小説置き場2

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徐州の戦(1)

臧覇「始まったぜ」

張遼臧覇、ちゃーんとやってよ」

臧覇「誰に向かって言っているんだ?」

張遼臧覇

 二人、友軍が前進するのを眺めていた。

 高順の軍が、動き始めている。

 張遼臧覇。右軍の指揮官である。

 張遼は青龍刀、臧覇は大斧を得物としていた。

 黒捷が、しきりに地面をかいていた。

張遼「どうどう。黒捷、まだだからねー」

臧覇「……来るぞ」

張遼「よーし、わたしたちも行くよー! 目標は……」

 一呼吸置く。張遼は、呂布軍では最も幼い姫将軍である。

 それでいて、武将第二位の地位を占めていた。

張遼曹仁と、曹洪の首」

 それには、理由がある。

 張遼は、呂布の義妹の名に恥じぬ武勇と統率力を持っている。

 そして、狂気も。



楽進「いいのかなー、俺達で」

徐晃「知らないよ。殿にはお考えがあるんだろうけど」

于禁「……来るぞ。守りを固めろ」

李通「于禁先輩、分かりました!」

 曹操軍の中央を占めるのは、于禁徐晃楽進・李通の四人である。

 于禁を除けば、まだ将軍となって日が浅い。

 不安なのだ。

于禁「……よいか、ただ前にいる敵を打ち倒すことに集中せよ」



夏惇侯「……どうした、ものか……」

 手紙を、片手で握りつぶす。

 曹操の腹心夏惇侯は、右軍の指揮官である。前の戦と同じく李典が副将。

 率いる兵は三万。

 対峙するのは、陳珪率いる二万五千。

 ぶつかり合いで、負けるとは思えない。

 しかし、夏惇侯は悩んでいた。

 手紙の内容は、

「ワレ、イクサニサンカセズ」

 というものだった。

 手紙の主は陳珪。

 度々、陳珪が親子で呂布に使えるようになってから度々、文のやりとりをしていた。

 二人は、同じ師に師事していたときがあるのだ。

 それは、師が殺されるときまで続いた。

 夏惇侯は、陳珪が好きではなかった。

 優秀な男だということは認める。だが、信義に欠けるところがあった。

 自分が上にいくためなら、平気で人を裏切るのだ。

 陳珪にとって上にいくというのは、一番になるという意味ではない。

 二番になることだ。

 それが、夏惇侯の知る陳珪だった。

 呂布には、高順と陳宮がいる。よっぽどのことがない限り、第二位にはなれないだろう。

 それどころか、将軍としては張遼に続いて第三位。

 あの男が我慢できる境遇ではない。

 そこまで考えて、夏惇侯は柄にもないことをと頭を振った。

夏惇侯「……曹操ならいざ知らず、俺に人の心が読めるかよ……」

李典「夏惇侯様、いきますか?」

夏惇侯「いや……だが李典、兵一万をいつでも『動ける』ようにしておけ」

李典「はあ? 動けるとは?」

夏惇侯「一時間たったら、高順の横っ腹を一万で突け」

李典「無理です! 数が!」

夏惇侯「俺たちが交戦しなければだがな」

李典「それは……交戦、しない?」

夏惇侯「俺もよくわからん。わからんが、お前は俺の副将だ。いいから従え」

李典「前はそれで……」

夏惇侯「前は前!」

李典「ひっ! 御意……」



曹操「凄まじい勢いだな」

 呆れたように言った。

 高順の勢いは凄まじい。喰らいに、きている。

 ともすると打ち破られそうになる徐晃楽進・李通の三部隊を、于禁が巧く繕っていた。

 それにも、限界がある。

曹操「しかし情けない。四万の兵で……そうだな、一万五千を押さえきれんのか」

劉備曹操どん、どうするんですかい? おいら達も?」

曹操「……駄目だ。魏続達がまだ戦場に参加していない」

劉備呂布さんも姿をみせていませんしね~」

 その通りと、こくりと頷く。

曹操「左軍は、互角か」

 曹仁曹洪はうまく戦っている。

 突出しがちな曹洪を、曹仁がうまく押さえていた。

 曹洪は高順とぶつかりたい。そう願ったが、曹操は聞き入れなかった。

 恨みは強さになれば弱さにもなる。

 高順にむきになり、隙をつくれば、呂布の牙の餌食となる。

 そう、判断したのだ。

劉備「ありゃあ、また危なくなってるねえ」

 徐晃の部隊が、包囲されかかっている。

 楽進、李通が助けようとしているが、うまくいかない。

曹操「……最初に潰れるのは……」

 于禁の部隊の突撃も、うまく受け流された。

 受け流しながら、高順の部隊が、徐晃の部隊を飲み込む。

 耐えきれなくなった。潰走、し始めた。

曹操徐晃の、軍か」