小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

第十一話(2)~三人と団子と小さな声~

「できた!」
「やっと終わった・・・・・・」
 ぐて~と机に頭領がうつ伏せになる。結構な時間がたっていた。もう、日も昇りきっているだろう。
「じゃあ、さっそく配りにいきましょう」
「と、とりあえず、昼食をとってからでも」
 慌てて葉子が言う。
 時間を忘れて物事に集中するのが姫様の癖。食事をとることもよく忘れるのだ。
「もうそんな時間なんですか」
「朱桜ちゃんもおなかすいたでしょうし」
「そうですね、それじゃあ」
 準備を。そう姫様がいうと、頭領の姿が消えている。いつもながら素早いことであった。

「はい、どうぞ」
「いつもすまんね」
「いえいえ」
「・・・・・・」
 昼食を食べてすぐに姫様は村に下りた。とりあえず後片づけは太郎と黒之助に押しつけておいて。
 お札を頼んだ人に今日作ったお札を渡して回る。それほど時間はかからなかった。
「これで少しは食費も浮くでしょうか」
 お札は一枚うんぬんで、寺の収入はこれしかなかった。といっても全く支出に足りないのだが。そこは頭領の財布がものを言うのだ。
「お団子が食べたいな~」
 葉子が姫様に甘える。お金ができたのでさっそくねだる。
 本当はおあげがいいが、今日は豆腐屋が休みなので。ならばと茶屋の前でごろごろと。
「ちょっとは節約というものを・・・」
 渋る姫様。家計簿は姫様がつけている。そのおかげで金銭感覚がほとんどない寺の者の中ではましな方に。といってもかなり麻痺しているのだが。
 いかんせんあつかう金額が大き過ぎるのだ。
「え~、いいじゃないですか」
 甘え続ける葉子。姫様の裾を持ってごろごろごろ。
 ちらりと姫様も茶屋を見る。みたらし団子は姫様の好物の一つなのだ。
「しょうがないですね・・・・・・一本だけですよ」
 葉子と姫様と朱桜、三人で座って一本ずつ頼む。ついでにお茶も一杯ずつ。
 お茶のほうが早くやってきた。
「ふ~」
 とろんとした顔。銀狐はすっかりゆるみきっていて銀色尻尾がこんにちは。慌てて尻尾をしまう。人に見られていやしないかときょろきょろと。幸い人はいなかったようで、ほっと一安心。
 そんな葉子を放っておいて、姫様は隣で茶をすする小さな娘を見ていた。
「朱桜ちゃん・・・・・・慣れた?」
 朱桜は寺に来てからも口を開いたことがない。それが姫様には心配だった。
 いつも朱桜と姫様は一緒にいる。今は葉子よりも一緒にいることが多いだろう。
 それでも彼女が口を開くことはない。
「どう?」
「・・・・・・」
 朱桜はうなずくだけだった。そう、と姫様が答えた。いつも通りだった。
「まいど」
 みたらし団子が三人の元へ。美味しそうにそれを食べる。
 姫様が一番ゆっくりと。
 そして一番、美味しそうに。

「すいません、おそくなって」
 食べ終えた後姫様が「ちょっと待っていて下さい」、そういって茶屋の主人のところへ。
 店から出る煙の量が一時多くなり、しばらくすると大きな袋を抱えて姫様が出てきた。
「それ全部・・・・・・」
「お団子です」
「・・・・・・結局お金全部?」
「足りなかったですね」
「やっぱし」
 しょうがないですよと笑う姫様。寺の赤字は今宵も続くようである。
「私達だけというのも悪いでしょう」
「そうですかね」
 銀狐は首をかしげる。自分達だけ食べても罰は当たらないだろうに。
「そうです」
「これをもっていくのは?」
 にこ~っと狐の顔を見上げる。
「あたし、ですかい」
「ええ」
 え~っと一声あげる。それを無視する姫様。
「じゃあ、帰りましょうか」
「はいは~い」
「・・・・・・」
 姫様が荷物を葉子に渡し、朱桜と手をつなごうとしたとき、
「団子、おいしかった」
 小さな声が聞こえた。二人はえっと驚いた。初めて朱桜が口を開いたのだ。
「良かったですね」
 優しい、優しい笑みを浮かべながら姫様が答えた。葉子もうれしそうだった。
「また食べにきましょうね」
「・・・・・・はい」
 葉子は袋を背負って、姫様と朱桜は仲良く手をつないで。
 三人で寺への山道をゆっくり登っていった。