小説置き場2

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あやかし姫番外編~鬼之姫と(4)~

 鬼が緊張していた。
 一言も発さない。
 いったい、
 何年、
 何十年、
 何百年振りだろうか。
 この城を、訪れるのは。
 ――大妖。
 絶大なる力を誇る、妖の中の妖。
 土蜘蛛の翁――
 鞍馬の大天狗――
 玉藻御前――
 鬼ヶ城の主、酒呑童子
 そして……
 ――西の鬼姫鈴鹿御前。
 袂を別ちて幾年々、鬼ヶ城を訪れる事など、なかったというのに。
 来た。
 ここに、来た。
 ついに、ここに、来た。
 双子の主が、いないときに。
 大門の内。
 城内。
 四天王が、いた。
 星熊を残し、支城に走った三人。
 すぐに戦支度を整えさせた。
 逃げる、支度も。
 とにかく、足止めにでもなれば。その思いだった。
 それから、すぐに鬼ヶ城に戻った。すぐに、主の娘のところへ戻った。
 大門の外に、人がいるという。
 見張りから、連絡はとうに来て。
 牛鬼の、姿も。
 西の、者だ――
 暗い、表情。
 どれだけ鬼がいようと、大妖には及ばない。
 それが、わかっていた。
 わかりきっていた。
 絶望。
 その二文字が、鬼達の胸に刻まれていた。
 それでも――
 東の鬼の誇り。長い年月をかけて培われてきたそれは、この場を離れ、逃げる事をよしとしなかった。
 そんな中。
 一人元気な女の子。
 今、鬼ヶ城で一番偉い……かも……
 鬼の王の娘、朱桜だった。
「まだですか?」
 誰も、答えなかった。
 ぷにぷにと、石熊の手を引っ張る。
「さあ」
 石熊は、そう、短く返事した。
「まだですかねー。早く会いたいのですよ」
 何かあればこの娘だけでも。
 その手筈は、整えさせていた。
 最も速き移動手段。
 星。
 行き先は、九州。九尾の大妖のもと。
 そんな皆の心配も、浮かれきった朱桜は何処吹く風。
 一人胸をわくわくさせて。
 胸をどきどきさせて。
 皆と、胸をどきどきさせて。
「まだかな……」
 あれぇ?
 うーん……
 きちっと、音がした。
 扉。
 大きな、大きな、見事な彫り物が施された、扉。
 それが、少し、隙間を生んだ。
「開門! 開門!」
 大きな声が、響き渡る。
 や!
 っと、朱桜が跳びはねた。
 隙間は大きくなり、空間になり。
 外の光が差し込めて、城内のあちこちが輝いて。
 武装した鬼達を映し出して――
 ぺたぺたぺた。
 とてとてとて。
 ばっ。
「白月ちゃん!」
「おお、朱桜ちゃん!」
 手を、つないだ。
 両手をつないだ。
 雪妖の、巫女。
 鬼の王の、娘。
「あは、冷たいです! 白月ちゃんです!」
「ふふーん、雪妖じゃからのお!」
 二人は、そうやって、嬉しそうに笑いあった。