小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

趙雲伝

趙雲劉備配下。子供だけど馬術の達人!
陳到劉備配下。神出鬼没の謎の人。覆面をいつもしており、顔を見た人は・・・・・・
紀霊:袁術軍筆頭武将!
袁術:名門袁家のもう一人の主! 徐州攻めに失敗しました……



「いいのか? 見回りなど。お前の右足はまだ……」

「私は大丈夫です。それよりも殿、こんなところに陣を敷いてよろしいのですか? もう夜とはいえ、い
まだ徐州内ですが……」

「心配するな。呂布は我らを攻めようとはしないだろう。我らは、どうどうと揚州を帰ればいい。ここに余裕を持って陣を敷くという事は」

「私達が負けたわけではない、ということを知らしめるためですね」

「ああ、そういうことだ」

「それでは、なおのことです。軍を今一度引き締めて参ります」

「うむ」

 腑が、煮えくりかえりそうだ。殿は、ああは言ったが同じ気持ちなのだろう。

 だが、ここは余裕を持たなければ負けたと思われないようにしなければ……あの小せがれが牙を剥くか
もしれない。

 あれは鋭い牙を持っている。

 殿は、孫策が自分の部下だと信じて疑っていない。

 甘い方だ。

 孫策のほうでは、そうは思っていないだろう。

 あわよくば独立しようと思っているはずだ。



「そこ、居眠りをするな」

「は、はいい!」

 李豊の兵。やはり、麾下の兵と比べると数段劣る。見張りが、居眠りするなどと……

「なんだ、あの人だかりは?」

 陣のすぐ外に人が集まっていた。

 紀霊が近づくと、皆直立した。

「どうした?」

「き、紀霊様! ひ、人がここに倒れておりまして。どうやら劉備軍の生き残りのようであります!」

 紀霊が露骨に舌打ちした。

「李豊め。探索の兵を出していなかったのか。それで、どんな兵士だ?」

「それが、覆面をしていて妙な格好であります!」

「覆面?」

 馬を近づける。

 人が倒れていた。背に矢が刺さっていた。

 ゆっくりと胸が上下に動いている。

 生きている。

「……」

「どうなさいました?」

「この兵士は、私が預かる」

「は、はあ……」

 紀霊が馬から降りる。

 少し右足を引きずりながらその兵士に近づくと、その兵士を脇に抱えた。

 兵士達は、一体どうしたのかという顔をしていた。
「これで、終わりだ。皆持ち場に戻れ!」

「は!」

 紀霊が、ゆっくりと馬に乗った。少し顔を歪めた。
 一瞬のことであった。

「ふん……」

 その兵士は、軽かった。



 小沛の城。そこで劉備達は皆と再会した。劉備の家族、文官である麋竺や簡雍、孫乾

 そして……

劉備様!」

「よう、趙雲! 甘さんや麋さんのこと守ってくれたんだってな。あんがと」

「そんな、当たり前のことをしただけです!」

「当たり前だって。どこその身体だけが大きな弟とは違うねえ」

「けっ(長兄がそうしろって言ったんだろうが)」

「……あの、劉備様。陳到お姉さんは?」

 劉備の顔が変わった。

 関羽張飛も、うつむいていた。

 返事を誰もしなかった。

「あの……」

趙雲、落ち着いて聞いてくれ。陳到は今行方不明なんだ」

「か、関羽さん! いくら冗談でも僕怒るよ!」

「冗談じゃないんだよ趙雲。逃げる途中陳到の背に矢が刺さって、おいらからみるみる離れちまったんだ」

「……」

「今、何人かに探させてる。大丈夫、陳到ならひょっこり戻ってくるさ。いつものように、いきなり俺の
後ろに現れたりしてな。な、関兄、長兄」

「おう」

「そだよ」

「……」



「やっぱり、心配なんです……僕、探しに行ってきます。劉備様、勝手に抜けて申し訳ありません」

 夜、趙雲は寝床を抜け出すと一人で自分の馬の所に向かった。

 馬の前に誰かがいた。

 趙雲ははっと立ち止まった。

劉備……様……」

「やあ、趙雲。夜のお散歩かい? いやねえ、月が綺麗だから、それもいいかもね」

劉備様、雲で覆われて星も月も見えませんけど……」

「あはは……陳到を、探しに行くのかい?」

「はい……あの……」

「行っておいで。ああ、これも持っていきな」

 劉備の言葉は趙雲にとっては意外なものだった。

 ふひゅっと、夜の空気を何かが切り裂く。

 趙雲は、ずっしりとした何かを受け取った。

「これは……」

「折りたたみ式の槍さ。丸腰だと危ないからね。趙雲

「はい!」

「危ないと思ったら、すぐに戻っておいで。陳到も、お前が傷付く事を願ってはいないんだよ」

「分かりました!」

 趙雲は槍を自分の懐にいれると馬に飛び乗った。

 蹄の音がしてすぐに闇に消える。

 その姿が目では追えなくなる。

「ふあ~あ。さてと、おいらはもう一眠りといくか」

 劉備は、城の中に戻っていかなかった。大男二人に、目で合図を送る。

 城門に、どっかりと三人で腰をおろした。

 くしゃみが、三度起きた。