小説置き場2

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小説-あやかし姫-第十話~葉子と頭領~1

「ほれ、着いたぞ」
「つ、着きましたか」
 怖々と葉子は目をあける。
 今日は葉子の一族の長、玉藻の二千歳の誕生日。
 一族の集まりに参加することにした葉子は頭領の鬼馬で行くことに。ただ、頭領の駆る鬼馬の速さは並大抵ではなかった。馬鹿みたいにとばすのだ。
 おかげで葉子はその道のり、目をつむりただただ頭領にしがみつくはめになった。それも死に物狂いにである。
「確かに、着いたみたいですね」
 目をあけると、きらびやかな景色がそこにあった。派手な提灯、のぼり、着飾った人々、山々と積まれた油揚げと酒。中央に、ゆらゆら動く巨大な黄金の尾のようなものが見えた。そこは街のようになっていた。
「とりあえず、下りるよ」
「はい。あ、端のほうに下りて下さいよ」
 鬼馬が下りる。地に足が着く。何となく葉子はほっとした。
 鬼馬は二人が下りるとみるみる小さくなり、頭領の袖の中に潜り込む。角を生やした恐ろしい怪馬も、こうなるとなかなか愛らしい。
「で、どうするんだね」
「とりあえず、中心へ。玉藻様に挨拶しないと」
「しかし、派手だね。まぶしいぐらいだよ」
「そうですか?大袈裟ですよ頭領」
「・・・・・・」

 中心部へ二人は向かう。時々、葉子に挨拶するものがいた。
「お前、有名なんだね」
 また一人、葉子に挨拶をするのを横で見ながら。
「一応、一族の中じゃあ有名な家で生まれましたから」
 別に誇るわけでもなく、淡々と。
「昔の話ですけどね」
「昔、ね。・・・ところでここには油揚げと酒以外ないのかい?」
「ないですよ。私達にはこれが最高のごちそうですし」
「いや、そうなんだろうけどさ」
「この油揚げも美味しいですよ」
 道ばたに延々と列を成す皿に山と積まれている油揚げから一つとって頭領に差し出す。
「いや、同じものばかりでそろそろ飽きて・・・」
「ええ!同じものなんてとんでもない!色々な油揚げ食べてたじゃないですか」
「色々?」
「ええ、色々」
 葉子は今までの油揚げの違いを語りだした。語りだしたら止まらない。味の違い、豆の違い、様々なうんちくを延々と語る。
「色々ねえ」
 山となっている油揚げは、頭領には全部同じにみえる。味も同じような気がする。
「ちょっと、聞いているんですか!」
「聞いてます、聞いてますから」
 まだまだ葉子は止まりそうにない。ちょっと頭領は後悔し始めた。