あやかし姫~旅の人(4)~
二人で、小屋を出る。
子供達が、またねえ、っと。
姫様と葉子も、またねえ、っと。
月心も手を振り、また、っと。
「……」
二人、小屋が見えなくなるまで、無言で歩いた。
小屋が見えなくなるのを確認し、葉子が辺りをうかがう。
ただただ、大きく育った若草が風にたなびくだけ。
ただ、二人だけ。
それから、葉子は口を開いた。
「妙な奴、ですねえ……」
「やはり、悪い方ではないと思います」
「姫様がそう言われるならそうなんでしょうね。でも」
「色々と隠し事をしている、ですか」
「うん……あの棚の上にあったのは……あたいには、読めなかったけど……」
「頭領が私やクロさんにくれるのと、似たようなものかと。真新しいものはよく分かりませんが」
「……そっちの、人間なのでしょうか?」
姫様が、少し考えるふうに。
それから、否と首を横にした。
「ないと思います」
「本当に?」
「ええ」
ふ~んと、葉子がつまらなそうにいった。
「姫様は悪い人じゃないというけれど、怪しい奴です」
「葉子さん。始めて会うものに全部話す人はいない、ですよ」
「……そだね」
姫様の言葉は、長年一緒に暮らしていてもそうなのだから。
そう続いている気がした。
葉子の心に、ちくりと痛みが。
「ねえ、今度は太郎も連れて行きたいんだけど……いいかな?」
その痛みを振り払うかのように頭を振ると、葉子が姫様に。
「太郎さん? どうして?」
不思議そうな姫様。
姫様としては、月心は悪い人間ではない。
それで、いいのだ。
子供達も良く懐いているようだし、余計な詮索はこれ以上したくなかった。
古い書物も、月心では使いこなせないであろう。
力が、ある風には見えなかったのだ。
多分、なにかわからないが、価値がある物。
そう考えているのではないかと姫様は思っていた。
「荷物は、そんなに多くないよ?」
「もう一つ、気になる事があるんです」
「葉子さん。心配しすぎですよ」
みんなの、癖です。
いんやと葉子が首を横に。
「獣の、臭い」
「獣?」
「うん……あの男は、人間。それは、間違いないと思う。でも、あの臭いは……獣」
「……そんな臭いをだしそうなものは……なかった」
「いやな、臭いでした。大分薄くなっちゃって、何の臭いかわからなかったけど、いやな臭い。だから、太郎に」
「太郎さん、鼻がききますもんね」
「ええ」
「……わかりました」
ふと、葉子は姫様から新緑の山にその視線を移した。
雲が、山の後ろから顔を出していた。
黒い、雲だった。
それを見て、
「雨、降らないかな?」
葉子が、きいた。
「多分、降らないかと」
姫様が、そう答えた。
そのときだった。
ぽつりと、姫様の手の甲に滴がついた。
子供達が、またねえ、っと。
姫様と葉子も、またねえ、っと。
月心も手を振り、また、っと。
「……」
二人、小屋が見えなくなるまで、無言で歩いた。
小屋が見えなくなるのを確認し、葉子が辺りをうかがう。
ただただ、大きく育った若草が風にたなびくだけ。
ただ、二人だけ。
それから、葉子は口を開いた。
「妙な奴、ですねえ……」
「やはり、悪い方ではないと思います」
「姫様がそう言われるならそうなんでしょうね。でも」
「色々と隠し事をしている、ですか」
「うん……あの棚の上にあったのは……あたいには、読めなかったけど……」
「頭領が私やクロさんにくれるのと、似たようなものかと。真新しいものはよく分かりませんが」
「……そっちの、人間なのでしょうか?」
姫様が、少し考えるふうに。
それから、否と首を横にした。
「ないと思います」
「本当に?」
「ええ」
ふ~んと、葉子がつまらなそうにいった。
「姫様は悪い人じゃないというけれど、怪しい奴です」
「葉子さん。始めて会うものに全部話す人はいない、ですよ」
「……そだね」
姫様の言葉は、長年一緒に暮らしていてもそうなのだから。
そう続いている気がした。
葉子の心に、ちくりと痛みが。
「ねえ、今度は太郎も連れて行きたいんだけど……いいかな?」
その痛みを振り払うかのように頭を振ると、葉子が姫様に。
「太郎さん? どうして?」
不思議そうな姫様。
姫様としては、月心は悪い人間ではない。
それで、いいのだ。
子供達も良く懐いているようだし、余計な詮索はこれ以上したくなかった。
古い書物も、月心では使いこなせないであろう。
力が、ある風には見えなかったのだ。
多分、なにかわからないが、価値がある物。
そう考えているのではないかと姫様は思っていた。
「荷物は、そんなに多くないよ?」
「もう一つ、気になる事があるんです」
「葉子さん。心配しすぎですよ」
みんなの、癖です。
いんやと葉子が首を横に。
「獣の、臭い」
「獣?」
「うん……あの男は、人間。それは、間違いないと思う。でも、あの臭いは……獣」
「……そんな臭いをだしそうなものは……なかった」
「いやな、臭いでした。大分薄くなっちゃって、何の臭いかわからなかったけど、いやな臭い。だから、太郎に」
「太郎さん、鼻がききますもんね」
「ええ」
「……わかりました」
ふと、葉子は姫様から新緑の山にその視線を移した。
雲が、山の後ろから顔を出していた。
黒い、雲だった。
それを見て、
「雨、降らないかな?」
葉子が、きいた。
「多分、降らないかと」
姫様が、そう答えた。
そのときだった。
ぽつりと、姫様の手の甲に滴がついた。