小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

第二十話(1)~あやかし姫~

「何読んでるんですか」
 銀狐が小さな女の子に。ちょこんとその顎を女の子の頭に乗せ、読んでいるものを覗き込む。
かぐや姫です」
「ふ~ん」
 極彩色の絵巻物。彩花が熱をだしたときに、頭領がくれたものである。
「綺麗です。私もこういう風になりたいです」
 そういって、かぐや姫を指さす。
「お姫様、ね・・・・・・でも、この話みたいに月にいっちゃあ嫌ですよ」
「月にいけるんですか!」
「彩花ちゃんなら行けないことは・・・いや、行けないです」
「なんだ・・・・・・つまんないの」
 そういうと、彩花はまたその絵巻物に見入っていた。

「どうした、お前ら聞き耳立てて」
 妖達が彩花の部屋の戸に集まっていて。
「彩花ちゃん、お姫様になりたいんだって」
「ほう、また面白いこといってるね」
 いやいや、まだまだ子供だ。黒之助と太郎は顔を見合わせにやっとした。
「それで・・・・・・というのは?」
「はあ!?何考えてんだ?」
「静かに、聞こえちゃいますよ」
「我々、彩花ちゃんになにもお礼してません」
「なるほど。それも一理あるが・・・・・・傘一・・・じゃなくて昨日から傘助か」
「合ってます。彩花ちゃんは頭領より偉い人ですからね」
 はっとして、私達には、そう付け加えた。
 黒之助が怒る、そう思ったのだ。
「実際そうかもしれぬが」
 意外にも黒之助がうなずく。
 我が意を得たりと妖達が身を乗り出した。
「そうでしょそうでしょ」
「どうもあの子が来てから上下関係が・・・・・・」
「そんなもん元からあったのか?」
「頭領が一番偉くなくなったような」
「・・・・・・同意」
「じゃあ、そういうことですので」
 妖達がこそこそ消えていく。
 それを見送る太郎と黒之助。
「あの子は茨木殿の妖気に耐えた。妖気に鈍感というわけでもない。勘が妙に鋭いときもあるし・・・」
 妖達の後ろ姿を見ながら、黒之助が口を開いた。
「俺たちより凄い?」
「凄いだろう。鬼の四天王ですら茨木殿の妖気に耐えきれないというぞ。東西の長達に匹敵するかもしれん」
「・・・・・・東西の長ね・・・・・・少なくとも俺の親父よりすげえか。それは間違いねえ」
「我が主、大天狗様とは比べられぬか」
「でも、まだ子供だぜ。大きくなったらどうなることやら」
「我々をこき使ったりして」
「ないない・・・・・・多分。いや、多分だけど・・・・・・」
 最後の方は自信がなさげであった。

「貴方達、名前なんていうの?」
 部屋に遊びに来ていた妖に聞いてみる。
「へ、名前ですか?」
「そう」
 それは、彩花がずっと疑問に思っていたことで。
「湯飲み一」
「湯飲み二」
「お椀一」
「それ、名前?」
「違・・・いますよね」
「我々には名前ないですよ」
 女の子はびっくりした顔になる。
「不便じゃないの?」
「一応、年齢の順に番号ふってますけど」
「同じ年のときとかは?」
「私のときはじゃんけんで」
「俺自分の年覚えてなかったし」
「おいらもそうだった」
「う~ん」
 眉間にしわをよせて、少々考え込む様子。そして、すくっと立ち上がった。
「・・・・・・ちょっと筆と紙とってきます」
「はい?」
「ななしの権兵衛さんは、ここに来るよう言ってくれないですか?」
 妖達は一斉に怪訝そうな顔。
 名の無い妖は寺に住む者のほとんどで。
「はあ、皆ですか?」
「ええ、皆」
「はあ」
 嫌そうである。どこにいるか分からない者も多いのだ。
「早く~」
 彩花が、精一杯大きな声を出した。
「は、はい!」
 妖達が散っていった。