小説-あやかし姫-第六話~前編~
「そこ、慎重に運んで下さいよ」
山の上のいつもの古寺。そこは朝から慌ただしかった。
「あ~、もう、汚してどうするんですか!」
「ごめんなさい」
「すんません」
「ごめん」
「もう!」
ねじりはちまきをした姫様の不機嫌な顔。目の前には桶の水をこぼした妖三匹。
「とりあえず、水を全部拭き取って下さい!」
「は~い」
「は~い」
「は~い」
朝からこんな調子だった。
今日は大事な客が来るというので、皆で寺の掃除をしているのだ。
ただし、なかには汚している馬鹿者も。
「あかなめ、もうちょっと頑張ってね。あとで何でも買ってきてあげるから」
寺の「走る雑巾」ことあかなめも、そろそろ嫌気がさしてきたのか、他の妖達と寝そべっている。
元々妖というのはなまけもの。そろそろ限界ではあった。
「本当、皆さん頑張って下さいね」
「ちょっと、あんたがさぼってどうするのよ」
「いいじゃん、休憩も必要だろ?」
寺の西側、蔵を担当している妖狼太郎は人の姿で寝転がっている。周りにも、さぼっている妖がちらほらと。
「あんた、姫様にここの責任者にされたんでしょ?」
「そういうお前も責任者の一人だろうが」
「あたいはきちんとやってるよ」
「そうみたいだな」
葉子の手には、西に逃げ出した妖が握られている。
西のほうは皆さぼっていると聞いて、葉子のところから逃げ出したのだ。
「黒之助は?」
「クロちゃん?ちゃ~んと、まじめにやってるよ」
「あいつらしいな」
「そろそろやんないと、あんた姫様の大目玉食らうよ」
ごもっともで、そう笑うと周りの妖達に呼びかける。
「お前ら、仕事に戻るぞ!」
「えー!!」
「もうちょっと休ませろよ」
「さぼってたこといっちゃうぞ」
「あれあれ」
「て、てめぇら!?」
顔を真っ赤に染める太郎。反論はなかなか収まらない。苦笑しながら、銀狐はその場を離れる。
「あれじゃあ、太郎の言うことを聞かないね。まあ、一緒にさぼってたあいつが悪いんだけど・・・」
う~んとうなずく。
「これは、姫様じゃないと言うことを聞かすのは無理だね。さっさっと呼んできますか」
「ふむ、こんなものかな」
満足そうな黒之助。寺の南が彼の持ち場。ほとんど終わりかけていた。
「だいぶきれいになりましたね」
「姫さん、どうしたんです?」
「ちょっと西側に用事が・・・」
「太郎殿がさぼってますか?」
「そうみたいなんです」
らしいな、とは思ったがそこまで口にはださない。
元々この割り当ては急だった。本来なら太郎は頭領のもとにつくはずだったし、いつもそうだった。いい酒が入ったという知らせがきたので頭領が出かけてしまい、急遽太郎が責任者になったのだ。姫様、葉子、黒之助はさぼることはないだろうが、太郎はちょっと問題ありだった。
「やっぱり、三人でやったほうが良かったんですかね」
「そうですね」
「・・・そういや、さっき客が来てましたよ」
え、と驚いた顔。そんなことは初耳だった。
「もういらしたんですか?」
「いえ、あのかっぱの子です。あれ、ご存じない?」
「沙羅ちゃんが?いえ、全く」
それを聞いて、烏天狗の顔が青ざめる。
「もしかして、外で待たせてたとか・・・」
烏天狗がこくんとうなずく。
すぐに姫様は走り出す。
黒之助も水瓶を抱えて後に続いた。
山の上のいつもの古寺。そこは朝から慌ただしかった。
「あ~、もう、汚してどうするんですか!」
「ごめんなさい」
「すんません」
「ごめん」
「もう!」
ねじりはちまきをした姫様の不機嫌な顔。目の前には桶の水をこぼした妖三匹。
「とりあえず、水を全部拭き取って下さい!」
「は~い」
「は~い」
「は~い」
朝からこんな調子だった。
今日は大事な客が来るというので、皆で寺の掃除をしているのだ。
ただし、なかには汚している馬鹿者も。
「あかなめ、もうちょっと頑張ってね。あとで何でも買ってきてあげるから」
寺の「走る雑巾」ことあかなめも、そろそろ嫌気がさしてきたのか、他の妖達と寝そべっている。
元々妖というのはなまけもの。そろそろ限界ではあった。
「本当、皆さん頑張って下さいね」
「ちょっと、あんたがさぼってどうするのよ」
「いいじゃん、休憩も必要だろ?」
寺の西側、蔵を担当している妖狼太郎は人の姿で寝転がっている。周りにも、さぼっている妖がちらほらと。
「あんた、姫様にここの責任者にされたんでしょ?」
「そういうお前も責任者の一人だろうが」
「あたいはきちんとやってるよ」
「そうみたいだな」
葉子の手には、西に逃げ出した妖が握られている。
西のほうは皆さぼっていると聞いて、葉子のところから逃げ出したのだ。
「黒之助は?」
「クロちゃん?ちゃ~んと、まじめにやってるよ」
「あいつらしいな」
「そろそろやんないと、あんた姫様の大目玉食らうよ」
ごもっともで、そう笑うと周りの妖達に呼びかける。
「お前ら、仕事に戻るぞ!」
「えー!!」
「もうちょっと休ませろよ」
「さぼってたこといっちゃうぞ」
「あれあれ」
「て、てめぇら!?」
顔を真っ赤に染める太郎。反論はなかなか収まらない。苦笑しながら、銀狐はその場を離れる。
「あれじゃあ、太郎の言うことを聞かないね。まあ、一緒にさぼってたあいつが悪いんだけど・・・」
う~んとうなずく。
「これは、姫様じゃないと言うことを聞かすのは無理だね。さっさっと呼んできますか」
「ふむ、こんなものかな」
満足そうな黒之助。寺の南が彼の持ち場。ほとんど終わりかけていた。
「だいぶきれいになりましたね」
「姫さん、どうしたんです?」
「ちょっと西側に用事が・・・」
「太郎殿がさぼってますか?」
「そうみたいなんです」
らしいな、とは思ったがそこまで口にはださない。
元々この割り当ては急だった。本来なら太郎は頭領のもとにつくはずだったし、いつもそうだった。いい酒が入ったという知らせがきたので頭領が出かけてしまい、急遽太郎が責任者になったのだ。姫様、葉子、黒之助はさぼることはないだろうが、太郎はちょっと問題ありだった。
「やっぱり、三人でやったほうが良かったんですかね」
「そうですね」
「・・・そういや、さっき客が来てましたよ」
え、と驚いた顔。そんなことは初耳だった。
「もういらしたんですか?」
「いえ、あのかっぱの子です。あれ、ご存じない?」
「沙羅ちゃんが?いえ、全く」
それを聞いて、烏天狗の顔が青ざめる。
「もしかして、外で待たせてたとか・・・」
烏天狗がこくんとうなずく。
すぐに姫様は走り出す。
黒之助も水瓶を抱えて後に続いた。