あやかし姫~豹変~
泣いていた、女の子は泣いていた。
古道具の妖、付喪神が周りでおろおろ。
庭で寝ていた大きな狼が、その泣き声を聞きつける。
すぐに姿を消し、女の子の前に現れた。
「どうしたい、彩花ちゃん?」
「いないよ、とうりょうさまもようこさんもクロさんも・・・、おてらのみんながいないよ」
そう言って、泣き続けるのだ。
「いるよ、ほら」
そういって顎で付喪神を指す。
「ちがうの!このこたちはいるけど、いないの!また、まえみたいにみんないなくなっちゃうの?かえってこないの?もう、あえないの?」
「今日は、みんな行くところがあるんだ。頭領もそう言ってただろう?」
「やだよ、やだよ、みんないかないでよ」
そう言って、彩花はまた泣き続けた。
「俺は、いかねえ」
太郎が言った。金銀妖瞳に彩花の姿が映っている。
「え?」
「みんなちゃんと帰ってくるから。な、心配すんな」
「・・・・・・」
「ほら、笑って笑って」
そう言って、手を口につっこみ大きく横に広げた。
「笑って、な?」
にー。
「・・・・・・うん」
彩花が、涙目で笑った。
心地よい音をたてて、笑った。
ちゃんと、聞いておけばよかった。
なんで、聞かなかったの?
馬鹿だなあ、私。
太郎さんが、一人であの日にここを離れるなんて・・・
それも何も言わずに出るなんて、おかしいことだったのに・・・
「姫様!姫様!起きて起きて!」
「葉子さん・・・」
「クロさんが太郎さんを見たってやつを連れてきたよ!」
「・・・本当?」
「本当だよ!さ、早く!」
「うん!」
姫様の目に、生気が宿った。
「うむ、こりゃうめえや」
狸が、目の前の料理をぱくぱくぱくつく。
狸は、ぽん吉と名乗った。
彼も、妖である。
一通り食べると、やっと話し始めた。
「ええっと、太郎っていう狼の妖のことだよね」
「おお」
「見たよ、おいらの目の前でしばらく二匹で話をしてから、風のように走り抜けていった。北のほうにね」
「二匹?」
葉子が、首を傾げる。
「それも、狼?」
「ちょっと小さいけど、狼だった」
「他の妖狼族が?太郎と?」
頭領も、首を傾げる。
「そうそう、村に行くって言ってた」
「村に?」
黒之助が、首を傾げた。
太郎は、一族を追放された身だった。
「へえ。しかし怖かったなあの金銀妖瞳。呪われると思ったよ、いやあ、おっかねえおっかねえ。気持ち悪いったらありゃしない」
狸、笑う。皆、黙る。
「今、なんて言いました?」
姫様が言った。にこやかに。
「気持ち悪いって・・・」
「そう、お前・・・」
姫様が、お前と言った。妖気が、姫様から放たれた。
姫様の周りに座っていた妖達がかたかた震えだした。震えの連鎖が、広まっていく。
姫様が立ち上がり、ゆっくり蒼白の狸に近づく。
葉子が口を開きかけて、そこで止まった。
黒之助も、動けなくなっていた。
汗が、じっとり。
妖気は、二人をも凍らした。
「やめよ」
頭領が言った。穏やかな、しっかりとした声で。
渦巻いていた妖気が消えた。
ふっと姫様正気に戻る。
「私は・・・あれ・・・」
狸は、がくがく震えていた。
姫様の強烈な妖気を直接叩きつけられたのだ。
「ぽん吉さん、どうしました?」
「ひ!」
「?」
「えーと」
「今のは・・・」
「こほん、とりあえず太郎が向かったところは分かった。黒之助、ぽん吉を帰してやれ」
「は、はあ・・・」
黒之助がごめんなさいを繰り返すぽん吉を連れて行く。
姫様ぽかーんとそれを見ていた。
「怖かった」
「姫様こわ~い」
「ぶるぶる」
「どうしたの?みんな変だよ」
いつもの、姫様だ。優しい、姫様だ。
とりあえず、皆で笑ってみた。
古道具の妖、付喪神が周りでおろおろ。
庭で寝ていた大きな狼が、その泣き声を聞きつける。
すぐに姿を消し、女の子の前に現れた。
「どうしたい、彩花ちゃん?」
「いないよ、とうりょうさまもようこさんもクロさんも・・・、おてらのみんながいないよ」
そう言って、泣き続けるのだ。
「いるよ、ほら」
そういって顎で付喪神を指す。
「ちがうの!このこたちはいるけど、いないの!また、まえみたいにみんないなくなっちゃうの?かえってこないの?もう、あえないの?」
「今日は、みんな行くところがあるんだ。頭領もそう言ってただろう?」
「やだよ、やだよ、みんないかないでよ」
そう言って、彩花はまた泣き続けた。
「俺は、いかねえ」
太郎が言った。金銀妖瞳に彩花の姿が映っている。
「え?」
「みんなちゃんと帰ってくるから。な、心配すんな」
「・・・・・・」
「ほら、笑って笑って」
そう言って、手を口につっこみ大きく横に広げた。
「笑って、な?」
にー。
「・・・・・・うん」
彩花が、涙目で笑った。
心地よい音をたてて、笑った。
ちゃんと、聞いておけばよかった。
なんで、聞かなかったの?
馬鹿だなあ、私。
太郎さんが、一人であの日にここを離れるなんて・・・
それも何も言わずに出るなんて、おかしいことだったのに・・・
「姫様!姫様!起きて起きて!」
「葉子さん・・・」
「クロさんが太郎さんを見たってやつを連れてきたよ!」
「・・・本当?」
「本当だよ!さ、早く!」
「うん!」
姫様の目に、生気が宿った。
「うむ、こりゃうめえや」
狸が、目の前の料理をぱくぱくぱくつく。
狸は、ぽん吉と名乗った。
彼も、妖である。
一通り食べると、やっと話し始めた。
「ええっと、太郎っていう狼の妖のことだよね」
「おお」
「見たよ、おいらの目の前でしばらく二匹で話をしてから、風のように走り抜けていった。北のほうにね」
「二匹?」
葉子が、首を傾げる。
「それも、狼?」
「ちょっと小さいけど、狼だった」
「他の妖狼族が?太郎と?」
頭領も、首を傾げる。
「そうそう、村に行くって言ってた」
「村に?」
黒之助が、首を傾げた。
太郎は、一族を追放された身だった。
「へえ。しかし怖かったなあの金銀妖瞳。呪われると思ったよ、いやあ、おっかねえおっかねえ。気持ち悪いったらありゃしない」
狸、笑う。皆、黙る。
「今、なんて言いました?」
姫様が言った。にこやかに。
「気持ち悪いって・・・」
「そう、お前・・・」
姫様が、お前と言った。妖気が、姫様から放たれた。
姫様の周りに座っていた妖達がかたかた震えだした。震えの連鎖が、広まっていく。
姫様が立ち上がり、ゆっくり蒼白の狸に近づく。
葉子が口を開きかけて、そこで止まった。
黒之助も、動けなくなっていた。
汗が、じっとり。
妖気は、二人をも凍らした。
「やめよ」
頭領が言った。穏やかな、しっかりとした声で。
渦巻いていた妖気が消えた。
ふっと姫様正気に戻る。
「私は・・・あれ・・・」
狸は、がくがく震えていた。
姫様の強烈な妖気を直接叩きつけられたのだ。
「ぽん吉さん、どうしました?」
「ひ!」
「?」
「えーと」
「今のは・・・」
「こほん、とりあえず太郎が向かったところは分かった。黒之助、ぽん吉を帰してやれ」
「は、はあ・・・」
黒之助がごめんなさいを繰り返すぽん吉を連れて行く。
姫様ぽかーんとそれを見ていた。
「怖かった」
「姫様こわ~い」
「ぶるぶる」
「どうしたの?みんな変だよ」
いつもの、姫様だ。優しい、姫様だ。
とりあえず、皆で笑ってみた。