第十七話(1)~きのこ狩り之1~
「というわけで、今日はきのこ狩りです」
「おー!」
今日は寺の妖達総出できのこ狩り。連日の雨もやみ、お日様が山の斜面を鮮やかに照らしていた。
「黒之助、どちらが多く採ってこれるか勝負だ!」
「太郎よ、望む所だ!吠え面をかかせてくれるわ」
狼と烏がばちばち火花を。二人はやる気満々で。
「なんでわしまで・・・・・・」
「もう、頭領!たまには運動しないと駄目ですよ」
「はいはい」
対照的に頭領はあまり乗り気でない様子。
なにせ姫様に無理矢理連れて来られたのだから。
「えー、わしも行くのかい?」
「ええ」
姫様と頭領が問答中。頭領が、行くか行かないかでもめているのだ。
「ほら、お札を書かないといけないし」
「昨日のうちに済ませておきました」
「・・・・・・」
「おいやなのですか?」
「え、いや、その~」
姫様の瞳がうるうると。
正直、頭領はあまり行きたくない。動くのが面倒なのだ。しかし・・・・・・
「分かった・・・・・・」
所詮、頭領。姫様には逆らえないのだ。
「それでは早速」
「今から?」
「今から」
もう他の妖達は準備万端、門のところに集まっている。
寺に残っているのは姫様と頭領だけだったのだ。
「集合場所はこの門ですので、皆さん迷子にならないように」
「は~い」
「お前迷子になるなよ」
「お主こそ」
「はいはい、そこ喧嘩しない」
火花を飛ばし続ける狼と烏を銀狐がたしなめる。
「夕方には帰ってきて下さいね。それじゃあ、解散」
「うおっし」
「いくぞ」
ばっと落ち葉を舞い散らすと、狼と烏の姿が見えなくなった。
「あの二人、やる気満々ですね」
「去年も同じようなことがあったような気がします・・・」
「そういやそうですね。毎年あんな感じですか」
「私達も行きしょうか」
「お、おうー」
「・・・・・・」
「・・・・・・これは?」
朱桜が静かにきのこを指さす。姫様は申し訳なさそうに首を振る。
「ごめんね。これは食べられないの」
「そう・・・」
「彩花ちゃん、これはどう?」
今日はかっぱの沙羅も一緒。彼女が持ってきたのは・・・・・・。
「それは・・・・・・うん、ならたけですね。食べられますよ」
「彩花さまよく分かりますね」
尊敬の眼差し。きらきらした目で朱桜が。
「本でみたことありますから・・・」
「姫様がいなかったときはあたいらしょっちゅうお腹壊してたよ。誰もどれが毒あるのかないのか分からなかったから」
「・・・・・・」
「あたい達妖だから死ななかったけどね」
「・・・・・・」
「な、なに、その目は」
朱桜と沙羅はちょっと呆れていた。
「頭領、なかなか見つかりませんね~」
「うむ」
「ちゃんと探してます?」
「うむ」
「頭領~」
「ああ、もう。分かった分かった」
そうはいっても動こうとしない。
やっぱり頭領やる気がないのだ。切り株に座ってうっつらうっつら。
「さぼってたら食べられませんよ」
「大丈夫、彩花は優しい娘だから」
きっと食べさせてくれるさと。
「もう!知りませんからね」
「わかったわかった」
「うへ、水たまりだ」
「昨日まで雨降ってたからね~」
小妖達が十匹ほどと、籠が一つ。竹で編まれた籠は、小妖一匹で持つには大きすぎる。それで何匹かの小妖に一つずつ配られたのだった。
「なにこれ、熊の足跡?」
「まさか~」
「お、これ美味そうじゃねえ?」
「食べんなよ。姫様に見せてからでないと」
「そうそう」
「また腹壊すよ」
「ちょっと、鎌之進。落ち葉を巻き上げないでよ」
「鎌之斎、鎌之末もやめなよ」
嬉しそうに落ち葉を巻き上げていた三匹。
いたちによく似た三匹は、次第に動きが早くなり。
「えー、何?聞こえないよ」
落ち葉だけでなく妖達も巻き上げてしまった。
「やめれ~」
「ひ~」
「何でしょうかあれは」
姫様達の前方で、落ち葉が渦を巻いていた。
「う~ん、かまいたち三兄弟が暴れてるみたいだね」
よく見ると、落ち葉にまぎれて妖達の姿が。
「おたすけ~」
「すけ~」
「は、早く止めないと」
「大丈夫、そのうちやめますよ」
それに下手に近づくと危ないですよ、そう銀狐が言いかけたときだった。
「あの子達・・・・・・私が止めてきます」
「姫様!今近づいたら・・・」
「鎌之進!鎌之斎!鎌之末!やめな・・・痛!」
見れば伸ばした姫様の手に赤い筋一つ。かまいたちの風が姫様を、浅くではあるが傷つけたのだ。
「この阿呆共がー!」
ばっと一面が青白くなる。
ぽっと無数の狐火が点く。
血走った目、仁王立ちする葉子。
その吐く息はちろちろと赤い炎。
九つの尾がうねうねとうごめく。
風が止まり、妖達が地面に落ちた。
かまいたちは兄弟仲良く抱き合って、ぶるぶるぶるぶる震えていた。
「ごめん」
「ごめんね」
「ごめんなさいです」
「ごめんですむかー!!!」
とって喰ろうてくれる、葉子はそんな勢いである。
「葉子さん、そこまで怒らなくても・・・」
ほら、ほんのかすり傷だからと傷を見せる。
「いいえ、駄目ですよ。こいつらどうしてくれようか・・・」
「鎌之末、薬つけてくれますか?」
「は、はい。ただいま」
手にした壺におのれの腕を突っ込む。
壺から出した指先には紫色の液体が。それを姫様の傷に塗ると、あっというまに傷はふさがった。
「はい、ありがとう」
そういって、かまいたちの頭を撫でてやる。心地よさそうな鎌之末。おれもおいらもと、鎌之斎と鎌之進もその頭を姫様に。
「葉子さん、もう怒っちゃ駄目ですよ」
「・・・・・・は~い」
渋々という感じだが、葉子は青白い炎を消す。周りの景色がさっきと一緒の姿になる。
姫様は、かっぱの娘が申し訳なさそうな顔をしているのに気がついた。
「沙羅ちゃん、どうしたんです」
そんなに暗い顔をして、そう尋ねた。
「わ、私はもっと酷いことを彩花ちゃんに・・・」
今にも泣きだしそう。沙羅は初めて姫様と会ったときのことを思い出したのだ。
「そんなの、気にしてませんよ」
「ほ、本当に本当に本当?」
「もう、本当に本当に本当ですから」
くいっと着物の袖口を引っ張られて、葉子は隣を見る。
朱桜がじっと葉子を見つめていた。
「怖い」
一言だけ言うと姫様のところに。
「怖い・・・・・・初めて朱桜ちゃんに言われた言葉が、怖い・・・・・・」
がっくり膝と両手の手のひらを地面につく銀狐。狐火がどんより葉子の周りを舞う。
「ああ、葉子さん!」
沙羅を慰めていた姫様、それを見て。
葉子の隣にいって慰める。
姫様本当に大変そうである。
「おー!」
今日は寺の妖達総出できのこ狩り。連日の雨もやみ、お日様が山の斜面を鮮やかに照らしていた。
「黒之助、どちらが多く採ってこれるか勝負だ!」
「太郎よ、望む所だ!吠え面をかかせてくれるわ」
狼と烏がばちばち火花を。二人はやる気満々で。
「なんでわしまで・・・・・・」
「もう、頭領!たまには運動しないと駄目ですよ」
「はいはい」
対照的に頭領はあまり乗り気でない様子。
なにせ姫様に無理矢理連れて来られたのだから。
「えー、わしも行くのかい?」
「ええ」
姫様と頭領が問答中。頭領が、行くか行かないかでもめているのだ。
「ほら、お札を書かないといけないし」
「昨日のうちに済ませておきました」
「・・・・・・」
「おいやなのですか?」
「え、いや、その~」
姫様の瞳がうるうると。
正直、頭領はあまり行きたくない。動くのが面倒なのだ。しかし・・・・・・
「分かった・・・・・・」
所詮、頭領。姫様には逆らえないのだ。
「それでは早速」
「今から?」
「今から」
もう他の妖達は準備万端、門のところに集まっている。
寺に残っているのは姫様と頭領だけだったのだ。
「集合場所はこの門ですので、皆さん迷子にならないように」
「は~い」
「お前迷子になるなよ」
「お主こそ」
「はいはい、そこ喧嘩しない」
火花を飛ばし続ける狼と烏を銀狐がたしなめる。
「夕方には帰ってきて下さいね。それじゃあ、解散」
「うおっし」
「いくぞ」
ばっと落ち葉を舞い散らすと、狼と烏の姿が見えなくなった。
「あの二人、やる気満々ですね」
「去年も同じようなことがあったような気がします・・・」
「そういやそうですね。毎年あんな感じですか」
「私達も行きしょうか」
「お、おうー」
「・・・・・・」
「・・・・・・これは?」
朱桜が静かにきのこを指さす。姫様は申し訳なさそうに首を振る。
「ごめんね。これは食べられないの」
「そう・・・」
「彩花ちゃん、これはどう?」
今日はかっぱの沙羅も一緒。彼女が持ってきたのは・・・・・・。
「それは・・・・・・うん、ならたけですね。食べられますよ」
「彩花さまよく分かりますね」
尊敬の眼差し。きらきらした目で朱桜が。
「本でみたことありますから・・・」
「姫様がいなかったときはあたいらしょっちゅうお腹壊してたよ。誰もどれが毒あるのかないのか分からなかったから」
「・・・・・・」
「あたい達妖だから死ななかったけどね」
「・・・・・・」
「な、なに、その目は」
朱桜と沙羅はちょっと呆れていた。
「頭領、なかなか見つかりませんね~」
「うむ」
「ちゃんと探してます?」
「うむ」
「頭領~」
「ああ、もう。分かった分かった」
そうはいっても動こうとしない。
やっぱり頭領やる気がないのだ。切り株に座ってうっつらうっつら。
「さぼってたら食べられませんよ」
「大丈夫、彩花は優しい娘だから」
きっと食べさせてくれるさと。
「もう!知りませんからね」
「わかったわかった」
「うへ、水たまりだ」
「昨日まで雨降ってたからね~」
小妖達が十匹ほどと、籠が一つ。竹で編まれた籠は、小妖一匹で持つには大きすぎる。それで何匹かの小妖に一つずつ配られたのだった。
「なにこれ、熊の足跡?」
「まさか~」
「お、これ美味そうじゃねえ?」
「食べんなよ。姫様に見せてからでないと」
「そうそう」
「また腹壊すよ」
「ちょっと、鎌之進。落ち葉を巻き上げないでよ」
「鎌之斎、鎌之末もやめなよ」
嬉しそうに落ち葉を巻き上げていた三匹。
いたちによく似た三匹は、次第に動きが早くなり。
「えー、何?聞こえないよ」
落ち葉だけでなく妖達も巻き上げてしまった。
「やめれ~」
「ひ~」
「何でしょうかあれは」
姫様達の前方で、落ち葉が渦を巻いていた。
「う~ん、かまいたち三兄弟が暴れてるみたいだね」
よく見ると、落ち葉にまぎれて妖達の姿が。
「おたすけ~」
「すけ~」
「は、早く止めないと」
「大丈夫、そのうちやめますよ」
それに下手に近づくと危ないですよ、そう銀狐が言いかけたときだった。
「あの子達・・・・・・私が止めてきます」
「姫様!今近づいたら・・・」
「鎌之進!鎌之斎!鎌之末!やめな・・・痛!」
見れば伸ばした姫様の手に赤い筋一つ。かまいたちの風が姫様を、浅くではあるが傷つけたのだ。
「この阿呆共がー!」
ばっと一面が青白くなる。
ぽっと無数の狐火が点く。
血走った目、仁王立ちする葉子。
その吐く息はちろちろと赤い炎。
九つの尾がうねうねとうごめく。
風が止まり、妖達が地面に落ちた。
かまいたちは兄弟仲良く抱き合って、ぶるぶるぶるぶる震えていた。
「ごめん」
「ごめんね」
「ごめんなさいです」
「ごめんですむかー!!!」
とって喰ろうてくれる、葉子はそんな勢いである。
「葉子さん、そこまで怒らなくても・・・」
ほら、ほんのかすり傷だからと傷を見せる。
「いいえ、駄目ですよ。こいつらどうしてくれようか・・・」
「鎌之末、薬つけてくれますか?」
「は、はい。ただいま」
手にした壺におのれの腕を突っ込む。
壺から出した指先には紫色の液体が。それを姫様の傷に塗ると、あっというまに傷はふさがった。
「はい、ありがとう」
そういって、かまいたちの頭を撫でてやる。心地よさそうな鎌之末。おれもおいらもと、鎌之斎と鎌之進もその頭を姫様に。
「葉子さん、もう怒っちゃ駄目ですよ」
「・・・・・・は~い」
渋々という感じだが、葉子は青白い炎を消す。周りの景色がさっきと一緒の姿になる。
姫様は、かっぱの娘が申し訳なさそうな顔をしているのに気がついた。
「沙羅ちゃん、どうしたんです」
そんなに暗い顔をして、そう尋ねた。
「わ、私はもっと酷いことを彩花ちゃんに・・・」
今にも泣きだしそう。沙羅は初めて姫様と会ったときのことを思い出したのだ。
「そんなの、気にしてませんよ」
「ほ、本当に本当に本当?」
「もう、本当に本当に本当ですから」
くいっと着物の袖口を引っ張られて、葉子は隣を見る。
朱桜がじっと葉子を見つめていた。
「怖い」
一言だけ言うと姫様のところに。
「怖い・・・・・・初めて朱桜ちゃんに言われた言葉が、怖い・・・・・・」
がっくり膝と両手の手のひらを地面につく銀狐。狐火がどんより葉子の周りを舞う。
「ああ、葉子さん!」
沙羅を慰めていた姫様、それを見て。
葉子の隣にいって慰める。
姫様本当に大変そうである。