小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

小説-あやかし姫-第二話

 古寺に起こる一陣の風。巻き起こすは烏天狗。古寺はガタガタ揺れていた。
「なにやってるんですか・・・?」
 庭に顔だす怒り雛。不機嫌きわまりない顔である。
「おお、姫さん。いや、身体を動かさないとなまって・・」
「クロさん、探してきて下さいね?」
 はい?不思議そうな烏天狗。姫様が指さすその先に、あるはずの物が無くなっていた。
「しまっ・・・た・・・洗濯物・・・」
「今日中にですよ。じゃないと、鯖を食べさせますから」
 にこにこと恐ろしいことを言う。彼は鯖が大嫌いなのだ。
「・・・しょ、承知」
 バサッと羽ばたく黒い影。
「あ、それと村に下りるときはちゃんと人の格好をして下さいね」
「・・・それも承知した」
 そう言うと烏は飛んでいく。見送る姫様。その背に一言。
「・・・どうやって見つけるんだろう?ま、いいか」
「姫さま~」
「どうしたんですか、葉子さん?」
 大小様々な妖が、銀狐の後ろについている。ほい、っと狐が宙返ると、煙とともに着物姿の美女が現わる。右手に和紙。頭に木の葉。そのまま右手をグイっと突き出す。
「これは?」
「あたいらの食べたいもの!」
「・・・なるほど」
「いこ、買いにいこ!」
「・・・別にいいですけど・・・」
 思案顔。それを見て妖達が少しざわめく。
「だめ?」
「けち」
「肉食いたい」
「酒飲みたい」
「前に飲んだぞ」
「また飲みたい」
「それよか・・・」
「ちょっと黙る!」
「はい」
「はい」
「はい」
 しゅんとなる妖。姫様の次の言葉を待つ。
「これ皆の分じゃないですよね?」
「あ、うん。ここにいる奴の分だけだけど」
「じゃあ全員分集めて下さい」
「まじ?」
「まじ。支度するんでその間に」
 えー、という声。基本的に妖達はものぐさなのだ。
「いやならいいですけど?」
「すみません。やります。やらせて頂きます」
 ぱっ、と散る妖達。と、葉子だけが舞い戻る。
「姫さま、クロちゃんは・・・」
「クロさんの分は私が」
「分かりました」
 姫様のため息一つ。どうせなら宴の日に言ってほしかったと。

「ふむ、美味じゃ」
 思い思いのものを貪る妖達。酒はなし。許可をもらえなかったのだ。
「油揚げ~うまうま」
「おいらにも一つ・・」
「ああん!?」
 殺気、銀狐から立ち上る。同じことを口に出すものはいなかった。
「お~い」
「お、クロちゃん」
 皆が顔を上げる。視線の先に、影一つ。
「洗濯物を~、って皆の衆・・・」
 庭に降り立つ黒烏。こころなしか悲しそう。
「あの~、拙者の分は・・・」
 申し訳なさそうに尋ねる。洗濯物をしょったまま。
「ないんじゃない」
「鯖あるんじゃない」
「つうか、引っ込め」
「そうだ、引っ込め」
 散々な言われよう。酒に酔っての罵詈雑言。酒倉から引っ張り出した馬鹿者が。
「はい・・・」
 すごすご下がる黒烏。洗濯物を吹き飛ばした負い目を感じているのだ。
「はい、どうぞ」
「姫さん・・・」
 手渡されるあめ玉十個。喜ぶ黒烏。黒之助は光り物がすきなのだ。それが飴であろうとなんであろうと。
「ありがとう、ございます・・・」
 うれしそうにあめ玉を眺める。透明なそれは、月の光を映してキラキラと。
「ねえねえ姫さん」
 話しかける金銀妖瞳。
「はい?」
「鯖、早く食べないと・・・」
「そうですね」
 ちろっと舌をだす。ちゃんと鯖も買ってきていたのだ。
「見つからない内に、ね」
 月の下に響く笑い声。こうして夜も更けていく。あやかし達の一日の終わり。