小説置き場2

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愉快な呂布一家~劉備VS袁術~

「おのれ!」
 
 袁術は舌打ちした。
 
 左翼が、たやすく撃ち破られた。
 
 劉備軍が姿を現したとき、勝ったと思った。数が、違った。
 
 ゆっくりと、陣を動かした。囲むように。軍は、三つに分けていた。
 
 劉備軍が、前進を始めた。
 
 髭の長い大男が先頭だった。騎馬兵が、後に続いた。
 
 勢いがあった。
 
 そのまま、左陣とぶつかった。
 
 勢いを止められなかった。

「無能な…」
 
 袁術が呟いた。
 
 劉備軍が反転し、今度は、歩兵を前にして突っ込んできた。しばらく、左陣は耐えていた。
 
 後ろから、騎馬隊がさらに圧力をかけた。また、撃ち破られた。

 髭の大男が凄かった。
 
 青龍偃月刀に触れた兵が、どんどん宙を舞うのが見えた。

「殿、あれが関羽かと」
 
 隣にいた紀霊が言った。冷静な声だった。
 
 その声のなかに、かすかな熱を袁術は感じ取った。

「紀霊、関羽とぶつかりたいのか?」

「殿が、そう望めば」
 
 劉備軍が、陣を敷き直している。
 
 袁術は、左陣を少し後ろに下げた。

「張勲の役立たずめ」

「どうなさいますか?」

「紀霊、関羽を生け捕りに出来るか?」

「難しいかと。どちらかが、死ぬ。そう思います」

 関羽が、凄まじかった。

 一人で道を作り、そのあとに劉備軍が続く。

 それで、二度とも撃ち破られた。

 欲しいと、思った。

「それほどか?」

「ええ」

 少し、考えた。右陣より、伝令が来た。

 はっとした。右陣に砂煙が立ち始めていた。

「伏兵…いや、兵を切り離し迂回させたのか……」

 ぎりりと、音がした。

 血の臭いが、袁術の口の中に広がった。



「やっぱり大したことないね」

 劉備は、笑った。

 反転するさい、三千の兵を切り離した。大きく、回らせた。

 それが、右陣の背後を襲っていた。

「しかし、これだと勝っちゃうね」

 嘘である。左陣も右陣も、どうでもいい。

 中央の陣。

 袁術の本隊で、それは全く揺るぎがなかった。

 劉備の生粋の兵力は一万であった。あとは、劉備に好意を持ってくれた豪族の兵である。

 調練を、施していない。

 勢いにのればそれなりに戦えるが、やはり弱兵であった。

 劉備は、一万の兵で戦をしているのと同じだった。
 
 中央三万。
 
 劉備の元々の兵と同程度の調練を積んでいると感じた。

 それが動けば、終わりだと思った。
 
 幸い、袁術軍は動かなかった。警戒しすぎだと、苦笑いした。

劉備様……」
 
 陳到が、声をかけてきた。後ろに、虎髭の大男がいた。
 
 やっとかいと、劉備は思った。
 
 心の中の、笑いを打ち消した。

張飛!」

 大声で義弟の名を呼びながら、今のところ完璧だと劉備は思った。