小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

姫様遠足習作なり

「あの、太郎様」
「むぅん?」
 寝ぼけ眼の太郎に、眠りを妨げてしまったかと思いながら、火羅は膝を曲げ目線を合わした。
 小妖達と寝そべっている狼の様は、何とも威厳のないものだった。
「今、何刻?」
 頭から落ちた小妖を掌で受け止めながら、
「もう、夕刻ですわ」
 と、火羅は言った。
「ああ、そんなに?」
「そう、そんなにですわ!」
「へ?」
「一体あの御仁は何をなさってるんですか!」
 太郎は目をぱちくりとさせた。
 黒い瞳がずり落ちて、金銀妖瞳を覗かせた。
「朝から台所に籠もりっきりで、昼餉にも出てこないし、夕餉もいらないそうだし、彩花さんは一体何をしているのよ! あの食いしん坊の彩花さんが、食事もいらないだなんて、何か凶事の前触れでは!」
「台所だから、料理だろう」
「まさか、怪しげな薬を調合してたり、危うい術を行っていたり……」
 惚れ薬とか媚薬とか房中術とか!
「薬なら薬室で作るだろうし、台所で術なんてやるか? そもそも、姫様はあんまり術なんて」
 そこで、くんくんと太郎は鼻を動かした。
「いやぁ、料理だろう。いい匂いするし。今日の夕餉は馳走かな」
「夕餉はありませんわよ。彩花さんがいらないと言ったんですから」
「え……」
「……」
「ちょっと、言ってる意味がわかんない」
「……ね、心配でしょう」
 
 
 
「ん、ふ、ふ、ふ」
 しげしげと、皆の視線が集まる中、目の下に大きな隈を拵えた彩花は、楽しそうに笑っていた。
 舞いそうなぐらい機嫌が良さげで、現に台所から出てきたとき、小躍りしていたのだ。
「天気は良いですね」
「そ、そうさね」
 葉子も、少し気味悪げだ。黒之助はほっぺたを赤くしている。
 姫様が後にした台所を覗き込もうとして、ぶん殴られたのだ。
 火羅は小動物のように縮こまっていて、太郎はしきりに首を傾げている。
「まぁ、占いはやりましたからばっちりなはずなのですが、万が一と言うこともありますし」