小説置き場2

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あやかし姫番外編~鬼之姫と(1)~

「なに、してるんだ?」
「お勉強ですよー」
「ふーん」
 大江山
 西の鬼々が集う豪華絢爛鬼ヶ城
 その、中程に位置する一部屋。
 男が、いた。美しい鬼が、いた。
 顔を覗き込んだ。
 女の子の、顔を。
 小さな角を額に生やした女の子。
 鬼の、娘。
 本を広げていた。
 熱心に、本を読んでいた。
「なんのお勉強?」
 西の鬼を束ねる大妖――酒呑童子
 その娘の朱桜。
 朱桜が、ちょこんと顔をあげた。
 酒呑童子が、少し目を細めた。
「医術です」
「ふむ」
 酒呑童子が、朱桜が読んでいた本を手に取った。
「父上ー」
 朱桜が、あうーと本に手を伸ばした。
「ふむふむ……急に、どうしたんだ?」
「えっと……ですね……」
 指をとんとんと合わせる。口をちょんと尖らせる。
 酒呑童子は本を置くと、ちょいちょいと手招きを。
 とことこ歩くと、朱桜は父の脚に腰を下ろした。
「彩花ちゃんか」
 うーっと、声を出した。
「なにも、出来なかったですよ」
「……」
「なにも、出来なかったですよ。彩花さまが……大好きな彩花さまが、あんな風になったのに。もう、嫌ですよ、あんなこと……」
 血を、吐いた。
 そう、聞いた。
「怖かったですよ……もう、嫌ですよ……」
「そうか」
「だから、頑張ってお勉強するです。お勉強して、彩花さまみたいになるです。そうしたら、叔父上の手当も、出来るです。彩花さまの、お役にも立てるですよ。もう、見てるだけは嫌なのです。みんなのお役に、立ちたいですよ」
 目を、潤ませていた。そんな娘を、酒呑童子は、愛おしげに見やった。
 こんなに、小さいのになぁ。
 考える事は、大きいなぁ。
「茨木も、楽しみにしてるだろうよ」
「……叔父上、大丈夫なのですか? あんまり、顔色良くないです。なのに、今日もいそいそと出かけてましたけど」
「さあてねえ……」
 どうだろうかと、首を捻った。
 それから――しまったと、額を打った。
 娘。
 決壊、していた。
「うあ、泣くなって」