小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫番外編~酒呑童子3~

「さて、どうするか」
「?」
「ん、いや、何でもないよ」
 ゆっくりと鬼馬が空を駆ける。それに乗るのは鬼の王たる酒呑童子とその娘の朱桜。
 荷物が、いっぱい。鬼馬重い。
 二人は鬼ヶ城に帰る途中。
「父さま」
 酒呑の背に乗る朱桜が。
「うん、どうした?」
「叔父上は・・・」
 茨木童子酒呑童子の弟。朱桜のことを可愛がっていて。
「あいつな・・・・・・朱桜のことが嫌いになったって」
「!」
 驚きが朱桜の顔に張り付いて。
 口をぱくぱく、言葉がでない。
「嘘だよ」
「!!」
「茨木、怪我しちまってな。今動けないんだ」
「!!!」
「あとで見舞いにいこっか」
「はい!」

 鬼馬が巨大な門の前に降りる。
 山頂にそびえる門。
 門だけ。他に建物はない。
「朱桜、ちょっと目つぶってろよ。今帰ったぞ!門を開けろ!」
 ぎーっと音をたて、門がゆるゆると開いていく。
 まゆばいばかりの光が溢れる。
 鬼馬が、門に吸い込まれていく。

「もう、目を開けて良いぞ」
 朱桜が目を開ける。
 目の前にそびえる豪華絢爛鬼ヶ城。金銀財宝で飾り立てて。
 無駄に豪華である。
 見渡す限りの荒野にぽつんと。
「どうだ、懐かしいか」
「はい」
「なあ、朱桜」
「はい?」
 酒呑童子がにっこりと。そして、
「お帰り」
 そう言った。
「・・・・・・ただいま」
 朱桜が、返事した。

 酒呑童子に連れられて。目指すは茨木童子のもと。
酒呑童子様!あれ、その子・・・」
「うん、またここで暮らすよ」
「はあ・・・」
 途中鬼達と何度もすれ違う。酒呑と茨木以外の鬼達は朱桜のことを酒呑の娘だとは知らない。
 前に酒呑が連れていたのを覚えている鬼は何人かいたが。
 角が生えていない朱桜の姿は、鬼達の目には奇妙に映る。
 訝しげな鬼達一人一人に朱桜はおじぎをしていた。

「叔父上!」
「朱桜!・・・・・・よく帰ってきたな」
 茨木童子は布団の中。ちょっとやつれていた。
「はい!あの叔父上。怪我の具合は・・・?」
「たいしたことはないよ、心配かけたか?」
「心配・・・しました」
「そっか、悪いな」
「なあ、朱桜。ちょっと外で待っていてくれないか」
 酒呑が言った。
「?」
「ちょっとでいいから」
「はい」

「怪我はどうだ?」
「治りが、良くない」
「お前が油断するから・・・」
「まさかあそこまで強いとは思わなかったし・・・」
「まあそうだな」
「で、なんだ、用件は。どうせ朱桜のことだろうが」
「ああ、俺の娘だと言ってよいものかどうか迷ってな」
 酒呑は鬼の王。娘だと明かせば面倒なことが色々と起こるだろう。
 考える仕草もなく茨木が答える。
「そんなことは兄上の好きにしてくれ。俺が決めることじゃない」
「・・・・・・」
「ただし・・・」
「ただし?」
「俺は朱桜を何があっても守るよ。あの娘にちょっかいをかける奴は俺が叩き潰す」
「そっか」
「朱桜、待ってるぞ」
「おお」
 廊下に出る。
 朱桜の周りに鬼が二匹。
「う~ん、名前なんて言うんだ?」
「・・・朱桜です」
「ふーん。なあ、この子のことお前知ってるか?」
「見たことあるような気がするな」
「石熊もそう思う?なんでだろ」
「おう、虎熊、石熊。茨木の見舞いか」
酒呑童子様、この子・・・」
「お前ら、悪いんだけど、全員集めてくれないか」
「へ?見舞い・・・」
「ここも支城にいるやつも全員だ。よろしく頼む」
「え、でも」
 鬼二匹、面倒臭そう。
「いいから早くしろ!」
「は、はい!!」
 二匹、走り出す。朱桜、見送る。
「あの、父さま?」
「朱桜。いくぞ」
「?」
「じゃあ、俺もいこっか」
 茨木も廊下に出てきた。白装束。
「いいのか、起きて」
「大丈夫だ」
 ちょっと、咳き込んだ。
 心配そうに見る朱桜。
「気にすんな」
 そう、言った。

「んだよ、なんで集まったんだ?」
「知るか」
 玉座のある広大な一室。鬼達がひしめきあう。
 玉座には、まだ誰もいない。
「虎熊、石熊、何だってんだ?」
「知らんよ、いきなり集めろって言われて・・・」
「虎熊、石熊、星熊、しー。酒呑童子様が来たよ」
 三人、玉座に。酒呑、茨木、朱桜。朱桜は酒呑に手をつながれて。
「誰だ、あの子?」
「前に見たことあるぞ」
「角、ないぜ」
「人間か?」
 鬼達が、囁く。
「静かに、しろ」
 茨木が言った。漂う、薄青幕。
 誰も一言も言葉を発さず。
「悪いな、いきなり集めて」
 酒呑。
「ちょっと、この娘のこと紹介したくてな」
 一呼吸、置く。鬼達を、見回す。
「俺の・・・俺の娘だ」
「・・・・・・!!!」
 鬼、どよめく。朱桜も驚く。
「自己紹介しな」
 朱桜に言う。
「朱桜と言います。えー、えーっと。あの、あの・・・・・・よろしくお願いします」
 どよめきが、どんどん大きくなる。
「集まってもらったのはそれを伝えたかっただけだ。それじゃあ、解散」
 鬼、動こうとしない。
「解散!」
 茨木が言うと、皆渋々動き出した。

「言ったな」
「ああ。いつまでも隠しておけないだろうしな。それに・・・」
「それに?」
「良い弟を持ったしな」
「良い、ね。これから忙しいな、北に使いを出さないと」
「なあ、茨木。これで良かったのかな」
「良かったんじゃないのか。朱桜ちゃん喜んでたよ」
「そう・・・・・・か。喜んでたか」
「ああ」
「じゃあ、良かったのかな」

酒呑童子様、いつのまに子供を・・・」
 話しているのは鬼の四天王。
「てえことはゆくゆくはあの子が名を受け継ぐ?」
「そういうことになるのかな」
「大丈夫かね?もめそうだよ」
「その時になってみないと分からんな」
「黒夜叉のこともあるしな」
「あの子の母親、誰だ?」
「鬼じゃねえよな」
「人だな」
「そっかな。ま、とりあえず・・・」
「とりあえず?」
「歓迎会やろうぜ!」
「「「おう!」」」