小説置き場2

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徐州の戦(2)

 呂布。後方で、戦の流れを見ていた。

 飢えた獣達が今か今かと餌をねだる。

 高順の軍が、一軍を包囲した。

 それを見て、武将を二人呼び寄せる。モヒカンの将と、スキンヘッドの将。

 一人は、腰に双剣を差していた。

 一人は、槍を持っていた。二人とも、鈴を腰につけていた。

呂布「宋憲! 侯成!」

宋憲・侯成「「は!」」

呂布「いって」

宋憲・侯成「「はい!」」

 握っていた三頭の獣の三本の手綱のうち、二本を外した。

 戦場を、飢えた獣が二頭、吠えながら走り出す。

 瞬く間に手負いの獣三匹に、襲いかかった。

 呂布は、満足そうに頷いた。

 それから、左を見る。

 今だ、戦の気配がなかった。

呂布「どういう……こと?」

 陳珪の部隊は、呂布の軍で最弱。

 それは、わかっている。

 陳珪に最大の数を与えたのは、弱さを補うためと、出来るだけ敵を引きつけるため。

 だから、激しい戦をしなくてもいい。

 陳珪は、そういう戦に長けていた。それで、彼を当てたのだ。

 だが……

呂布「あっちには、曹操さんの軍がほとんどいないってこと?」

 どちらも、見せかけの軍を投入したの?

 そう、呂布は思った。

呂布「それなら、説明はつくけど……なんだろう?」

 嫌な予感が、した。

 

曹操「……」

 曹操は、腕組みをして戦場を見つめていた。

 二軍、投入された。于禁達はますますきつくなっているはずだ。

 曹仁曹洪も、押し気味ではあるが、完全に、ではない。
 
 あと、少し。

 そこまでいくと、大斧を持った武将に率いられた歩兵に、邪魔されるのだ。

 そちらに気をやると、張遼の突撃を喰らう。

 じりじりと、押すしかなかった。

郭嘉「殿、我が軍の狼が焦れ始めてきましたぞ」

 郭嘉曹操の軍師の中で、最も若い男である。

 荀彧、荀攸、程昱が曹操に付き従う中、ただ一人本陣を離れていた。

劉備「狼?」

関羽張飛「「……」」
 
曹操「それで?」

郭嘉「いや、その……」

曹操郭嘉。夏惇侯と対峙している軍の動きをどうみる」

郭嘉「……戦をする気が、あるのか?」

曹操「同じ、考えか。程昱は?」

程昱「夏惇侯殿がうまく封じているという考えもございますが」

 荀彧と荀攸は、意見を聞かれる前に首を横に振った。

 二人は、どちらかというと文官なのだ。戦は得意ではない。

曹操「……劉備殿は?」

劉備「おいら? いやー、困っちゃうね」

 あははと、頭を掻く。

曹操劉備殿は?」

 もう一度、聞いた。

 劉備の、手が止まる。それから、ずいっと前に乗り出した。

劉備「あれは、呂布さんの軍かい?」

曹操「……なに?」

劉備「ありゃあ、徐州の兵だ。元々、おいらの軍さ。だから、よくわかる。あれは、今呂布さんのもとで戦をして、いない」

 ふふんと、劉備が笑った。

曹操「……郭嘉、狼に伝えよ」

郭嘉「は!」

曹操「隻眼の間抜けの後ろにつけと」

郭嘉「りょうーかい」

 

呂布「やっぱり、おかしいよ!」

魏越「?」

呂布「陳珪の様子、見てくる!」

成廉「はあ」

呂布「行ってくるね! 留守、よろしく!」

魏越「はーい……って、ちょっとまったー!!!」

 魏越が、呂布の腕を掴む。

 なに! っと、呂布が腕を振りほどく。

 なだめるように、成廉が呂布に言った。

成廉「まあまあ。呂布様単騎でですか」

呂布「うん」

魏越「それは、駄目です。我々もいきます」

 呂布の麾下。漆黒の騎馬隊。一斉に動き始めた。

呂布「……もう、わかったよ。でも、私一人でも、なにも危ないことないよ? だって、味方の様子を見に行くだけだし」

成廉「別働隊がいたら、困りますから。曹操にも、貂蝉さまのような方がいるかもしれないし」

呂布「……そうだね」

 なんとなく、納得した。

魏続「呂布様」

 鈴が、なる。

呂布「魏続は私が帰ってくるまで、待機ね」



陳珪「そうか、呂布殿がこちらにくるか」

 伝令。報告を聞いてから、下がらせた。

 弓矢を、もつ。

 戦は、まだ始まっていない。そう、思った。

 今からだと、陳珪は思った。