あやかし姫番外編~鬼之姫と(1)~
「なに、してるんだ?」
「お勉強ですよー」
「ふーん」
大江山。
西の鬼々が集う豪華絢爛鬼ヶ城。
その、中程に位置する一部屋。
男が、いた。美しい鬼が、いた。
顔を覗き込んだ。
女の子の、顔を。
小さな角を額に生やした女の子。
鬼の、娘。
本を広げていた。
熱心に、本を読んでいた。
「なんのお勉強?」
西の鬼を束ねる大妖――酒呑童子。
その娘の朱桜。
朱桜が、ちょこんと顔をあげた。
酒呑童子が、少し目を細めた。
「医術です」
「ふむ」
酒呑童子が、朱桜が読んでいた本を手に取った。
「父上ー」
朱桜が、あうーと本に手を伸ばした。
「ふむふむ……急に、どうしたんだ?」
「えっと……ですね……」
指をとんとんと合わせる。口をちょんと尖らせる。
酒呑童子は本を置くと、ちょいちょいと手招きを。
とことこ歩くと、朱桜は父の脚に腰を下ろした。
「彩花ちゃんか」
うーっと、声を出した。
「なにも、出来なかったですよ」
「……」
「なにも、出来なかったですよ。彩花さまが……大好きな彩花さまが、あんな風になったのに。もう、嫌ですよ、あんなこと……」
血を、吐いた。
そう、聞いた。
「怖かったですよ……もう、嫌ですよ……」
「そうか」
「だから、頑張ってお勉強するです。お勉強して、彩花さまみたいになるです。そうしたら、叔父上の手当も、出来るです。彩花さまの、お役にも立てるですよ。もう、見てるだけは嫌なのです。みんなのお役に、立ちたいですよ」
目を、潤ませていた。そんな娘を、酒呑童子は、愛おしげに見やった。
こんなに、小さいのになぁ。
考える事は、大きいなぁ。
「茨木も、楽しみにしてるだろうよ」
「……叔父上、大丈夫なのですか? あんまり、顔色良くないです。なのに、今日もいそいそと出かけてましたけど」
「さあてねえ……」
どうだろうかと、首を捻った。
それから――しまったと、額を打った。
娘。
決壊、していた。
「うあ、泣くなって」
「お勉強ですよー」
「ふーん」
大江山。
西の鬼々が集う豪華絢爛鬼ヶ城。
その、中程に位置する一部屋。
男が、いた。美しい鬼が、いた。
顔を覗き込んだ。
女の子の、顔を。
小さな角を額に生やした女の子。
鬼の、娘。
本を広げていた。
熱心に、本を読んでいた。
「なんのお勉強?」
西の鬼を束ねる大妖――酒呑童子。
その娘の朱桜。
朱桜が、ちょこんと顔をあげた。
酒呑童子が、少し目を細めた。
「医術です」
「ふむ」
酒呑童子が、朱桜が読んでいた本を手に取った。
「父上ー」
朱桜が、あうーと本に手を伸ばした。
「ふむふむ……急に、どうしたんだ?」
「えっと……ですね……」
指をとんとんと合わせる。口をちょんと尖らせる。
酒呑童子は本を置くと、ちょいちょいと手招きを。
とことこ歩くと、朱桜は父の脚に腰を下ろした。
「彩花ちゃんか」
うーっと、声を出した。
「なにも、出来なかったですよ」
「……」
「なにも、出来なかったですよ。彩花さまが……大好きな彩花さまが、あんな風になったのに。もう、嫌ですよ、あんなこと……」
血を、吐いた。
そう、聞いた。
「怖かったですよ……もう、嫌ですよ……」
「そうか」
「だから、頑張ってお勉強するです。お勉強して、彩花さまみたいになるです。そうしたら、叔父上の手当も、出来るです。彩花さまの、お役にも立てるですよ。もう、見てるだけは嫌なのです。みんなのお役に、立ちたいですよ」
目を、潤ませていた。そんな娘を、酒呑童子は、愛おしげに見やった。
こんなに、小さいのになぁ。
考える事は、大きいなぁ。
「茨木も、楽しみにしてるだろうよ」
「……叔父上、大丈夫なのですか? あんまり、顔色良くないです。なのに、今日もいそいそと出かけてましたけど」
「さあてねえ……」
どうだろうかと、首を捻った。
それから――しまったと、額を打った。
娘。
決壊、していた。
「うあ、泣くなって」