小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

小説-あやかし姫-第三話

「あつい~」
「あつい」
「あつ」
「あ」
 口々に叫ぶ妖達。夏真っ盛り。
「・・・暑いですね」
「さすがにこう暑いとやんなっちゃうね」
「そうだな」
 縁側に腰掛けて足をぶらぶらさせる彩花と葉子と太郎。庭に部屋に暑さにへばった妖達がぐて~と落ちている。
「頭領は?」
「さあ」
「お札は?」
 むりむりと首を振る。真面目な姫様もこの暑さにはお手上げで。
「夕立でもくればいいですが・・・」
「ちょっと無理・・・!?」
 突然降り出す雨。それが今回の話の始まり。
「ひゃっほう!」
「ひゃっほう!」
「ひゃっ・・・ほう?」
 浮かれる妖達。ばしゃばしゃと雨の中を跳びはねる。そして、妖達は不思議なことに気がついた。
「ねえ、葉子さん」
「うん」
「この雨、この寺にだけ降ってますよね」
「うん」
 いぶかしがる妖達。狼の姿になって跳びはねていた太郎も立ち止まる。
「頭領の・・・?」
「う~ん」
 ゴロっという音。雷の音。皆おへそを隠して寺の中へ。
 大きな音をたてて雷が落ちる。まばゆい光に皆伏せる。
「いて~!!!」
「は?」
 雨が止み、庭を見ると煙がもくもく。男の子が座り込んでいた。
「え~と」
「え~」
「何?」
「おいこら、何見てんだよ!」
 座り込んだまま男の子がわめく。虎皮の着物。右手のでんでん太鼓。そして、頭に見える小さな角。
「あれって・・・・・・」
「鬼ですよね」
「多分」
「おいこら、そこの人間!」
「へ、私?」
 葉子を指す鬼。驚く葉子。
「腹減った。飯を食わせろ!」
  
 がつがつ食べる鬼の男の子。頭領と姫様の目の前で。
「でだな、あんたら人間は妖怪なんて見たことがないだろうが・・・・・・」
 さっきから苦笑しっぱなしの姫様と頭領。どうやら鬼の子は気付いていないご様子。
「なんで笑ってんだよ!」
 いえいえと首を振る二人。鬼の子の後ろで妖達が跳んだり跳ねたり。中には触ってみるものも。
「この太鼓で雷を落とすんだ、すごいだろう?」
 それでも気付かず話続ける。ここまで来ると、ある意味凄い。それが姫様の感想で。
「なんで気付かねぇんだ、あの鬼の子?」
「多分、幼すぎるんではないかと・・・・・・」
 狼と、その頭にとまる一羽の烏。太郎と黒之助、二人は庭で高見の見物。
「ああ」
「ん、どうした?」
「どうやら迎えが来たみたいですな」
 空を見ると黒雲が。そして雷がまた落ちた。

 煙の中から現れたのは、虎皮の着物を着込んだ美女。太鼓を背負い、寺を見る。そして、油断無く身構えた。
「ここは・・・・・・」
 その目に映るは多数の妖。それでも女傑は前に進む。
「たのもー」
「お袋!」
 やれやれと頭領と姫様が庭に出る。鬼の子は美女にしがみつく。
「ええっと、お母さん。でいらっしゃいますよね?」
「・・・・・・」
「別に身構えんでよろし。実は・・・」
  かくかくしかじかとこんな具合で。頭領が説明すると、構えを解いて。男の子は目を見開いて、ただただ驚きのご様子である。
「すみません、この子が迷惑をかけまして・・・」
 そういって、鬼の女も訳を話す。鬼の子が生まれて間もないこと。まだ妖を見る力が備わっていないこと。雲に乗って勝ってに遊びに行ってしまったこと。
「本当に、すみませんでした!」
 そういって鬼の母子は頭を下げる。男の子は首根っこを捕まれて無理矢理だが。
「いや、本当におかまいなく」
 
 結局、鬼の母子は帰ることになった。男の子はこれからこってり怒られるそうな。

「これ、もっていきな」
 葉子が鬼の子におにぎりを渡す。鬼の子の食事は葉子が作ったものだった。
「いいの?」
「おかわりでしょ?」
「・・・・・・ありがと」
 
「いっちゃいましたね」
「うん」
「また、会えるといいですね」
「そだね」

 夏の暑い夕立のある日。鬼の母子の訪れである。