小説置き場2

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あやかし姫~火羅の日記~

某月某日
 彩花さんのつけている日記というものを、この私、火羅もつけてみようと思う。
 真っ白な日記を目の前にすると、思わず心が弾んでしまう。気前よく日記をくれた彩花さんに感謝。
 しかし、後ろから覗こうとしたのは頂けない。
 自分は見せてくれないくせに。
 一体何を記しているやら……とても怖い。
 悪い方に考えるのはよくないことだ。 
 葉子さんも覗こうとしてきた。
 皆の前で日記が欲しいと言ったのは失敗だったのだろうか。
 とりあえず、自分の部屋でつけることにする。
 太郎様は、彩花さんもつけてたなと言っていた。
 彩花さんは、秘密ですと言い含めていた。
 
某月某日
 日記を見ようとした小妖達を追い払う。この子達、字を読めるのだろうか。
 葉子さんに、覗くの駄目と彩花さんが言っていた。
 今日は気分が良い。
 こういう日が長く続けばいいのに。
 
某月某日
 外で寝ていた沙羅を、黒之助さんが発見する。
 お皿が渇いてしまったようだ。
 慌てた彩花さんが、井戸水をあらぬ場所にぶちまけていた。
 沙羅は、 村の子供達や月心と、きのこをいっぱい採ったそうだ。
 きのこのお裾分けをと、古寺まで来てくれて……うっかり渇いてしまったのだという。
 正直、魚の方がいい、とは言えない。
 太郎様の釣果に期待。  
 
某月某日
 きのこ、美味しい。
 
某月某日
 きのこ、美味しい。
 
某月某日
 きのこ、飽きた。
 お魚、食べたい。
 
某月某日
 朝から体調が優れない。
 傷が熱を持ち、疼く。
 布団の中で丸くなる。
 上手く眠れない。
 目を閉じていると、色々なものがぐるぐると廻る。
 嫌なものが多い。
 
某月某日
 体調は悪い。
 布団から出ない日が続いている。
 呻くことも、しばしばである。
 痛みは、そう、肌を灼く痛みだ。
 彩花さんが看病してくれている。
 今日は、麓の村に降りる日で、楽しみにしていたのに。
 申し訳ない。
 身体を、暖めた布で拭ってもらう。
 垢がいっぱいとれた。
 さっぱりとした。
 彩花さんに礼を言う。
 私は泣いていたらしい。
 慰めてもらう。 
 村には黒之助さんが行ったようだ。
 お団子、食べたかったな。
 
某月某日
 明日は、あいつが来る。
 
某月某日
 あいつが来た。
 前々から話はついていて、彩花さんはもとより、白月や光と遊べる機会は限られているのだから、邪魔するのも悪いだろう。
 というわけで、体調の悪い私は、部屋に籠もることにした。
 顔を合わさずに済んで良かったなんて、思ってないわ。
 元々、籠もるつもりだったし。
 結局、顔を合わすことになったし。
 どういう気紛れか、お子様三人が私の部屋にやってきたのだ。
 氷枕を作って帰って行った。
 三人とも珍しく静かだった。
 
某月某日
 新しい薬を使うことになった。
 聞くと、朱桜手製だそうで、とても怖い。
 怖いが、良い薬ですと褒めた彩花さんを信頼するしかない。
 得難い材料を使っているようで、都は凄いと彩花さんはしきりに言っていた。
 都というか、西の鬼の王が凄いんじゃないだろうかと思ったが、口にはしないでおく。
 多分、失念してる。
 
某月某日
 あの人と逢う。
 怯えていた。
 大丈夫だと言う。
 
某月某日
 体調はまだ、良くならない。
 このまま、死ぬのではと、怖くなる。
 情けない。
 彩花さんにお願いして、一緒に寝てもらう。
 情けない。
 
某月某日
 やっと体調が良くなる。
 彩花さんも葉子さんも黒之助さんもほっとしていた。
 久々の、居間での食事。
 狢が食べたいと漏らしてしまう。
 こんなにお世話になってるのに……我が儘だと落ち込む。
 太郎様の姿が見えない。
 どこに行ったのだろう。
 
某月某日
 快復祝いにお鍋、たぬき鍋、ことこと煮込んだ狢肉。
 太郎様が捕ってきてくれたのだという。
 嬉しい。
 涙もろくなっていけない。
 彩花さんに頭を撫でられる。
 また、泣いた。