小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫~帰ってくるもの、こないもの~

「・・・」
 なんだろう・・・なんで、にやにや笑ってるの?
「玉藻様・・・どうしました?」
「い~や、何にもないよ。なあ木助」
 木助もいたのか。
 いるよね、あの子が、私に挨拶しないわけないもんね。
「ええ」
 木助もにやにや笑ってる・・・・・・
 二人とも葉美がくれたおあげを見てる?
「このおあげがどうかしました?」
「言っていいのでしょうか?」
 木助が、玉藻様に聞いた。
「いいさ、いいさ、駄目ならあの子が先に私たちに注意してるだろうからね」
「じゃあ・・・・・・それ、葉美が作ったんだ」
「大変だったんだよ、あの子がそれ作るの」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 それは、・・・・・・そっか。
「葉美が、作ってくれたんだ・・・」
「ああ」
「はい」
 あの子が・・・

 子供が、泥んこ遊び。
 葉子は木の上から夢中になって遊ぶ二人を見ていた。
「まあまあ、最初はどうなることかと思ったけど・・・」
 なかなかどうして、・・・・・・
「姉様、姉様」
「どうしたい、葉美?」
 ひらりと舞い降りる。
 人の姿で、しっぽは残して。
 ゆらりと銀毛の九尾がくねった。
「姉様、おあげ作ったの」
 女の子が言う。
 泥だらけの手を葉子に突き出す。
「・・・・・・ああ、おあげね。ありがとう」
 女が答えた。
 葉子が、「おあげ」を受け取る。
 葉美は、嬉しそうで。
 葉子も嬉しそうに。
 

「大事に、食べよう・・・」
 
 
「葉子さん、嬉しいことでもあったの?」
「・・・あったよ」
「ほう」
 九尾の銀狐は獣の姿で帰ってきた。
 狐火あげて、口になにかをくわえていて。
「あった・・・あったさ・・・」
「これは?ああ、いつものか」
 黒之助が葉子が口にくわえているものを。
「ちょっと、違うね」
 ちょっと・・・ね。
「これは絶~対にあげないからね。クロちゃんは?そっちはどうだった?」
「うむ・・・・・・皆元気そうだったな」
 そうそう、これおみやげと黒之助が姫様に手渡す。
「羽?」
「はね?」
「大天狗様の羽だ」
「はあ・・・」
 烏の羽に見える。
 心持ち、大きい?
「なにさこれ?」
「すごいもんなんだぞ!」
 クロさんが言うなら、すごいのかな。

「あとは、太郎さんか・・・」
「太郎・・・」
「あの馬鹿犬か・・・」
 二人が、押し黙った。
 姫様が、続ける。
「ねえ、葉子さん、クロさん。太郎さん、どこにいったの?」
 姫様が二人に言った。
「・・・・・・さあ」
「拙者も・・・」
 二人には心当たりがないようで。
「・・・・・・太郎さん、帰ってくるよね」
「・・・・・・え、ええ。ねえクロちゃん」
「あ、ああ・・・」

「俺は・・・・・・いくとこないな。この寺で一生暮らすのかな」

 あのときの太郎の言葉が二人の胸に蘇っていた。
「ねえ・・・・・・帰ってくるよね」
 二人とも答えなかった。

 姫様は、月が消え、日が現れても待っていた。
 ずっと、寝ずに起きていた。
 葉子と黒之助と一緒に待っていた。
 金銀妖瞳の妖狼は、その姿を見せなかった。
 ずっと、
 待っていたのに、
 他の妖達は戻ってきたのに。
 太郎は、その姿を見せなかった。