小説置き場2

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番外編~張繍と雛~

張繍:元董卓四天王張済の甥!叔母上命の純朴な青年!!!
雛:張済の妻。薄幸の美女!彼女に幸せは・・・
張済:雛の夫、張繍の叔父。元董卓四天王!!!
賈詡:現張済軍軍師
胡車児:元呂布軍。張済軍の豪傑

張繍「叔母上、大丈夫ですか?」
雛「うん、大丈夫」
 ここ最近の日課
 今日も叔母上に会いに来た。
 言葉とは裏腹の叔母上の弱々しい姿。
 重い病で、起きあがることもできない。
 元々病弱な方ではあった。
 やせ細った手をぎゅっと握る。
 傷だらけだった。
 昔から、叔母上の手は傷だらけだった。
 傷は、少しずつ増えていった。
雛「張繍・・・」
張繍「早く・・・・・・早くよくなって下さい!できることはなんでもしますから!!!」
雛「うん、ありがとう・・・その言葉だけで十分だから」
 彼女と会ったのは自分がまだ十二のころ。
 粗暴な叔父の妻としてだった。
 彼女を見て頭が真っ白になって・・・その後どんな言葉を交わしたかも覚えていない。
 儚げな人だった。
 触れば、壊れてしまいそうで。
賈詡「また、雛殿のところですか」
胡車児「雛様、早くよくなるといいな」
 部屋を出たところで二人と出会った。
 賈詡と胡車児。張済軍の智の要と武の要。
 董卓様亡き後、単独で張済軍が存在できるのは、この二人のおかげだった。
 二人は友人であった。叔母上が仲をとりもってくれた友人だった。
 胡車児は、叔母上の護衛であった。
 賈詡は、都で傷付き倒れているところを、叔母上が助けたのであった。
 何故、倒れていたのかは、話したことがない。
 この男は、過去のことになると口をつぐんだ。
 賈詡に薬は手に入ったのかと尋ねる。
 まだという返事だった。
 今は、病の進行を抑える薬しか手に入らない。
 それでも、高価なものであった。
賈詡「張済様がお呼びです」
張繍「叔父上が?すぐいく」
 叔父とは、最近あまり会っていなかった。
 病室で顔を合わせたことなど、一度もない。董卓様が死んでから、叔父はどこか崩れてきていた。
 董卓様は、部下には優しかった。
 確かに暴君ではあったが。
 叔父には、良い主だったのかもしれない。

張繍「叔父上、入ります」
張済「おお、入れ入れ」
張繍「これは・・・」
 叔父の部屋に着飾った女達がいた。
 なんのためにこの女達はここにいるのだろうか・・・
張済「どれが、わしの女にふさわしいかの?」
張繍「は?」
張済「なに、どうも雛に飽きてきてな。ここいらで新しい嫁でもと・・・いっそのこと全員でもよいか」
 叔父が笑った。
 叔父の笑い声は、昔から嫌いだった。
張繍「叔母上はどうするおつもりですか・・・・・・ずっと叔父上に尽くしていらっしゃったのに」
張済「病なのであろう?放っておけばいい。どうせ買った女だ。いつも泣いていて、しょうがない奴だったな。まあ、同僚達への自慢にはなったが。俺としては早く死んでくれたほうがいいのだ。金がかかってしょうが・・・張繍?」
 身体が熱くなった。
 汗が流れ出る。
 その汗の冷たさが感じられた。
 叔父の動きが、いや、世界がひどくゆっくりと動いて、気が付けば剣を抜いていて、女達の悲鳴があがって、張済の酷く怯えた顔が目の前にあって。
 次に見たのは、転がっている張済の首だった。
賈詡「張繍殿!張済様!一体何事です・・・か・・・」
 何も言わずに賈詡のほうを見た。
 血まみれの剣。
 賈詡は何が起こったかすぐに理解したようだった。
 どうすればいいか分からなかった。
 叔父は、死んだのだ。
 この手で、殺したのだ。
賈詡「張繍さま・・・・・・張済様は病死なさいました」
張繍「病死・・・・・・」
賈詡「軍をお継ぎ下さい。張繍さま」
 胡車児も入ってきた。一瞬驚いた顔をした。
 一瞬であった。
 すぐに何事もなかったかのような顔をして、女達を部屋の外に出した。
 戻ってきて、死体を片付けはじめた。
 それを、ずっと見ていた。
賈詡「張繍さま?」
 胡車児は血に濡れた剣ももっていった。
 手は、真っ赤に染まっていた。
張繍「わ、分かった・・・」
 その声は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。

 軍の動揺は少なかった。
 最近は、三人で軍を動かしていたのだ。
 賈詡は、すぐに袁紹と盟を結ぶことを勤めた。
 見返りとしての、兵糧、資金、そして薬。
 一度、賈詡に何故お前が軍を掌握しなかったのかと聞いた。
 お前の方が私よりはるかに優れていると。
 袁紹とのやりとりでも分かると。
 賈詡は笑って、貴方と彼女が気に入っているとだけ答えた。

張繍「・・・・・・」
雛「・・・・・・」
 叔母上の病は、快方に向かった。
 叔父が死んで、ほっとしたようだった。
 それでも、最初の頃は、ずっと泣いていた。
 あの方は、命の恩人だからと。
張繍「良かった、叔母上が元気になられて」
雛「張繍、大変ね・・・」
張繍「賈詡と胡車児がいますので。頼りになる二人です」
雛「私からもよくよく二人にお願いをしておかないと。そうそう、貂蝉さまにも連絡しておきますね」
 懐かしい名前だった。
 貂蝉殿は叔母上の都での・・・いや、私が知る限りの数少ない友人であった。
 呂布殿、高順殿、張遼殿も気の良い方々だった。
 あのころの叔母上は、よく笑っていた。
 あのころの叔母上は、幸せそうだった。
 彼女らは各地を転々としていると聞いた。
 もしかしたら、彼女達とまた一緒になるかもしれない。
 今は、まだ何も・・・・・・
張繍「よろしく、お願いします」
 叔母上は、私のことをどう思っているのだろうか?
 弟としてしか見ていないのだろうか。
 昔から、子供扱いしていた。
 でも、私は・・・。
 もう・・・。
張繍「叔母上、これからは叔父上に替わって私が叔母上を守ります」
雛「心強いですわ」
 本心だった。
 初めて会ったあの日、貴方を守りたいと思った。
 その想いはずっとずっと変わっていないのだ。