小説置き場2

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あやかし姫~狐の、姉妹~

 遠き大陸の、遠い祖先に玉藻御前が歌を捧げる。
 段々と、人の姿が解けていく。
 玉藻御前の本性、巨大な九尾の狐が現れる。
 銀毛の尾が五、金毛の尾が四。
 大狐の甲高い声。
 黙って、それを聞く。
 長い、哀しい歌が終わったとき、儀式は終わる。
 大陸の、祖先。
 私は、大陸のことを知らない。
 誰も、一族の誰も大陸のことを知らない。
 玉藻様しか、知らない。
 玉藻様が大陸のことを話したことはなかった。
「終わりましたわ」
「え?」
 歌は、もう聞こえてこない。
 既に、仲間達も少なくなっている。
 玉藻御前は海を見つめていた。
 人の姿に戻っていた。
 背中がもの悲しく見えた。
「葉美・・・」
 妹が、話しかけてきたのだ。
「お久しぶりです、姉様。お元気そうで」
 なにより、ですわ。
「葉美も、元気そうだね」
「おかげさまで。お姉様は相変わらずあのボロ寺に?」
 ボロ寺、か。
「ああ、あのボロ寺にいるよ」
「もったいないことですわ、姉様ほどの妖があのような・・・人間風情に」
「葉美?」
 彩花ちゃんのこと?と聞いた。
「失礼・・・。ですが・・・」
「あたいは、好きであそこにいるんだ」
「そうですわね・・・・・・」
 姉様は、そういう方だ。 
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ここに戻ってくる気は、ないんでしょう?何度も申し上げていますが・・・」  
「まだ、ね・・・・・・」
「戻ってくるのを、楽しみにしておきますわ」
 言葉通りに、受け取っておこう。
「うん」
「もう、お帰りになられるのですか?」
 今から帰れば、夜には着くよね。
「うん」
「そうですか。これ、もっていって下さい」
 笹の葉で包んだ、おあげ。
 最近は、ずっと同じところのだ。
 もらえるだけ、いいのかな。
「じゃあ、私はこれで。まだ色々と仕事はありますので」
 ああ、一族の宴があるのか、大変だよね。あたいと違って。
 あれ?
 なんで葉美が顔を赤らめるの?
「・・・・・・変なの」
 あんな葉美の顔、いつ以来だろう・・・
「玉藻様に挨拶してこようか・・・」