あやかし姫番外編~酒呑童子1~
大江山の鬼ヶ城。
鬼達の主たる酒呑童子は、目の前の人物をただ静かに眺めていた。
「どういうつもりだ、黒夜叉」
「どういうつもりだとは?」
黒衣の男はやれやれと。
それは王に対する態度ではない。
今までの従順な姿が嘘のようであった。
「都を・・・・・・襲ったな」
「何の話でしょうか?」
「襲ったな」
「・・・・・・」
横に立っている茨木に顔を向ける。
「この部屋にこの人数、寂しいものですな」
酒呑童子。茨木童子。四天王たる虎熊、星熊、金熊、石熊。そして黒衣の男。
それが、玉座のある広大な一室に集いし者。
七匹の鬼以外誰もいない。
普段は数百の鬼が集まるその部屋は、いつもの喧騒が嘘のようであった。
「どうしました、茨木殿」
「お主、本当にあの黒夜叉か?」
「そうですよ」
くく、あざけるような笑いが漏れる。堪えきれないというように。
「十年。十年はなごうございました」
四天王はただただ驚いていた。
これは何だと。
十年前、男がこの地に迎えられてから、今まで共に過ごしてきた。
酒呑童子を筆頭にそれを支える茨木童子。
その二人の下で、鬼ヶ城の東西南北の支城を任されし四天王。
そこに現れた目の前の人物。
深い見識と鋭い洞察力、そしてその誠実な人柄で、数百年変わらなかった鬼の組織図に、自らの名を刻み込んだ鬼。
今その誠実さはどこかに消え、狂気に染まった赤い眼が、爛々と黒衣の下で光っていた。
「襲いました」
「貴様!」
虎熊が叫ぶ。すぐにその首を引っこ抜いてくれよう、そんな形相であった。
「何故、襲った?」
「ほしいものがあったのですよ」
「ほしいものだと?」
「ええ、ほしいものが」
そう言うが早いか、黒夜叉が動いた。
あっという間だった。
茨木の後ろに立つと、その背中からその腕を貫き通す。
茨木の口から赤いものが流れた。
「お、おのれ・・・・・」
「茨木殿!」
「貴方のそのおぞましい妖気を防ぐ鎧と・・・・・・」
駆け寄ろうとした四天王が苦悶の表情を。動こうとしても動けない。上半身は動くのに、下半身がおのれの言うことを聞かない。
「貴方達四人の動きをとめるありがたい護符がほしかったのですよ」
腕を抜く。茨木は膝をがっくりとおとした。
「貴方達には利用価値がある」
黒夜叉が酒呑童子と向き合った。酒呑童子はまだ玉座に座ったままだった。
「そんなに、この玉座がほしいか」
「ほしいですよ。そのためにこの十年間、あなたに仕えてきたのだから。さあ、その玉座を私に下さい。抵抗してもよいですよ。貴方では私には勝てませんから」
「勝てない?」
「茨木に劣る貴方ではねえ。何故弟君が貴方を追い落とそうとしないのか、いつも不思議に思っておりました」
あとから、そう、貴方を殺してからその理由を尋ねましょうか。その腕についた血を舐めながらそう言った。
「あにう・・・・・・ゴフ!」
「喋らないほうがいいですよ。その傷、かなり深いはずですから」
「茨木に劣る、か」
酒呑童子が立ち上がった。
「そんなわけないだろう。この十年、お前は何を見てきた」
そんなわけない。
その言葉が黒夜叉の心を乱した。
馬鹿な・・・・・・。
ここでは王の「弟」が最強のはず。酒呑童子はその最強の「弟」のおかげで玉座に座っていられる。
側で見てきて己の出した結論はそれだった。
王は、たいしたことはない。
「戯言を」
「お前は玉座だけを見てきたのだったな。その野心を見抜けなかったのは俺の過ち・・・・・・信頼していたというのに」
そこで一呼吸置いた。
「死ぬがいい」
鬼達の主たる酒呑童子は、目の前の人物をただ静かに眺めていた。
「どういうつもりだ、黒夜叉」
「どういうつもりだとは?」
黒衣の男はやれやれと。
それは王に対する態度ではない。
今までの従順な姿が嘘のようであった。
「都を・・・・・・襲ったな」
「何の話でしょうか?」
「襲ったな」
「・・・・・・」
横に立っている茨木に顔を向ける。
「この部屋にこの人数、寂しいものですな」
酒呑童子。茨木童子。四天王たる虎熊、星熊、金熊、石熊。そして黒衣の男。
それが、玉座のある広大な一室に集いし者。
七匹の鬼以外誰もいない。
普段は数百の鬼が集まるその部屋は、いつもの喧騒が嘘のようであった。
「どうしました、茨木殿」
「お主、本当にあの黒夜叉か?」
「そうですよ」
くく、あざけるような笑いが漏れる。堪えきれないというように。
「十年。十年はなごうございました」
四天王はただただ驚いていた。
これは何だと。
十年前、男がこの地に迎えられてから、今まで共に過ごしてきた。
酒呑童子を筆頭にそれを支える茨木童子。
その二人の下で、鬼ヶ城の東西南北の支城を任されし四天王。
そこに現れた目の前の人物。
深い見識と鋭い洞察力、そしてその誠実な人柄で、数百年変わらなかった鬼の組織図に、自らの名を刻み込んだ鬼。
今その誠実さはどこかに消え、狂気に染まった赤い眼が、爛々と黒衣の下で光っていた。
「襲いました」
「貴様!」
虎熊が叫ぶ。すぐにその首を引っこ抜いてくれよう、そんな形相であった。
「何故、襲った?」
「ほしいものがあったのですよ」
「ほしいものだと?」
「ええ、ほしいものが」
そう言うが早いか、黒夜叉が動いた。
あっという間だった。
茨木の後ろに立つと、その背中からその腕を貫き通す。
茨木の口から赤いものが流れた。
「お、おのれ・・・・・」
「茨木殿!」
「貴方のそのおぞましい妖気を防ぐ鎧と・・・・・・」
駆け寄ろうとした四天王が苦悶の表情を。動こうとしても動けない。上半身は動くのに、下半身がおのれの言うことを聞かない。
「貴方達四人の動きをとめるありがたい護符がほしかったのですよ」
腕を抜く。茨木は膝をがっくりとおとした。
「貴方達には利用価値がある」
黒夜叉が酒呑童子と向き合った。酒呑童子はまだ玉座に座ったままだった。
「そんなに、この玉座がほしいか」
「ほしいですよ。そのためにこの十年間、あなたに仕えてきたのだから。さあ、その玉座を私に下さい。抵抗してもよいですよ。貴方では私には勝てませんから」
「勝てない?」
「茨木に劣る貴方ではねえ。何故弟君が貴方を追い落とそうとしないのか、いつも不思議に思っておりました」
あとから、そう、貴方を殺してからその理由を尋ねましょうか。その腕についた血を舐めながらそう言った。
「あにう・・・・・・ゴフ!」
「喋らないほうがいいですよ。その傷、かなり深いはずですから」
「茨木に劣る、か」
酒呑童子が立ち上がった。
「そんなわけないだろう。この十年、お前は何を見てきた」
そんなわけない。
その言葉が黒夜叉の心を乱した。
馬鹿な・・・・・・。
ここでは王の「弟」が最強のはず。酒呑童子はその最強の「弟」のおかげで玉座に座っていられる。
側で見てきて己の出した結論はそれだった。
王は、たいしたことはない。
「戯言を」
「お前は玉座だけを見てきたのだったな。その野心を見抜けなかったのは俺の過ち・・・・・・信頼していたというのに」
そこで一呼吸置いた。
「死ぬがいい」