小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

学園あやかし姫の八!

「火羅」
 何? と、火羅は首を傾げた。
 目の前では彩華が、襦袢姿で胡座を掻いているようだ。
 世界が霞がかっていて、我が侭な友人は薄ぼんやりしていた。
 貧弱な胸が見え隠れし、蒼白い鎖骨が堂々と。
 はしたないわと火羅が言うと、彩華はいつものようにけらけらと嗤った。
「ふん、どうということもないわ」
 彩華はいつもきちんと服を着ていた。着崩した姿は滅多にない。
 私には、露出が多い姿ばかりさせるのに。
 スタイルが悪いと彩花は悩んでいた。
 彩華は知らない。双子ではある。
 目の前の彩華は、薄着を乱していた。
 こんな姿は、見たことがなかった。
「そんなことよりもなぁ、そなたに教えたいことがあるのよ」
 何だろうと火羅は身構えた。
 この彩華の顔から察するに、ろくな事は言わないだろう。
 どうせまた、私を弄ぶ算段に違いない。
 それとも……弄んだ後とか?
 え、事後? だから薄着? 
 そういえば、肌がすーすーする。
 あれ、真っ裸? 自己責任?
 ど、どうするの?
 彩花さん、妹になっちゃうの?
 け、権力闘争? 跡継ぎ争い? 
 貧乏人風情がと、苛められちゃう?
「指に埃がついたさよ、火羅さん。全く、お客様をお迎えするというのに、これじゃあ困るさねぇ」
「おやおや、掃除すら満足に出来ないなんて、拙者は許せませんなぁ」
「火羅さん。残念ながら貴方では、お姉様とは、釣り合いません」
 火羅……駆け落ちしよう。
 あわわわわわ――。
 赤麗ちゃんは、彩花に任せて……行こう、一緒に。
 うははははは――いやぁ! こ、これは何かの事故だから、過ちだから! 
「何のことじゃ?」
 え、あ、あの……そんなこと、してないよね?
「は?」 
 い、いいの! わ、忘れなさい!
「何じゃお主、青ざめたり赤らんだり、見てる分には楽しいがのぉ」
 うるさい! 用件は何よ!
「おお、それよそれ」
 彩華がはらりと襦袢を落とした。
 ほっそりとした身体である。
 胸は彩花と同じように平らで……こんなに、平らだっけ?
 ……あれ、それは、女の子にはないはずのものだけど?
 うんうん。
 少なくとも、私にはないわよ?
「妾は、男だったらしい。そういうわけで、火羅、夫婦になるぞ」



「ふ……」
 思いっきり取り乱してしまい、鈴鹿先生にチョークを投げられた。額が放課後の今もずきずきとする。
 どうやらあれは夢だったらしい。
 心胆を寒々とさせる、恐ろしい夢だった。
「赤麗、今日は何だか嬉しそうね?」
「えへへー」
 火羅は、赤麗の送り迎えをよくしていた。
 赤麗が通う小学校も、火羅が通う中学校も、あやかし学園――彩花と彩華の敷地の中にあるのだ。
「ああ、今日は災難だったわ……よよよ」
「大丈夫、お姉ちゃん? 元気だして」
「うん、お姉ちゃん、頑張る」
「ア、ソウダ。チョットココデマッテテ」
「え?」
「マッテテネ」
 赤麗が、角を曲がって消えてしまった。何だろうと、火羅は待った。
 帰ってくる。
 人を連れていた。
 見覚えのある顔だった。
「はい」
「ふふん、どうやら妾は、男だったらしい」
 それは、正装した彩華だった。
 それは、男装した彩華だった。
 びしっと黒いスーツを身に纏い、王子様役をした彩花のように、長い髪を一つに束ね後ろに流していた。
「どうじゃ、驚いたか。んふ、いい顔をしておるのぉ。そお、それじゃ、その顔が見たかったのじゃ。赤麗と準備してきた甲斐があったわ」
「今日はね、お姉ちゃん。エイプリルフールなんだよ! どぉ、びっくりした?」
「……火羅?」
「お姉ちゃん?」
 火羅は……立ったまま、気絶していた。