小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

小説-あやかし姫-第七話~1~

 荒っぽい風が吹いた後、寺の前に二人が立っていた。
 若いぞっとするような色気を持つ男と、おかっぱ頭の女の子。
 まだ小さい女の子は男の袴の裾をぎゅっと握りしめていた。
「ふん、あいかわらずぼろっちいとこだな」
「・・・・・・」
「ひどい言いようじゃな」
 二人の背後からの声。にやにや顔の老人がそこにいた。びくっと女の子が振り向く。
「いつ背後に回り込んだんだ?」
「ひ・み・つ。ほれ、もう準備はできとる。とっとと中へ入れ」
「おう、そうさせてもらうよ」
 ぷい、と女の子がそっぽをむいた。
「そっちの子は?」
 お前の子かと尋ねる。
「そんな話聞いたことあるか?」
「いや、ない」
「まあ、親類の子さ」
「親類?」
「早く中に入りたいんだがな」
「ふむ」
 女の子は一言も口を開かなかった。

 庭が見えるいつもの一室。そこに宴の席は設けられていた。
 広い部屋に、頭領と姫様、若い男と女の子。向かい合って座った四人。
 それ以外には部屋に誰もいない。
 四人の前には豪勢な料理が並べられていた。頭領が持ってきたそれは、妖達が喜びそうなものばかり。
 しかし、その妖達は、庭の少し離れたところでただうらめしそうにして皆座り込んでいた。
「ほう、なかなか豪華なもんだな」 
 若い男が一声だすたびに、庭の妖達がびくっとする。
「お、見慣れない顔だね」
 庭の方をじろりとみ、かっぱの子に視線をとめる。射るようなその視線は、妙な圧迫感を彼女にあたえた。
「さ、沙羅といいます」
「ふ~ん」
 あまり興味がなさそうな顔で視線を料理に戻す。それを見て姫様が口を開いた。
「私の友達なんです、茨木さん」
「へえ、彩花ちゃんのね」
 ちらりとまた沙羅の方を見るが、もう口を開くことはない。すぐに視線を戻し、食い入るように料理を見る。
「豆料理はないようだね、安心したよ」
「わしが、そんなどじをするとでも?」
 茨木は豆が苦手だった。といっても彼の一族は全員そうなのだが。
「一応、確認だ。それじゃあ、食べますか」
 四人が食べ始めた。話しているのはもっぱら頭領と茨木で、姫様は黙って聞き、ときたま相づちを打っていた。