小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫~お出かけ~

 今日のお寺は朝から静か。
「静かですね~」
 春の光が差し込む縁側で、姫様足をぶらぶらさせていた。
 ほとんどの妖が前日の夜、寺を出た。
 今、寺に残っているのは姫様彩花と・・・・・・
「みんなが出て行っちゃうと・・・なんだか、寂しいですね」
「姫様、みんなじゃないよ!」
「おいら達、いる!」
「剣も、いる!」
 姫様の周りに集まっていた妖達が口々に言う。
 妖達が、ぴょんぴょん飛びはね騒ぎ立てる。
 長い髪をつたい、姫様の頭に登る妖も。
「そうだね。でも・・・」
 ゆっくりと頭の上に手をのばし、膝のうえに妖をおろす。
「・・・ここは、私たちだけだと、広いよね」
 妖達がしゅんとなった。
 確かに、寺は広かった。

 今、寺に残っているのは十数匹の妖と姫様だけ。
 出て行った妖は一族、親しいもののところへ。
 今日は妖の墓参りの日。
 残っている妖達は皆付喪神、この寺で長い年月を過ごし妖になった古道具達。
 彼らにはここ以外にいくところはない。
 参るべき墓もない。
 姫様も、同じだった。
 年に一度のその日、この寺の妖はほとんどいなくなる。
 それは頭領も葉子も黒之助も。
 近くの川に潜む沙羅も、どこかへ行ってしまった。
 そして、太郎も。

 

 太郎さん?

 庭で寝ていた妖狼が、ぴくりと耳を動かし顔をあげた。
 
 姫様は遠くからそれを見ていた。
 
 妖狼は、何かを囁いていた。

 姫様は近づかず、話しかけず。

 妖狼が、囁くのをやめた。首を横に振った。

 しばらく相槌だけを打ち続けた。  
 
 妖狼が、分かったと言った。

 姫様は近づけず、話しかけれず、

 静かに妖狼から離れていった。



「朝のあれ、夢だったのかな・・・」
 夜、姫様皆を見送ろうと。
「姫様、私達出かけるけど、大丈夫だよね」
「心配ですな・・・太郎だけだと心配・・・」
「大丈夫。もう、葉子さんもクロさんも」
 隣に立つ妖狼に、心配しすぎだよね、っと言った。
 太郎も葉子も黒之助も人の姿であった。
「太郎、頼むよ」
 頭領が太郎に言う。
 太郎は、いつも寺に残っていた。
 今日も残るはずだった。
「・・・わりぃ」
「え・・・」
 皆が、太郎に目を向けた。
 太郎が姫様の隣を離れる。
「わりぃ・・・俺も出かける」
「あんた」
 葉子が口を開き、頭領がやめよと手を振った。
 葉子が、ぐっと音を飲み込んだ。
「それは・・・まずいの・・・」
「うん・・・まじい・・・」
「どうするか・・・」
「どうする?」
「壱、ぬしを術で縛り止める」
 葉子が、狐火を手に乗せる。
「弐、やっぱりぬしを術で縛り止める」
 黒之助が、羽扇を構えた。
「参、彩花が涙目で引き留める」
「え、私は・・・その・・・」
「・・・結局、全部、一緒じゃねえか」
「じゃあ、しょうがないの」
「おとなしく、ここでいろ」
 黒之助が、太郎の肩に手を置いた。
 その手を払うと、
「ちょっと野暮用なんだよ」
 そう言って、太郎は顔を伏せた。
 葉子と黒之助がどうしたもんだと顔を見合わせたる。
 太郎まで出て行くと、寺に残るのは力の弱い小妖と姫様だけ。
 なにかあったら・・・
「うん、太郎さん行ってらっしゃい」
 姫様が行った。
「私も、もう子供じゃないんだし。ここに残る妖もいっぱいいるし」
「・・・めんどくさいの・・・」
 頭領が言い、妖達に背を向けた。
 手を天に掲げる。
 頭領が何もないところから、何かを引きずり出す。
 手に握りしは剣であった。
 いや、よく見れば頭領は握っていない。触れていない。
 それもそのはず、全て刀身なのだ。
 それなのに、剣だと分かった。
 禍々しく美しく。
 それは、頭領の手を離れ、宙に浮いた。
「触れるなよ」
 妖達が集まって。
 姫様が触ろうとしたのを見て、頭領がそう言った。
「どうしたんです、クロさん」
 黒之助の顔色が変わっていた。
「いや~・・・」
 その剣に、心当たりがあるらしい。
「これが、わしらの留守を守ってくれる。いけ」
 剣が、建物の中に飛んでいく。
「これで、よしと」
「すんません」
「いいさ、ちょっと人が困るだけじゃよ」
「?」 
「そろそろ、いくか。おまえ達、けがのないようにな」
「は~い」
「は~い」
「は~い」
 妖達が、口々に。
「行ってらっしゃい」
 姫様が、皆に。
 それを合図と皆の姿が消えていく。
 黒之助、葉子、頭領・・・・・・
 最後に、太郎が残った。
 朝見た夢が、姫様の心によみがえった。
「あの、太郎さん、戻ってきますよね」
「・・・そりゃそうだ」
 太郎が、静かに言った。
「行って、らっしゃい」
「行ってきます」
 妖狼も、その姿を消した。
 あとには姫様と、古道具の妖達が。