですよ」
「まさかこんなところで一晩過ごすことになるなんて思ってなかったもの」
「まあ、そうですけどね・・・・・・」
 おせいが変化を解いて、妖の姿になる。巨大な化け猫。尻尾が二本。
 その姿でおせいは十兵衛に巻き付いた。十兵衛がふかふかした毛に包まれる。
「どうです、あったかいでしょ」
「うん」
「・・・・・・ちょっといいかな?」
「なんですか?」
「眠い」
「えー!」
「何かあったら起こしておくれ」
 そういうと、すぐに十兵衛は眠ってしまった。どこでも寝られるのは十兵衛の特技。
 おせいは困った。正直、この状態はちょっと恥ずかしい。すぐに止めようと思っていたのに、止められなくなった。止めたら十兵衛が風邪を引くかもしれない、起こすのもなんだか可哀想だ。
(何でもいいから、早く起こってくれないかね)
 まあ、ちょっと嬉しいのだけど。

「なんだい、あの二人。見てられないよ」
 左吉は暇だったので、十兵衛のところに行っていたのだ。
「全く、それにしても何も起こらない・・・・・・?」
 黒装束の者達と目があった。十人ばかりいる。しばらく両者が固まっている。
 左吉は少しずつ後ろに下がる。そして、急に背を向け十兵衛のところに駈けだした。
「いや、猿なんてこんなところにもいるんだね」
「見せ物小屋から抜け出してきたのかな」
「あの人のとか?」
「いや、まだのはずだよ。時間に厳しい人だし」
 別に追いかけもせず、ただおしゃべりをしている。どうも緊張感が欠けている連中であった。
「十兵衛殿、おせいさん!」
「あ、あ!?」
 おせいが慌てて巻き付きを解き、人の姿に戻る。顔が赤い。
「どうした、左吉?」
 十兵衛は平然としたものだった。
「怪しい連中が来ましたよ」
「怪しい連中?」
 おせいのほうを見る。
「おせい、気づいた?」
「い、いえ」
 そりゃあ無理だろう、あの状態じゃあねえ、と左吉は思った。
「う、右助は何やってるんですかね」
「私がよんできます」
 左吉が表門に走る。おせいもその怪しい連中とやらを見に行った。
 すぐに三人が十兵衛のもとにやってくる。
「どうした右助?頬が赤いぞ」
「いえ、ちょっと」
「寝ていたのでとりあえず殴っておきました」
「ああ、そう」
「なんだか妙な連中ですね」
「おせい、どういうことだ?」
「身のこなしはそれなりに見えるのに、どうも」
 子供みたいだとおせいが言う。
「とりあえず、会ってみようか」
「はい」
「あ、右助人、左吉。人の姿に」
「あ、はい」
 すぐに二人も人の姿をとった。