小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫~大晦日(一)~

「もう、一年が終わるのですね」
「はい・・・」

 年末、人でいう大晦日
 もう、夜も遅い。
 一年が、終わりを告げる日の夜遅く。

「眠くないですか」
「大丈夫です」
 彩花が小さな女の子に話しかける。
 朱桜。西の鬼の王、酒呑童子の幼い娘。
 今日も父親に連れられて寺に遊びに来ていたのだ。

酒呑童子様!」
「おう、彩花ちゃん。朱桜も連れて遊びに来てやったぞ」
 鬼馬。馬の形に額に角を持つ妖。
 二人はいつものようにそれに乗って夕方やってきた。
 酒呑童子が先に降り、己の娘をゆっくりゆっくり降ろす。
「正確には逃げてきたですけど・・・」
「いや、弟が宴の片づけを手伝えとうるさくてな。ちょっとかくまってくれ」
「いいですが・・・今日は大晦日ですよ、よろしいのですか?」
「大晦日・・・」
 なんだそれはと言いたげである。
 その美しい顔がしかめ面に。
「まてよ、今出てきそうだ・・・」
「父さま、今日は一年の終わりの日です」
「ああ!・・・それが、どうした?」
「どうしたって・・・」
「もう、何百回も迎えてるから、そんなもん気にしないな、俺は」
「そうなのですか?」
「そういうもんだ」
「はあ」

「今年は色々なことがありましたね」
「色々・・・」
 姫様が右隣の女の子に目をやる。頭に皿のある女の子。
 近くの川に住む河童の子。
「沙羅ちゃんと友達になりました」
「は、はい」
 また、目を移す。
 その視線の先には鬼の夫婦。
 女の膝の上には子猫が一匹。
鈴鹿御前様と俊宗様のところに鈴ちゃんが」
 子猫がしっぽをゆらりと揺らした。
「かみなりさまとも仲良くなって・・・」
 かみなりさまたる光と桐壺。
 光は葉子と一緒におあげをむしゃむしゃ。
 桐壺は黒之助と庭で話に華を咲かせていた。
酒呑童子様に娘さんが生まれました」
 朱桜が、顔を上げた。姫様の左隣。
 姫様と同じように縁側に座っていた。
「色々、ありました」
「ありましたね」
 姫様達の、足下にうずくまっている、巨大な狼。それが声をだした。
 小さな牛ぐらいの大きさ。犬とはいえない。
 それが本当の太郎の姿。
 普通の人なら恐ろしいと逃げ出すであろう。
 不思議と、姫様は怖くない。
 昔から、優しい、そう感じていた。
「太郎さんもそう思いますか」
「ええ」
 
「茨木、なんでお前が・・・」
 茨木童子。目の前には頭領と兄。
 やつれていた。
「朱桜ちゃんが文を残していました」
「なんだそれ!」
 こほんと咳を一つ。
「本来なら、すぐに戻って頂きたいところですが・・・」
「が?」
「まあ、よしとしましょう」
「さすが茨木!」
 ちらりと遠くの朱桜のほうを見る。また視線を戻す。
「しょうがない、か。八霊、とっとと俺も中に上げてくれ」
「うむ・・・それで茨木、身体は良くなったのか?」
「大分ましになったよ。あと百年もすれば元に戻る」
「百年、か」
 茨木の足下に寺の妖達が何匹か集まっていた。

「やっほう!彩花ちゃん、遊びに来たよ」
「どうも」
「にゃ~ん」
鈴鹿御前様、藤原俊宗様、鈴ちゃん・・・」
「あれ、嬉しそうじゃないね」
「え・・・」
 姫様は困っていた。既に鬼の先客がいるのだ。
 やらなければならないこともあるし・・・
「およ、強い鬼がいるねえ」
「酒呑様と、茨木様が・・・」
「ほう」
 俊宗が声をあげた。
「そりゃあ、面白い。八霊と一緒?」
「ええ、三人で」
「じゃあ、あたしも混ぜてもらってこよ」
 いそいそと鈴鹿御前が行ってしまった。
「大丈夫でしょうか・・・」
 東と西の鬼の仲があまりよろしくないということは、姫様も知っていること。
「八霊殿がおられるから大丈夫でしょう」
「俊宗様、そうでしょうか?」
「そうですよ」