小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫~大晦日(二)~

「は・・・あんたらもいるとはね」
「来てたら悪いか、東の」
「いいや、西の」
鈴鹿、喧嘩腰になるな」
「兄上も」
 頭領、酒呑童子茨木童子鈴鹿御前、藤原俊宗。
 ある意味、豪華。
 東の鬼と西の鬼の総大将と副将が、顔を合わせているのだ。
 滅多にないことである。
「あたいは、別に喧嘩腰じゃないよ」
「俺もだ。茨木、変なことを言うな」
「なあ、おぬしら・・・」
 頭領が、口を開いた。
「仲良う、せい」
 それだけであった。
 それだけで十分であった。

「ねえ、茨木」
 黙って食べ、飲んでいた五人と一匹。
 最初に沈黙は破ったのは鬼姫であった。
「はい」
「怪我、大丈夫なの?」
「ええ・・・完全に治るには少しかかりそうですが・・・」
「あとで、いい薬持っていくよ」
「ありがとうございます」
「お、優しいね」
「あたいは、優しいさ」

「娘さん、少し大きくなられましたな」
 今度は、俊宗が口を開いた。
「分かるか」
「ええ、前に会ったときよりも少し」
「可愛いだろ。すっごくいい子なんだ」
「ふ~ん、そうなの」
「いい子だぞ。俺と・・・あいつの子供だからな」

「父さま達、仲良くしているみたいですね」
「一時はどうなることかと・・・」
「姫様、台所に戻りましょうよ。どうもこのままだと数が足りないような気がします」
「そうですね」

 それが夕方のことであった。

「姫様、そういえば台所で葉子と朱桜ちゃんとなにやってたんですか?」
 太郎が言った。
 太郎の目の前には、たくさんの妖達。騒ぎたてず、じっと闇に溶けていた。
「秘密です」
「秘密・・・」
「な、何の話ですか?」
「いや、沙羅殿や光殿が来る前に台所で何かやってたんですよ」
「ねえ、朱桜ちゃん、秘密ですよね」
「はい」

「お袋、仲良さそうだな~」
 光が言った。
 男の子は、ふさふさの尾にもたれていた。
 葉子も太郎と同じように、人の姿をやめていた。九尾の、銀狐。
 それも、いつもの力を抑えた形ではない。
 太郎と同じように、本当の姿。
 それのほうが、楽なのだ。
「どうしたの、クロちゃんに妬いてるの?」
「まさか」
「あんた、前から気になってたけど父親は」
「いないよ。かみなりさまだもの」
「そっか。あんたらそうだね」
「それにしても、寒い!」
「その格好だもの」
 光の虎皮の着物は薄い。寒いのも当然である。
「ほら」
 葉子の大きな尾が、光をくるむ。
「あったかい。あんがと」
「いえいえ」

「ふう。そろそろでしょうか」
「そろそろ?」
「ほら、聞こえてきましたよ」
 耳を澄ます。ごーん、ごーんという音がかすかに届く。
「か、鐘の音?」
「除夜の鐘です。もう、今年も終わりですよ」
 少し、寂しそうでもあった。
「ああ・・・彩花ちゃん、ここではやらないのですか」
「一応、ここも寺ですけど・・・」
「沙羅殿、こんなところでやったらほとんどの妖が死んじゃいますよ」
「なるほど」
「葉子さん、そろそろ」
 銀狐は、姫様に向かってしーと口を動かした。
 光、寝ちゃった。そう続けた。
 尾にくるまれて、気持ちよくなったのだろう。
「・・・じゃあ、私と朱桜ちゃんだけ・・・」
「俺が手伝いますよ」
「太郎さん」
「何やってたか見当ついてますし」
 人の姿になると、姫様の耳元で囁いた。
 それを聞いて、姫様にっこりと笑う。
「当たり、です。初めて作ったのでちょっと心配なのですが・・・」
「大丈夫ですよ。みんなを、どこに?」
「居間に・・・足りないかな。他の部屋との境をとっちゃいましょうか」
 庭にたたずんでいた妖達に姫様が声をかける。
 すぐに妖集まる、うるさくなる。
「なんですか~」
「なんのよう~」
「皆さん・・・ごにょごにょ」
「障子や戸を取り外す?お安いご用で」
「でも、なにするんですか?居間をそんなに広くして」
「いいからいいから」
「あの、私は・・・」
「沙羅ちゃんは・・・なにもしなくていいですよ」
「姫さん、何事ですか?」
「彩花さん?」
 黒之助と桐壺。妖達が動き出したので、何事かと尋ねてくる。
「さあ、なんでしょうね」