小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫~想い告げし告げられし(1)~

 良い気分だった。
 真っ昼間から、ほろ酔い気分。
 ……見つかったらただじゃすまないが。
 それでも、良い、気分。
 こっそり隠れて呑むのが、また、良いのだ。
「……見つからなければ……な」
 古寺の蔵の影。
 庭の、逆側。
 そこに、妖が四匹ほど。
 中心には、頬を桃色に染めた烏天狗
 くいっと、盃の酒を飲み干すと、黒之助は飴玉に手を伸ばした。
「昼間から豪勢だね、黒之助さん!」
「しぃっ! 静かに!」
 鎌鼬三兄弟。
 長兄が末弟に注意して。
 鎌之末は、ごめんごめんと鎌之千に謝った。
 ころころと、舌の上で飴を転がす。
 ふむと、甘い息を吐いた。
「鎌之千、鎌之丹、鎌之末……だっけ?」
 どれがどれだかわからぬが。
 鎌鼬は、ふわふわととろんとした目で黒之助を見た。
「そうですよ、いいかげん」
「難しいなぁ……全員一緒に見えるし」
「いつか、おいら達もクロさんみたいに強い妖になるもんねー」
 べーっと鎌鼬が舌を出す。
 早くそうなってもらいたいもんだ。そう、黒之助が笑った。
 三匹の妖――葉子、太郎、黒之助には、小妖の区別があまりつかない。
 力の差が、ありすぎるのだ。
「クロさん」
「ひ、姫さん!?」
 げほんと、飴を喉に詰まらせて。
 ぴーっと鎌鼬が逃げていって。
 酔いが一気に醒めやって。
 胸を叩き、顔を赤くし青くしながら、黒之助はそーっと振り返った。
「だ、大丈夫?」
 ことりと、飴が喉を落ちた。
 心配そうに、姫様が烏天狗を覗き込んだ。
「あー、はい。拙者は」
「ふーん……」
「えっと、これは、そのですね……」
 あいつらと、少し羽を動かした。
 姫様が、何も言わずに黒之助の横を通っていく。
 ちょこんとしゃがむと、
「いいですね。真っ昼間から、お酒を呑んで」
 からからと瓶子を振りながら、そう、言った。
「……はは……」
 姫様の背中を見ながら、そーっと、その場を離れようとした。
「どこに、行くつもりですか?」
「……さ、さぁ」
「まあ、いいです。いつものことですから」
 姫様が微笑む。怒って、いない。
 ほっと、黒之助は胸を撫で下ろした。 
「クロさん。太郎さん、どこへ行ったか知りませんか?」
 瓶子を置く。飴玉をとんと、口に含んだ。
「太郎殿?」
 少し、首を捻った。
「昼食のときから、見ていませんが?」
「そう……そうですか」
 姫様が顔を曇らせた。
 あんまり飲み過ぎないようにと言うと、その場を立ち去っていく。
 鎌鼬達が、ふわっと穏やかな風立て、黒之助の周りに戻ってきた。
「ふー、怒られるかと思った」
「なー」
「どうしたの、黒之助さん。怖い顔して」
「ん……ああ、いや」
 どこにいるかわからないだと?
 拙者の場所は、すぐに見つけたのに。
 呑み直すか。
 そう言うと、鎌鼬がうんうん頷いた。