小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

狼風奇譚~第1話~

丘のうえに家がある。
 館、というには幾分小さめ。しかし、丘の周りを取り囲むように、ポツポツと点在する家よりかは幾分大きめである。
 家の庭に、人がいた。一人は少年。もう一人は、少年より年長に見える少女。眼をつむり、二人とも座っていた。
「姉さま」
眼をつむったまま、少年が小さな声で呼びかけた。
「姉さま」
少し、強くなった。
「もう少ししたら終わる。それまで我慢しなさい」
「でも、」
「話をしているのがばれたら、よけいに長くなります。あと少しの辛抱だから。ね」
「あと少しの辛抱だから。ね」
 二人が後ろを向く。男が口元に笑みをうかべて立っていた。年は30代であろうか。ある人によると美形なのだそうだが、一般のひとには凡人。そういう印象になるだろう。
「道三殿、いきなり後ろに立つのは止めていただきたい」
 少女が不満そうにいう。
「別に悪くないだろう。それよりも今は瞑想の時間だろうが」
 少年がいやそうな顔をしながら下を向く。
「話をするなど、もっての他だ。罰として瞑想の延長を命じる」
 こほん、と咳をひとつつくと、男が続けた。
「といいたいところだが、大師殿がめしが冷めると仰せでな。瞑想の切り上げをいいにきたところだ」
 少年がうれしそうに顔を上げた。立ち上がると、家の中に駆けていった。
 少女も、立ち上がった。
「道三殿」
「なんだ、足でも吊ったか」
「最近、白狼様も道三殿もゆるみすぎだと思います。弟にも私にも、もう少し厳しく接した方がよいのではないかと」
 男は苦笑した。
「弟子のいう言葉ではないな」
「ですが」
「そういうことは後にしておけ。それより、飯が冷めるぞ」
 そういうと、道三も家に帰っていく。
「・・・もう少し、続けよう」
 そういうと、少女は座り、またもとのように眼をつぶった