あやかし姫番外編~鬼之姫と(3)~
「ふーむ」
牛鬼――
鬼の頭に、蜘蛛の身体。
丁度、名の通り、牛ほどの大きさ。
その牛鬼は、牛車を引いていた。
宙を、歩む。ゆっくりと、歩む。
ぞわり、ぞわり――
ふわりと、大江山に、その八本の足を落とした。
もぅと、一声、吠えた。
それと同時に、牛車から子供が降りた。
眼前にそびえる、眩く輝く城に、呆れたような溜息を吐いた。
「なんじゃこれは。うちとは大違いじゃのー」
そう、女の子が口にする。
白い肌に、白い髪。全身白尽くめ。
はしゃいでいた。声には、喜びが込められていた。
女の子の息は、皐月に合わぬ、白い息――
白月。
雪妖の、巫女である。
「白ちゃん、白ちゃん、はしゃぎすぎじゃねぇか?」
「なぬ!? 光ははしゃいでおらんのか!?」
次に降り立ったのは、男の子。
虎皮の着物を身に着けていた。
帯に差したるでんでん太鼓。
短い髪の頭には、ちょこんと一本、角が見えて。
光。
かみなりさまの、男の子。
「……はしゃいでなんか……ねぇよ」
「本当かぁ? この、この」
白月が、光の頬をいたずらっぱくとんとんつつく。
「へーんだ」
始めて目にする、鬼ヶ城。
見慣れた鬼岩城とは、全然違う。
はしゃがないわけが……ないよね。
「……本当に、凄いよなー。朱桜ちゃん、すげーや」
「のぉー」
二人で豪華な建造物を、口を開けて見上げたとさ。
そんな子供達の後ろで、よいしょと女が、牛車から降りた。
それから、牛鬼の頭を、よしよしと撫でた。
女の額には、立派な角。
女も、鬼ヶ城の住妖と同じ、鬼であった。
「白月ちゃんは、雪妖さんでねー」
朱桜。
お供は一人、星熊童子。他の者の姿はなくて。
にこにこうんうん聞いているが、その背中にはべったり汗が。
「私より、ちょびっと小さいのです。だから、私の方がお姉さんみたいなのです」
「お姉さん、ですか」
「彩花さまも葉子さんも沙羅ちゃんも咲夜ちゃんも――みーんなみんなお姉さんばかりなのです。白月ちゃんは、違います。妹さんみたいです。かーいいかーいい妹さん♪」
王の真似か。
よく、口にしているもんな。
「なかなか会えないから、今日会えるって思うと……」
とぉっっっても、嬉しいのです。
満面の笑み。
星熊は頭を掻いた。
申し訳なさそうな声で、彼は、どうして私がと思いながら、四人で話した事を口にした。
「その……今日遊びに来るという話ですが、少し伸ばすという事は、出来ないでしょうか?」
「え……」
笑顔が、一瞬で、消えた。
「あぁ、いや、その……今日は、酒呑童子様も茨木童子様もおられませんし。我々だけでは判断しかねるかと……」
「え、え……」
「うーん、えっと……」
胸が、痛む。非常に、痛む。
どうして、いつも損な役割なのだろうと星熊は思った。
「嫌です」
そう、朱桜が、言った。
今にも、泣きそうな顔で、そう、言った。
「朱桜さま」
「嫌ですよ……」
声は、弱々しかった。
また、星熊の胸が痛んだ。
「せっかく遊びに来てくれるのに……嫌ですよ……」
「雪妖の巫女は、西の鬼姫と関わりが深いと聞きます。それは、あまり、」
「だから、なんなのですか!」
朱桜が――激昂した。さっきとはうって変わって激しい口調。
似ていると、星熊は思った。
酒呑童子が見れば、また違う感想を抱く娘の姿。
それでも、「似ている」と口にするだろうが。
「それが、悪いのですか!」
「悪いとは、言っていません。でも、これは」
「うぅー」
唸った。
頭を下げて、指をもじもじさせて。
鬼達が、何事かと心配そうに遠巻きに眺め始めた。
頭を、上げる。
強い、瞳の光だった。
「父上が言ってました」
「……」
「父上がいない鬼ヶ城で一番えらいのは、私だと」
「そんなことを……」
「私が、鬼の王たる酒呑童子の娘、朱桜が、言うです。私は、白月ちゃんと光くんと、ここ鬼ヶ城で一緒に遊ぶです! 文句は言わせません! 命令です、命令!」
「……はぁ」
びしっと、言われた。
あの、親馬鹿馬鹿親め。なんてことを幼子に言うのだ。
うーん、頭が痛い……
「星熊さん……」
袖を、引っ張られた。小さな手が、引っ張っていた。
「はい?」
「嘘です。嘘ついたから、私は悪い子なのです。でも、叱らないでほしいのです……命令じゃないですよ」
「ふむ」
「命令じゃなくて、お願いなのです……一緒に、遊びたいですよ」
「うん」
断れるはずが、なかった。
それに……遅すぎた。
そういえば、光って、男の子だよねー。
いいのかなー、酒呑童子様的には。
うん、現実逃避。
だってさぁ……この溢れんばかりの凄まじいぴりぴり妖気。
大妖のもの、だもの。
牛鬼――
鬼の頭に、蜘蛛の身体。
丁度、名の通り、牛ほどの大きさ。
その牛鬼は、牛車を引いていた。
宙を、歩む。ゆっくりと、歩む。
ぞわり、ぞわり――
ふわりと、大江山に、その八本の足を落とした。
もぅと、一声、吠えた。
それと同時に、牛車から子供が降りた。
眼前にそびえる、眩く輝く城に、呆れたような溜息を吐いた。
「なんじゃこれは。うちとは大違いじゃのー」
そう、女の子が口にする。
白い肌に、白い髪。全身白尽くめ。
はしゃいでいた。声には、喜びが込められていた。
女の子の息は、皐月に合わぬ、白い息――
白月。
雪妖の、巫女である。
「白ちゃん、白ちゃん、はしゃぎすぎじゃねぇか?」
「なぬ!? 光ははしゃいでおらんのか!?」
次に降り立ったのは、男の子。
虎皮の着物を身に着けていた。
帯に差したるでんでん太鼓。
短い髪の頭には、ちょこんと一本、角が見えて。
光。
かみなりさまの、男の子。
「……はしゃいでなんか……ねぇよ」
「本当かぁ? この、この」
白月が、光の頬をいたずらっぱくとんとんつつく。
「へーんだ」
始めて目にする、鬼ヶ城。
見慣れた鬼岩城とは、全然違う。
はしゃがないわけが……ないよね。
「……本当に、凄いよなー。朱桜ちゃん、すげーや」
「のぉー」
二人で豪華な建造物を、口を開けて見上げたとさ。
そんな子供達の後ろで、よいしょと女が、牛車から降りた。
それから、牛鬼の頭を、よしよしと撫でた。
女の額には、立派な角。
女も、鬼ヶ城の住妖と同じ、鬼であった。
「白月ちゃんは、雪妖さんでねー」
朱桜。
お供は一人、星熊童子。他の者の姿はなくて。
にこにこうんうん聞いているが、その背中にはべったり汗が。
「私より、ちょびっと小さいのです。だから、私の方がお姉さんみたいなのです」
「お姉さん、ですか」
「彩花さまも葉子さんも沙羅ちゃんも咲夜ちゃんも――みーんなみんなお姉さんばかりなのです。白月ちゃんは、違います。妹さんみたいです。かーいいかーいい妹さん♪」
王の真似か。
よく、口にしているもんな。
「なかなか会えないから、今日会えるって思うと……」
とぉっっっても、嬉しいのです。
満面の笑み。
星熊は頭を掻いた。
申し訳なさそうな声で、彼は、どうして私がと思いながら、四人で話した事を口にした。
「その……今日遊びに来るという話ですが、少し伸ばすという事は、出来ないでしょうか?」
「え……」
笑顔が、一瞬で、消えた。
「あぁ、いや、その……今日は、酒呑童子様も茨木童子様もおられませんし。我々だけでは判断しかねるかと……」
「え、え……」
「うーん、えっと……」
胸が、痛む。非常に、痛む。
どうして、いつも損な役割なのだろうと星熊は思った。
「嫌です」
そう、朱桜が、言った。
今にも、泣きそうな顔で、そう、言った。
「朱桜さま」
「嫌ですよ……」
声は、弱々しかった。
また、星熊の胸が痛んだ。
「せっかく遊びに来てくれるのに……嫌ですよ……」
「雪妖の巫女は、西の鬼姫と関わりが深いと聞きます。それは、あまり、」
「だから、なんなのですか!」
朱桜が――激昂した。さっきとはうって変わって激しい口調。
似ていると、星熊は思った。
酒呑童子が見れば、また違う感想を抱く娘の姿。
それでも、「似ている」と口にするだろうが。
「それが、悪いのですか!」
「悪いとは、言っていません。でも、これは」
「うぅー」
唸った。
頭を下げて、指をもじもじさせて。
鬼達が、何事かと心配そうに遠巻きに眺め始めた。
頭を、上げる。
強い、瞳の光だった。
「父上が言ってました」
「……」
「父上がいない鬼ヶ城で一番えらいのは、私だと」
「そんなことを……」
「私が、鬼の王たる酒呑童子の娘、朱桜が、言うです。私は、白月ちゃんと光くんと、ここ鬼ヶ城で一緒に遊ぶです! 文句は言わせません! 命令です、命令!」
「……はぁ」
びしっと、言われた。
あの、親馬鹿馬鹿親め。なんてことを幼子に言うのだ。
うーん、頭が痛い……
「星熊さん……」
袖を、引っ張られた。小さな手が、引っ張っていた。
「はい?」
「嘘です。嘘ついたから、私は悪い子なのです。でも、叱らないでほしいのです……命令じゃないですよ」
「ふむ」
「命令じゃなくて、お願いなのです……一緒に、遊びたいですよ」
「うん」
断れるはずが、なかった。
それに……遅すぎた。
そういえば、光って、男の子だよねー。
いいのかなー、酒呑童子様的には。
うん、現実逃避。
だってさぁ……この溢れんばかりの凄まじいぴりぴり妖気。
大妖のもの、だもの。