小説置き場2

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あやかし姫番外編~鬼之姫と(2)~

「お勉強ねぇ」
「お勉強ですよー」
 次の日、またまた同じ部屋。
 同じように、鬼の娘。足を投げ出し、本を広げて。
 そして、四人の、鬼。
 囲碁を打っている者や、寝そべっている者や、女の子と同じように本を広げている者や。
 小さな女の子と、男が四人。男達は、顔が、似通っていた。
 ――四つ子。
 額には、立派な角。
 藍、赤、黄、緑。
 派手な柄の衣を身に着けていた。
「勉強は……嫌いだ」
「違いねぇ!」
「駄目だな、お前ら」
「お前も、そうだろうがよ」
 石熊童子
 星熊童子
 金熊童子
 虎熊童子
 鬼ヶ城の、東西南北四方に在する支城を任されし鬼達。
 ――鬼の、四天王。
 そう、呼ばれていた。
うるさいうるさいうるさいです!」
 さんざんと話し始める鬼達に、朱桜が声を荒げた。
 黙って首をすくめる三人。
 石熊童子が、「俺はうるさくしてない」と、憮然とした表情で呟いた。
「邪魔するなら、出ていくですよ!」
「それは無理だって」
「お二方に、見ているように頼まれたもの」
「うん」
 優雅な仕草で口々に。そんな鬼達を、朱桜はじとーっと見やった。
「はいです」
 それから、こくんと頷いた。四人といるのは、嫌いじゃない。
 むしろ、好き。
 数少ない、自分に話しかけてくれる鬼達。
 鬼の王の娘。
 それは、壁を作った。
 父、
 叔父、
 四天王。
 気軽に話しかけてくる者は、限られていて。
 ぱたんと、本を閉じる。部屋を出ようと、そんな仕草を。うんしょうんしょと手を伸ばす。
 小さいから手が届かない。
 星熊童子が、そんな朱桜を見かねて扉を開けた。
「どこに?」
「もうすぐ、来るですよ。だから、出迎えるですよ」
「は?」
 ぽかんとした表情を、四人は浮かべた。
「茨木様も酒呑様も、今日は」
「違いますよ?」
 とことこと、歩いていく。四天王も、ついていく。
 行き交う鬼達が、朱桜と四つ子に挨拶する。
 どこか、ぎこちない挨拶。
 少し、唇を尖らせた。
「彩花さんですか?」
「違います」
 足を、止めた。あれ? と、朱桜は不思議そうな顔をした。
「どうして、知らないですか?」
「どうして、知っているんですか?」
「……あれ?」
 ほいと、懐から手紙を取り出し、少し迷ってから、石熊に見せた。
 受け取る。
 読む。
 さーっと、血の気が引いていく。
「……あー、あー」
「石熊?」
 読め、いいから早く読め。身振り手振りで、そう、伝えた。
 三人が、不審そうな顔を。
 とりあえず、言うとおりにした。すると、三人とも、石熊と同じ顔色になった。
 面白いように、血の気が引いていく。真っ青になる。
 わなわなと、指先が震えた。
 今度は、朱桜が慌てる番で。
「な、なんですか!? み、みなさん!?」
 あう、あうう?
 ぺたぺたと四人の周りを駆け回る。
 それから、
「わ、私に出来る事は! こ、こんな時こそ落ち着いて! 深呼吸です、深呼吸! とにかく、みなさんの症状から考えるに……」
 わかんないです!
 混乱、混乱。
 大混乱である。
「そうだ、とにかく寝て下さい! 布団、布団!」
「いや、病気じゃないけど……」
「……やべえだろ、これ」
「これ、酒呑様に見せましたか?」
「……はわ?」
「大丈夫ですよ。それよりも、これ、見せましたか?」
「……あー、忙しそうでしたね」
 朱桜は、ほっと胸を撫で下ろすと、朝の事を思いだし、そう、答えた。
 朝。
 手紙が届いた。一読し、すぐに父上に手紙を渡そうと。
 けれど、忙しそうで。自分も手伝って。
 そのまま、父上は出かけてしまって。
 手紙は、朱桜の懐にしまいこんだままで――
「見てない、っと……」
 石熊童子が、頭を抱えた。
「ど、どうすんだ?」
 星熊童子が、頭を抱えた。
「いや、待て。ここには、あの人が来るとは書いていない」
 金熊童子が、そう、言った。
「だ、だよな……うん」
 虎熊童子が、おうと頷いた。
「変なの……白月ちゃんと光くんが、遊びに来るだけじゃないですか」
 同じ困惑顔をする鬼達を見ながら、朱桜は、そう、呟いた。