あやかし姫~彼岸の月(4)~
「もう少し強くお願いできますか」
「はいはい」
「ああ、強すぎです」
「む……」
「あ、消えた」
「む、むが」
「だ、駄目! こ、焦げます!」
「がー!」
瞳を赤く染めると、火羅は七輪に向かって息を吹きかけた。
焔の息。
ゆっくりと伸びてゆく。
煙が、昇り始めた。
姫様が、おおと手を叩いた。
へーっと、妖達が目を見張った。
ふふんと、誇らしげに火羅が鼻を鳴らす。
そして――
「……どうして私、こんなことやってるんだろう」
「え?」
二人で、夕ご飯の準備。
火羅は、ぺたぺたとお椀に白ご飯を盛っていた。
姫様は、忙しそうにぱたぱたと。
「ねぇ、私の火を使わなくてもよかったんじゃない?」
「火を使える人がいなくて」
はい、これそこに。
はいはい……じゃあ、しょうがない……の?
「でも、火打ち石とか……」
団扇も、用意してたじゃない。
炭も、用意してたじゃない。
「そうですね……やっぱり、それだと時間が掛かりますから」
私は、楽に美味しい方がいいです。
「……それもそうね」
「はい」
姫様が、ほっこりと微笑んだ。
それから、火羅の手元を見やる。
笑顔が、少々引きつった。
「……いっぱい食べるんですね」
盛られて盛られて、高く高ーくそびえ立って。
お釜。
もう、空っぽ。
「あなたのよ」
ん――と、姫様に差し出した。
「そんなに食べません」
ご飯、揺れる。
ふぅん?
火羅は、姫様を見やり、よくよく目を凝らした。
「あなた、色々と痩せてるわよね」
自分と姫様を見比べた。
見比べて、にやりとして、勝ち誇るように言った。
「もっと食べた方がいいわよ」
「……ぐっ」
妖達が、言葉に詰まる姫様を不思議そうに見やる。
くすくすと、妖狼の姫君が嗤う。
うーっと、顔を赤くして、姫様は背を向けた。
「気にしてるの?」
「してない!」
「してるんだ」
「してないったらしてない!」
「へぇ」
「してない、してないったらしてないの!」
「……ごめんね」
「……え?」
振り返る。
お釜の中。
いっぱい。
申し訳なさそうに差し出されるお椀。
ちょびっとだけ、白いものが。
姫様は、少し息を吐くと、
「もうちょっと入れて下さい」
そう、言った。
「はいはい」
「ああ、強すぎです」
「む……」
「あ、消えた」
「む、むが」
「だ、駄目! こ、焦げます!」
「がー!」
瞳を赤く染めると、火羅は七輪に向かって息を吹きかけた。
焔の息。
ゆっくりと伸びてゆく。
煙が、昇り始めた。
姫様が、おおと手を叩いた。
へーっと、妖達が目を見張った。
ふふんと、誇らしげに火羅が鼻を鳴らす。
そして――
「……どうして私、こんなことやってるんだろう」
「え?」
二人で、夕ご飯の準備。
火羅は、ぺたぺたとお椀に白ご飯を盛っていた。
姫様は、忙しそうにぱたぱたと。
「ねぇ、私の火を使わなくてもよかったんじゃない?」
「火を使える人がいなくて」
はい、これそこに。
はいはい……じゃあ、しょうがない……の?
「でも、火打ち石とか……」
団扇も、用意してたじゃない。
炭も、用意してたじゃない。
「そうですね……やっぱり、それだと時間が掛かりますから」
私は、楽に美味しい方がいいです。
「……それもそうね」
「はい」
姫様が、ほっこりと微笑んだ。
それから、火羅の手元を見やる。
笑顔が、少々引きつった。
「……いっぱい食べるんですね」
盛られて盛られて、高く高ーくそびえ立って。
お釜。
もう、空っぽ。
「あなたのよ」
ん――と、姫様に差し出した。
「そんなに食べません」
ご飯、揺れる。
ふぅん?
火羅は、姫様を見やり、よくよく目を凝らした。
「あなた、色々と痩せてるわよね」
自分と姫様を見比べた。
見比べて、にやりとして、勝ち誇るように言った。
「もっと食べた方がいいわよ」
「……ぐっ」
妖達が、言葉に詰まる姫様を不思議そうに見やる。
くすくすと、妖狼の姫君が嗤う。
うーっと、顔を赤くして、姫様は背を向けた。
「気にしてるの?」
「してない!」
「してるんだ」
「してないったらしてない!」
「へぇ」
「してない、してないったらしてないの!」
「……ごめんね」
「……え?」
振り返る。
お釜の中。
いっぱい。
申し訳なさそうに差し出されるお椀。
ちょびっとだけ、白いものが。
姫様は、少し息を吐くと、
「もうちょっと入れて下さい」
そう、言った。