小説置き場2

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小説-あやかし姫-第十一話(1)~朝からお札書き~

 今日もいつもの古寺のいつもの一室で、妖達が見守るなか、姫様と朱桜が朝食を食べていた。
 麦飯、味噌汁、焼き魚、きゅうりの漬け物に冷たいお茶。
 ゆっくり食べる姫様と終始無言の朱桜。姫様は食事がかなり遅い。普段は手早く動くのに、食事のときはゆっくりと。姫様が食べ終わったのは、朱桜が箸を置いてからかなり時間がたってのこと。
「さてと。さ、食器片づけますか」
「そうですね」
 この言葉を聞いて集まっていた妖達がぞろぞろと部屋を出ていく。基本的にものぐさな妖達は、のんびりまったりするのが好き。姫様が食べ終わると自分の一番落ち着く場所に逃走する。
 手伝いは勘弁といったところなのだ。
「相変わらず素早いこった」
「いつものことでしょう」
「頭領が一番早いんだもの、なんだかな~」
 寺の妖達の主たる八霊、通称頭領の姿はもうそこにはない。
 真っ先に姿が消えるのだ。
 一度太郎が食器洗うのぐらい手伝って下さいといったときは「わし、寺で一番偉いし・・・・・・しなくていいんじゃない?」と子供のような口ぶりで返された。
「で、黒之助もいないと」
「それもいつものことでしょうに」
「太郎もぐちぐちいってないで早くやりなよ」
「へいへい」
「じゃあ、朱桜ちゃんはこれを」
「・・・・・・」
 食事の後片づけは姫様と太郎と葉子でやっていた。
 というよりいつも三人しか残っていないのだが。今は朱桜もやってくれるので四人で作業をこなす。
 相変わらず朱桜は口を閉じたままだった。

「これで片付け終わり、と」
「お疲れ様です」
 姫様がぺこりと三人に向かってお辞儀をする。
「すぐに昼食の準備だよ」
「それを言うな」
 そう言うと太郎が人から犬、もとい狼の姿になってのっそりのっそり台所から出ていく。
 日向ぼっこでもするのであろう。今日はいい天気だった。他にも日向ぼっこをしている妖は多いに違いない。
「私は頭領のところへ」
「ああ、札ですか」
「午前中に仕上げて、配ろうかと」
 じゃあ道具をと葉子も台所を出る。
 大人の女性の姿だが、彼女も立派な妖で。正体は九尾の銀狐である。
「朱桜ちゃんは・・・・・・一緒にいる?」
「・・・・・・」
 こくりと小さくうなずいた。

「・・・・・・」
 姫様と頭領が無言で字を書いている。頭領の部屋には五人の姿が。
 「虫除け」「腹痛直し」「虫除け」「酔い直し」「虫除け」「風邪殺し」「虫除け」・・・・・・札には様々な字が躍る。
「虫除けが多いですな」
  口を開いた黒之助を、じーっと姫様と頭領が見つめる。朱桜もじーっと見てみる。あ~あと頭を抑える銀狐。
「・・・・・・ごめんなさい」
 どうやら二人の集中が途切れたらしい。黒之助は見つめられてただただ小さくなっていく。本当に小さくなって烏の姿に。彼も立派な妖である。もう一度ごめんなさいといってみるが二人とも無視。また机に集中している。二人の顔は真剣そのもの。
「駄目ですよ、さわっては」
 乾いてませんから、と。書かれてすぐのお札をさわろうとした朱桜に優しくいう姫様。
「・・・・・・態度が違う」
「なんのことですか?」
「いえ、なにもないです」
 よしよしと黒烏は葉子に慰められて。姫様は不思議そうに首をかしげた。