小説置き場2

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小説-あやかし姫-第六話~後編~

「大丈夫、沙羅ちゃん?」
 心配したとおり、倒れていたかっぱの子。頭巾で頭を隠していたが、長時間日中にさらされてしまい。皿の水が乾いてしまったのだ。
「だ、大丈夫です」
「ほんとにごめんね」
 さっきから姫様ずっと謝りっぱなし。かっぱの皿は命に関わる、そう教えられていた。
「面目ない」
「大丈夫ですよ、皿が乾いたら眠くなるだけですから。眠気に負けて倒れちゃって」
「は!?」
 水瓶から水をすくってかっぱの皿にかけている姫様の動きが止まった。
「あれ、知らないんですか。私たち、皿が乾くと眠くなるんです」
「はあ」
「だから、そんなに謝らなくてもいいですよ」
 からからと笑う。目が点になる烏と姫様。
「皿が乾くと死んでしまうと・・・」
「やだな~、迷信ですよそんなの」
「め、迷信・・・」
「ええ、迷信。ところで忙しそうだけどどうしたんです?」
「え、ええ・・・」
 大掃除の途中だと説明する。今日一日忙しいので遊べないだろうとも。
「ごめんね、いろいろと」
 せっかく友達が来てくれたのに、遊べないというのは心苦しかった。待たせて外で倒れていたのもある。
「じゃあ、手伝います」
「手伝う、本当?」
「本当。私、きれい好きなんですよ」
「でも・・・」
「いいんです、友達でしょ?」
 そういってかっぱの子は姫様の手をとった。姫様は、うれしかった。

「ごめんなさい、お役にたてなくて」
 泣きべそをかくかっぱの子。手伝うとはいったものの、熱気に皿が耐えきれず。結局部屋の隅で寝ていることに。今はいつもの縁側で、姫様に皿に水を注いでもらっている。
「いいんですよ。これ、さっきのおわびのきゅうりです」
 どうぞと差し出す。なんとか掃除も終わり、皆で夕涼みをしているのだ。
「さっきのこと、気にしないで下さいね」
 そういってから、かっぱの子はきゅうりをかじり始める。
「あの・・・・・ところで誰が来るんですか?」
 きゅうりを食べながら尋ねる。かっぱの子はまだ知らなかった。
「沙羅さんには教えてませんね。茨木という人でとてもいい人ですよ」
「へえ、茨木」
 周りの妖達の顔がちょっと引きつっていた。
「そうですよね、葉子さん」
「え、ええ、そ、そうですね」
 太郎のこぶに薬を塗っていた葉子も引きつった顔で答える。
 ちなみに、さぼっていた太郎はあの後こっぴどく怒られた。こぶはそのときの傷である。
「いい人なんだけどな」
「ちょっと、ね」
「ちょっと、なんです?」
「いえ、なんにも」
「そうですか」

 一陣の風が山に吹いて、皆の前に老人が立っていた。
「頭領!!!」
「ふむ、ちゃんと掃除はすましたかの」
 ころころととっくりを振る。
 見慣れない顔に気がついた。
「え~と、そなたは?」
「さ、沙羅といいます。か、川に住まわせていただき、ま、まことにありがとうございます!」
「ああ、彩花の友達の。仲良くしてやってくれや」
 にっこりと、笑った。
「は、はい!」
「頭領、茨木殿は?」
「おう、もうすぐ来るぞ」
 さっき追い抜かしてきたからな。それを聞いて妖達が慌て始めた。
「じゃあ、料理運び始めますね」
 慌てる妖達を尻目に、姫様はてきぱきと動き始める。
「わ、私も今度こそ手伝います!」
 きゅうりを無理矢理口に押し込み、沙羅もあとについていく。
「あたいらも準備するよ」
「お、おう」
「どしたの?」
「いや、いつもながら姫様ってすごいよな、って」
「まあね、あれはまねできないね」
「ちょっと震えてるもん、俺」
「それがしも」
「ここにいる皆だろうよ」
 本当のことだった。太郎も葉子も黒之助すらも、皆なにかしらおびえているのだ。
「まあ、あの何事も恐れないところが姫様の姫様たる所以かね」
「そうだな」
「さ、姫様に負けないようにやりますか」
 
 また、山に風が吹いた。荒っぽい風だった。客人の訪れを告げていた。