あやかし姫~百華燎乱(4)~
「そうか、お前が『あの』鞍馬山の黒之助か」
「ああ」
「強いな。いや、見事な強さだ」
「……ふん」
「俺は、黒野丞というんだ。しがない、化け蜘蛛よ。お。そういえば、同じ黒だな」
「ん……」
「ナア、オマエ、オレトクマナイカ?」
「なんだ、今の雷は」
大蜘蛛が、煙を立てながら黒之助に向き直った。
青い目が赤い光芒を帯び始めている。
黒之助の稲妻。
直撃したにも関わらず、ほとんど効いていないようだった。
「黒之助、腕がなまったか?」
大蜘蛛の大脚が宙に浮く黒烏に伸びた。
一段高く飛んで、黒之助はそれから逃れようとした。
「逃さんよ!」
糸を吐いた。
右羽にそれが絡まる。黒之助の体勢が崩れた。
引きずられる。
大脚。
空気を、裂いた。
その切っ先を、手に持つ錫杖の中腹で受け止める。
錫杖が悲鳴をあげた。
悲鳴をあげ、へし折れた。
咄嗟に、身体を捻った。
大脚が右肩を掠める。
血に染まった黒い羽が、ぱらぱらと落ちた。
「か!」
大蜘蛛が、裂帛の気合いを入れると機敏にその身体を廻した。
黒之助を地に叩きつける。
大地が、音を立て揺れる。
糸を、切り離す。
大蜘蛛は、待っているようだった。
黒之助が立ち上がるのを。
相変わらず、ちかちかと赤い光が点滅していた。
「なあ、おい。あれから六十年ばかし経ってるんだ。こんなもんじゃないだろう? 早く立てよ。本気、見せてくれよ。お前の力がいるんだ。今度こそ、あの宝玉を手に入れるんだよ!」
烏天狗。
折れた錫杖を握ったまま、目を瞑っていた。
黒之助は、動かなかった。
「弱い……」
傷付いた妖が逃げていく。
それを、烏天狗が面白げなく見つめている。
何かが木の上から投げられた。
手で、受け止める。
男が、白い糸を伝って木から下りてきた。
「今日も負け無し、か。山葡萄だ。酒の肴よ」
「すまんな、黒野丞」
「気にするな。俺とお前の仲だろうが」
「ふむ」
焚き火。
二人の顔を赤く照らしている。
一方の男は、楽しそうに酒を飲んでいた。
もう一人は、無表情に葡萄を口に入れていた。
「やっぱり、お前は強いな」
「そうだな……強かろうな」
「どうした? いつもより辛気くさい顔だな」
「今日、大天狗様に呼ばれた」
黒之助が、山葡萄を一粒、その手の平で転がした。
「ということは……」
黒野丞は息を呑んだ。
黒之助の次の言葉を待つ。
「今年も、拙者は天狗にはなれぬそうだ」
ぐっと、葡萄を握りつぶす。
やれやれと息を吐くと、黒野丞は木の枝を掴んだ。
ぱちんと折ると、それを火にくべた。
「腹立たしいことよ。あの山で……いや、全国でも、拙者に勝てる烏天狗はそうはおらん」
「だろうな」
そういって、黒野丞はまたぱちんと枝を折った。
「天狗でも、勝てる。それなのに、だ。いつまで、待てばいいのだ」
「さあな……知るもんか」
黒野丞が、ごろりと横になった。
火が燃える音。葉が擦れる音。
よく、聞こえた。
「どうしてだ」
「知るかよ……」
流れ星。
光って、消えた。
こうこうと、虫達が泣いている。
突然、黒野丞が起きあがった。
「お前はいいさ。それだけ強いのだから」
「……急に何を言い出すのだ?」
酔いが廻ったのかと思った。
「俺を見ろよ。弱い弱い化け蜘蛛だ」
「……おぬしは、十分強くなったと思うぞ」
「足りねえよ。まだまだ、足りねえ。俺は、大妖と呼ばれる奴らに勝る強さが欲しいんだよ」
鞍馬の大天狗様、酒呑童子様。
その名は、雲の上。
雲の上の、存在。
「……難しいな……」
「ここまでこれたんだ。ちっぽけな蜘蛛からよ……」
黒野丞が歳経た蜘蛛なのだと、黒之助は始めて知った。
以外な気がした。
それで、この男は一人なのかと思った。
「今、狙ってるもんがある」
「なんだ?」
珍しいと思った。言葉に、熱がある。
「宝玉だ。手に入れられれば、力が得られるというな」
黒野丞が興奮しだしていた。
「……嘘くさい話だ」
「あれは本物だ。間違いない。この目で見たんだ。あの輝き、あれは、俺のためにある」
酔っている。酒にではなく、酔っている。
「そんなに欲しいのか」
「ああ。ただ、結界が邪魔でな。俺ではそれを越えられないのだ」
肩を、落とした。
「俺では、か。拙者では?」
「いけるかもしれん。いや、いける。手伝ってくれるのか?」
「……いいだろう、やってやる」
ちょうどいい、憂さ晴らしになるかもしれない。
そう、思った。
「それは、鞍馬山にあるんだ」
「おい!」
「……聞こえている」
黒之助が起きあがった。
背中にしょいし籠から貝殻を取り出すと、中の黄色の軟膏を肩に塗った。
大蜘蛛は、それを大人しく眺めていた。
「黒野丞。お前まだ、あの宝玉を諦めていないのか?」
「……当たり前だろう」
折れた錫杖を投げ捨てる。
代わりに、腰に挿していた短剣を手にした。
「そうか……六十年、ずっと魅入られたままなのだな、お前は」
「お前も知っているだろう? あの素晴らしさ。あれこそ、宝というべき代物よ」
「宝はもう、手にした」
小さく、笑った。
それは、古寺にある。
「なんだと?」
「もう、あの宝玉はないのだ。それでも、まだ魅入られたままか?」
穏やかに、丁寧に、一文字一文字はっきりと、黒之助はいった。
「嘘だ!!!!!!」
大蜘蛛が、吠えた。
「嘘ではない!!!」
黒之助も、吠えた。
「お前も、聞かされたはずだ。あの宝玉は、三年前一匹の鬼に盗まれ、その鬼の首を引きちぎった酒呑童子様に壊されたと」
「……聞いたさ」
「ならば!」
「そんな話、信じられるか!」
糸を吐く。
黒之助は、糸を避けようともしなかった。
「何度も聞かされた。だが、俺は信じぬ!」
白い、人の形をしたもの。
糸を受け続け、黒之助の身体は見えなくなっていた。
「もう、いい。もう、貴様には頼まぬ! 誰か、他の……誰か……」
「当てが、あるのか?」
「ぐ……」
「お前は、変わらなかったのだな」
火が噴き上がった。
白い糸が真っ赤に燃える。
黒之助の全身を覆っていた糸が、焼け落ちる。
火は、大蜘蛛に燃え移ろうと。
慌てて、糸を口から切り離そうとした。
間に合わなかった。
黒之助。
短剣が薄く光っている。印を組んでいた。
火は、黒之助の指先から溢れていた。
「さっきの雷、手を抜いていたのだろうな。姫さんのことなのに。拙者も、甘いな」
大蜘蛛はその身を灼かれ、けたたましく悶え狂う。
火は、さらにさらに勢いを増す。
煉獄の火。
黒之助が、哀しげな顔になった。
「お前は、昔の拙者なのだ……だから……やはり、甘いな」
火が、消えた。
黒之助が、印を解いたのだ。
ゆっくりと、近づく。
人の姿になって、ゆっくりと。
黒い円が出来ている。剥き出しの、灼き焦げた土。
黒ずんでいた。
中心に、人がいた。
黒野丞、であった。
全身に火傷を負っている。荒い息をしていた。
「命は獲らぬ。そこの天狗共にお前を渡して、しまいだ」
黒之助が手を伸ばした。担ごうとしたのだ。
背を、向けた。
そのとき、黒野丞の大きな瞳が、黒之助の姿を収めた。
虚ろであった。
腕が、蟲の腕になった。
灼けて、嫌な匂いがする。
異変に気付いて、黒之助が飛びずさった。
「誰だ、お前……」
黒之助の左羽が、無くなっていた。
すっぱりと、斬られたのだ。
黒野丞の鋭い鎌に。
それは、巨大な蟷螂の鎌であった。
この佇まい――覚えが、あった。
「あの犬神と、同じ……」
黒之助の目が、男の胸元に留まった。
宝玉。
埋め込まれている。
いや、宝玉が、自ら肉の根を張っている。
あの時の……
ぎりりと、強く、強く、噛み締めた。
魅入られたのではない。
一体となっていたのだ。
あのとき、黒野丞は手に入れていたのだ。
自分を捨て石にし、宝玉に手を伸ばしたときに。
確かに、一瞬触れた。
すぐに、大天狗様に打ち据えられ、その手は離れたが。
そのときに、宿られたのだな。
生きた、宝玉。
黒夜叉という男も、その身に宝玉を宿していた。
そのことに、酒呑童子様ですら気がつかなかった。
見張りの烏天狗に、気がつけるはずが……
そう思ったときには、黒之助の身体を蜘蛛の脚が貫いていた。
伸びた脚が、主の元へ獲物を連れ戻っていく。
黒野丞と触れるか触れまいか。
そこまで、近づいた。
大顎が開けられる。
かちかちと、音を鳴らした。
他人事のように、黒之助はその光景を見つめていた。
天狗。
黒野丞の背後から三匹。血相を変えて、錫杖を振りかぶる。
自分より、若い。
一人は、知っている顔だ。
恐らく、間に合うまい。そう、思った。
「ああ」
「強いな。いや、見事な強さだ」
「……ふん」
「俺は、黒野丞というんだ。しがない、化け蜘蛛よ。お。そういえば、同じ黒だな」
「ん……」
「ナア、オマエ、オレトクマナイカ?」
「なんだ、今の雷は」
大蜘蛛が、煙を立てながら黒之助に向き直った。
青い目が赤い光芒を帯び始めている。
黒之助の稲妻。
直撃したにも関わらず、ほとんど効いていないようだった。
「黒之助、腕がなまったか?」
大蜘蛛の大脚が宙に浮く黒烏に伸びた。
一段高く飛んで、黒之助はそれから逃れようとした。
「逃さんよ!」
糸を吐いた。
右羽にそれが絡まる。黒之助の体勢が崩れた。
引きずられる。
大脚。
空気を、裂いた。
その切っ先を、手に持つ錫杖の中腹で受け止める。
錫杖が悲鳴をあげた。
悲鳴をあげ、へし折れた。
咄嗟に、身体を捻った。
大脚が右肩を掠める。
血に染まった黒い羽が、ぱらぱらと落ちた。
「か!」
大蜘蛛が、裂帛の気合いを入れると機敏にその身体を廻した。
黒之助を地に叩きつける。
大地が、音を立て揺れる。
糸を、切り離す。
大蜘蛛は、待っているようだった。
黒之助が立ち上がるのを。
相変わらず、ちかちかと赤い光が点滅していた。
「なあ、おい。あれから六十年ばかし経ってるんだ。こんなもんじゃないだろう? 早く立てよ。本気、見せてくれよ。お前の力がいるんだ。今度こそ、あの宝玉を手に入れるんだよ!」
烏天狗。
折れた錫杖を握ったまま、目を瞑っていた。
黒之助は、動かなかった。
「弱い……」
傷付いた妖が逃げていく。
それを、烏天狗が面白げなく見つめている。
何かが木の上から投げられた。
手で、受け止める。
男が、白い糸を伝って木から下りてきた。
「今日も負け無し、か。山葡萄だ。酒の肴よ」
「すまんな、黒野丞」
「気にするな。俺とお前の仲だろうが」
「ふむ」
焚き火。
二人の顔を赤く照らしている。
一方の男は、楽しそうに酒を飲んでいた。
もう一人は、無表情に葡萄を口に入れていた。
「やっぱり、お前は強いな」
「そうだな……強かろうな」
「どうした? いつもより辛気くさい顔だな」
「今日、大天狗様に呼ばれた」
黒之助が、山葡萄を一粒、その手の平で転がした。
「ということは……」
黒野丞は息を呑んだ。
黒之助の次の言葉を待つ。
「今年も、拙者は天狗にはなれぬそうだ」
ぐっと、葡萄を握りつぶす。
やれやれと息を吐くと、黒野丞は木の枝を掴んだ。
ぱちんと折ると、それを火にくべた。
「腹立たしいことよ。あの山で……いや、全国でも、拙者に勝てる烏天狗はそうはおらん」
「だろうな」
そういって、黒野丞はまたぱちんと枝を折った。
「天狗でも、勝てる。それなのに、だ。いつまで、待てばいいのだ」
「さあな……知るもんか」
黒野丞が、ごろりと横になった。
火が燃える音。葉が擦れる音。
よく、聞こえた。
「どうしてだ」
「知るかよ……」
流れ星。
光って、消えた。
こうこうと、虫達が泣いている。
突然、黒野丞が起きあがった。
「お前はいいさ。それだけ強いのだから」
「……急に何を言い出すのだ?」
酔いが廻ったのかと思った。
「俺を見ろよ。弱い弱い化け蜘蛛だ」
「……おぬしは、十分強くなったと思うぞ」
「足りねえよ。まだまだ、足りねえ。俺は、大妖と呼ばれる奴らに勝る強さが欲しいんだよ」
鞍馬の大天狗様、酒呑童子様。
その名は、雲の上。
雲の上の、存在。
「……難しいな……」
「ここまでこれたんだ。ちっぽけな蜘蛛からよ……」
黒野丞が歳経た蜘蛛なのだと、黒之助は始めて知った。
以外な気がした。
それで、この男は一人なのかと思った。
「今、狙ってるもんがある」
「なんだ?」
珍しいと思った。言葉に、熱がある。
「宝玉だ。手に入れられれば、力が得られるというな」
黒野丞が興奮しだしていた。
「……嘘くさい話だ」
「あれは本物だ。間違いない。この目で見たんだ。あの輝き、あれは、俺のためにある」
酔っている。酒にではなく、酔っている。
「そんなに欲しいのか」
「ああ。ただ、結界が邪魔でな。俺ではそれを越えられないのだ」
肩を、落とした。
「俺では、か。拙者では?」
「いけるかもしれん。いや、いける。手伝ってくれるのか?」
「……いいだろう、やってやる」
ちょうどいい、憂さ晴らしになるかもしれない。
そう、思った。
「それは、鞍馬山にあるんだ」
「おい!」
「……聞こえている」
黒之助が起きあがった。
背中にしょいし籠から貝殻を取り出すと、中の黄色の軟膏を肩に塗った。
大蜘蛛は、それを大人しく眺めていた。
「黒野丞。お前まだ、あの宝玉を諦めていないのか?」
「……当たり前だろう」
折れた錫杖を投げ捨てる。
代わりに、腰に挿していた短剣を手にした。
「そうか……六十年、ずっと魅入られたままなのだな、お前は」
「お前も知っているだろう? あの素晴らしさ。あれこそ、宝というべき代物よ」
「宝はもう、手にした」
小さく、笑った。
それは、古寺にある。
「なんだと?」
「もう、あの宝玉はないのだ。それでも、まだ魅入られたままか?」
穏やかに、丁寧に、一文字一文字はっきりと、黒之助はいった。
「嘘だ!!!!!!」
大蜘蛛が、吠えた。
「嘘ではない!!!」
黒之助も、吠えた。
「お前も、聞かされたはずだ。あの宝玉は、三年前一匹の鬼に盗まれ、その鬼の首を引きちぎった酒呑童子様に壊されたと」
「……聞いたさ」
「ならば!」
「そんな話、信じられるか!」
糸を吐く。
黒之助は、糸を避けようともしなかった。
「何度も聞かされた。だが、俺は信じぬ!」
白い、人の形をしたもの。
糸を受け続け、黒之助の身体は見えなくなっていた。
「もう、いい。もう、貴様には頼まぬ! 誰か、他の……誰か……」
「当てが、あるのか?」
「ぐ……」
「お前は、変わらなかったのだな」
火が噴き上がった。
白い糸が真っ赤に燃える。
黒之助の全身を覆っていた糸が、焼け落ちる。
火は、大蜘蛛に燃え移ろうと。
慌てて、糸を口から切り離そうとした。
間に合わなかった。
黒之助。
短剣が薄く光っている。印を組んでいた。
火は、黒之助の指先から溢れていた。
「さっきの雷、手を抜いていたのだろうな。姫さんのことなのに。拙者も、甘いな」
大蜘蛛はその身を灼かれ、けたたましく悶え狂う。
火は、さらにさらに勢いを増す。
煉獄の火。
黒之助が、哀しげな顔になった。
「お前は、昔の拙者なのだ……だから……やはり、甘いな」
火が、消えた。
黒之助が、印を解いたのだ。
ゆっくりと、近づく。
人の姿になって、ゆっくりと。
黒い円が出来ている。剥き出しの、灼き焦げた土。
黒ずんでいた。
中心に、人がいた。
黒野丞、であった。
全身に火傷を負っている。荒い息をしていた。
「命は獲らぬ。そこの天狗共にお前を渡して、しまいだ」
黒之助が手を伸ばした。担ごうとしたのだ。
背を、向けた。
そのとき、黒野丞の大きな瞳が、黒之助の姿を収めた。
虚ろであった。
腕が、蟲の腕になった。
灼けて、嫌な匂いがする。
異変に気付いて、黒之助が飛びずさった。
「誰だ、お前……」
黒之助の左羽が、無くなっていた。
すっぱりと、斬られたのだ。
黒野丞の鋭い鎌に。
それは、巨大な蟷螂の鎌であった。
この佇まい――覚えが、あった。
「あの犬神と、同じ……」
黒之助の目が、男の胸元に留まった。
宝玉。
埋め込まれている。
いや、宝玉が、自ら肉の根を張っている。
あの時の……
ぎりりと、強く、強く、噛み締めた。
魅入られたのではない。
一体となっていたのだ。
あのとき、黒野丞は手に入れていたのだ。
自分を捨て石にし、宝玉に手を伸ばしたときに。
確かに、一瞬触れた。
すぐに、大天狗様に打ち据えられ、その手は離れたが。
そのときに、宿られたのだな。
生きた、宝玉。
黒夜叉という男も、その身に宝玉を宿していた。
そのことに、酒呑童子様ですら気がつかなかった。
見張りの烏天狗に、気がつけるはずが……
そう思ったときには、黒之助の身体を蜘蛛の脚が貫いていた。
伸びた脚が、主の元へ獲物を連れ戻っていく。
黒野丞と触れるか触れまいか。
そこまで、近づいた。
大顎が開けられる。
かちかちと、音を鳴らした。
他人事のように、黒之助はその光景を見つめていた。
天狗。
黒野丞の背後から三匹。血相を変えて、錫杖を振りかぶる。
自分より、若い。
一人は、知っている顔だ。
恐らく、間に合うまい。そう、思った。