あやかし姫~まだ、~
ぼ~っと、自室に座り、本を手に持つ娘が一人。
部屋には他に誰もいない。
姫様は、本をその手に持っている。
持っているだけだった。
誰かが、姫様の、自分の部屋の戸に立った。
姫様は何も反応しなかった。
そっと部屋の戸が開けられていく。
姫様はじっと、本を眺め続けていた。
誰かは、姫様の背後に立った。
それでも、何も反応を見せなかった。
「姫様・・・・・・」
姫様より幾分年上に見える女が背中越しに声をかける。
葉子。その正体は九尾の銀狐。
妖である。
「その本、上下逆ですよ」
「ああ、本当だ・・・・・・」
返事をする。それだけだった。振り向きもしない。
本などどうでもよかったのだ、元々持っていただけなのだから。
「姫様、あのね」
「太郎さん、まだ帰ってこないの?」
「うん」
「どこに行ったのかも?」
「うん」
「太郎さん、帰ってくるよね?」
「う、うん」
「ちょっと遠くに行ってるんだよね?
まだ三日しかたってないもんね。
目的地に着いていなかったり?
それとも、どこかで遊んでいるのかな?
あ、もしかして、道に迷ってたりして。
太郎さん、そそっかしいし、子供みたいだし」
「一応、太郎は齢二百を越えてるんだけど・・・」
「ああ、そうでした」
姫様が笑った。
葉子が、顔を背けた。見ていられなかったのだ。
耳も、塞ぎたかった。
姫様の笑い声は寒々しい音だった。
これが、あの姫様なのかと葉子は思った。
生気が、ないよ。こんなの、あたいの知ってる姫様じゃあ・・・
いや、この「姫様」を葉子は知っている。
皆知っている。
前にも同じことがあったから。
だから、皆このようなことはしまいと誓ったのだ。
姫様を、悲しませないと。
太郎は、それをした。
「あの、馬鹿・・・」
葉子が、呟いた。
「彩花は、あの調子か?」
翁が呟いた。
葉子に、様子を見に行かせたのは頭領だった。
疲れた顔をして、葉子は帰ってきた。
「ええ・・・」
「困ったもんじゃ・・・」
どちらが、とは言わなかった。
「頭領、太郎は・・・」
「あやつが行きそうなところなど・・・」
ないなあと声をだす。
「誰も、見ていないんだよね?」
葉子の呼びかけに寺の妖達もう~んと声を捻り出す。
太郎は、最後に寺を出た。
頭を抱える妖達。
そのとき、風がごおっと寺に吹き付けた。
「黒之助が帰ってきたか」
頭領が眉をあげた。
「頭領!」
山伏姿の若い男が息を切らせて入ってきた。
戸を粉砕しながら。
「見つけましたよ、太郎を見た妖!」
「・・・・・・でかした!」
「さすがクロさん!」
頭領と葉子が叫んだ。
姫様連れてくる!、そう言って葉子が走っていく。
妖達も口々になにか叫んでいて。
やっと、皆明るくなった。
「ほい」
ぽいっと黒之助は何かを放り投げる。
それは、なにやらぎゃーぎゃーわめいていた。
狸、であった。
こわいこわいと、高いところ怖いと。
部屋には他に誰もいない。
姫様は、本をその手に持っている。
持っているだけだった。
誰かが、姫様の、自分の部屋の戸に立った。
姫様は何も反応しなかった。
そっと部屋の戸が開けられていく。
姫様はじっと、本を眺め続けていた。
誰かは、姫様の背後に立った。
それでも、何も反応を見せなかった。
「姫様・・・・・・」
姫様より幾分年上に見える女が背中越しに声をかける。
葉子。その正体は九尾の銀狐。
妖である。
「その本、上下逆ですよ」
「ああ、本当だ・・・・・・」
返事をする。それだけだった。振り向きもしない。
本などどうでもよかったのだ、元々持っていただけなのだから。
「姫様、あのね」
「太郎さん、まだ帰ってこないの?」
「うん」
「どこに行ったのかも?」
「うん」
「太郎さん、帰ってくるよね?」
「う、うん」
「ちょっと遠くに行ってるんだよね?
まだ三日しかたってないもんね。
目的地に着いていなかったり?
それとも、どこかで遊んでいるのかな?
あ、もしかして、道に迷ってたりして。
太郎さん、そそっかしいし、子供みたいだし」
「一応、太郎は齢二百を越えてるんだけど・・・」
「ああ、そうでした」
姫様が笑った。
葉子が、顔を背けた。見ていられなかったのだ。
耳も、塞ぎたかった。
姫様の笑い声は寒々しい音だった。
これが、あの姫様なのかと葉子は思った。
生気が、ないよ。こんなの、あたいの知ってる姫様じゃあ・・・
いや、この「姫様」を葉子は知っている。
皆知っている。
前にも同じことがあったから。
だから、皆このようなことはしまいと誓ったのだ。
姫様を、悲しませないと。
太郎は、それをした。
「あの、馬鹿・・・」
葉子が、呟いた。
「彩花は、あの調子か?」
翁が呟いた。
葉子に、様子を見に行かせたのは頭領だった。
疲れた顔をして、葉子は帰ってきた。
「ええ・・・」
「困ったもんじゃ・・・」
どちらが、とは言わなかった。
「頭領、太郎は・・・」
「あやつが行きそうなところなど・・・」
ないなあと声をだす。
「誰も、見ていないんだよね?」
葉子の呼びかけに寺の妖達もう~んと声を捻り出す。
太郎は、最後に寺を出た。
頭を抱える妖達。
そのとき、風がごおっと寺に吹き付けた。
「黒之助が帰ってきたか」
頭領が眉をあげた。
「頭領!」
山伏姿の若い男が息を切らせて入ってきた。
戸を粉砕しながら。
「見つけましたよ、太郎を見た妖!」
「・・・・・・でかした!」
「さすがクロさん!」
頭領と葉子が叫んだ。
姫様連れてくる!、そう言って葉子が走っていく。
妖達も口々になにか叫んでいて。
やっと、皆明るくなった。
「ほい」
ぽいっと黒之助は何かを放り投げる。
それは、なにやらぎゃーぎゃーわめいていた。
狸、であった。
こわいこわいと、高いところ怖いと。