あやかし姫~大晦日(一)~
「もう、一年が終わるのですね」
「はい・・・」
年末、人でいう大晦日。
もう、夜も遅い。
一年が、終わりを告げる日の夜遅く。
「眠くないですか」
「大丈夫です」
彩花が小さな女の子に話しかける。
朱桜。西の鬼の王、酒呑童子の幼い娘。
今日も父親に連れられて寺に遊びに来ていたのだ。
「酒呑童子様!」
「おう、彩花ちゃん。朱桜も連れて遊びに来てやったぞ」
鬼馬。馬の形に額に角を持つ妖。
二人はいつものようにそれに乗って夕方やってきた。
酒呑童子が先に降り、己の娘をゆっくりゆっくり降ろす。
「正確には逃げてきたですけど・・・」
「いや、弟が宴の片づけを手伝えとうるさくてな。ちょっとかくまってくれ」
「いいですが・・・今日は大晦日ですよ、よろしいのですか?」
「大晦日・・・」
なんだそれはと言いたげである。
その美しい顔がしかめ面に。
「まてよ、今出てきそうだ・・・」
「父さま、今日は一年の終わりの日です」
「ああ!・・・それが、どうした?」
「どうしたって・・・」
「もう、何百回も迎えてるから、そんなもん気にしないな、俺は」
「そうなのですか?」
「そういうもんだ」
「はあ」
「今年は色々なことがありましたね」
「色々・・・」
姫様が右隣の女の子に目をやる。頭に皿のある女の子。
近くの川に住む河童の子。
「沙羅ちゃんと友達になりました」
「は、はい」
また、目を移す。
その視線の先には鬼の夫婦。
女の膝の上には子猫が一匹。
「鈴鹿御前様と俊宗様のところに鈴ちゃんが」
子猫がしっぽをゆらりと揺らした。
「かみなりさまとも仲良くなって・・・」
かみなりさまたる光と桐壺。
光は葉子と一緒におあげをむしゃむしゃ。
桐壺は黒之助と庭で話に華を咲かせていた。
「酒呑童子様に娘さんが生まれました」
朱桜が、顔を上げた。姫様の左隣。
姫様と同じように縁側に座っていた。
「色々、ありました」
「ありましたね」
姫様達の、足下にうずくまっている、巨大な狼。それが声をだした。
小さな牛ぐらいの大きさ。犬とはいえない。
それが本当の太郎の姿。
普通の人なら恐ろしいと逃げ出すであろう。
不思議と、姫様は怖くない。
昔から、優しい、そう感じていた。
「太郎さんもそう思いますか」
「ええ」
「茨木、なんでお前が・・・」
茨木童子。目の前には頭領と兄。
やつれていた。
「朱桜ちゃんが文を残していました」
「なんだそれ!」
こほんと咳を一つ。
「本来なら、すぐに戻って頂きたいところですが・・・」
「が?」
「まあ、よしとしましょう」
「さすが茨木!」
ちらりと遠くの朱桜のほうを見る。また視線を戻す。
「しょうがない、か。八霊、とっとと俺も中に上げてくれ」
「うむ・・・それで茨木、身体は良くなったのか?」
「大分ましになったよ。あと百年もすれば元に戻る」
「百年、か」
茨木の足下に寺の妖達が何匹か集まっていた。
「やっほう!彩花ちゃん、遊びに来たよ」
「どうも」
「にゃ~ん」
「鈴鹿御前様、藤原俊宗様、鈴ちゃん・・・」
「あれ、嬉しそうじゃないね」
「え・・・」
姫様は困っていた。既に鬼の先客がいるのだ。
やらなければならないこともあるし・・・
「およ、強い鬼がいるねえ」
「酒呑様と、茨木様が・・・」
「ほう」
俊宗が声をあげた。
「そりゃあ、面白い。八霊と一緒?」
「ええ、三人で」
「じゃあ、あたしも混ぜてもらってこよ」
いそいそと鈴鹿御前が行ってしまった。
「大丈夫でしょうか・・・」
東と西の鬼の仲があまりよろしくないということは、姫様も知っていること。
「八霊殿がおられるから大丈夫でしょう」
「俊宗様、そうでしょうか?」
「そうですよ」
「はい・・・」
年末、人でいう大晦日。
もう、夜も遅い。
一年が、終わりを告げる日の夜遅く。
「眠くないですか」
「大丈夫です」
彩花が小さな女の子に話しかける。
朱桜。西の鬼の王、酒呑童子の幼い娘。
今日も父親に連れられて寺に遊びに来ていたのだ。
「酒呑童子様!」
「おう、彩花ちゃん。朱桜も連れて遊びに来てやったぞ」
鬼馬。馬の形に額に角を持つ妖。
二人はいつものようにそれに乗って夕方やってきた。
酒呑童子が先に降り、己の娘をゆっくりゆっくり降ろす。
「正確には逃げてきたですけど・・・」
「いや、弟が宴の片づけを手伝えとうるさくてな。ちょっとかくまってくれ」
「いいですが・・・今日は大晦日ですよ、よろしいのですか?」
「大晦日・・・」
なんだそれはと言いたげである。
その美しい顔がしかめ面に。
「まてよ、今出てきそうだ・・・」
「父さま、今日は一年の終わりの日です」
「ああ!・・・それが、どうした?」
「どうしたって・・・」
「もう、何百回も迎えてるから、そんなもん気にしないな、俺は」
「そうなのですか?」
「そういうもんだ」
「はあ」
「今年は色々なことがありましたね」
「色々・・・」
姫様が右隣の女の子に目をやる。頭に皿のある女の子。
近くの川に住む河童の子。
「沙羅ちゃんと友達になりました」
「は、はい」
また、目を移す。
その視線の先には鬼の夫婦。
女の膝の上には子猫が一匹。
「鈴鹿御前様と俊宗様のところに鈴ちゃんが」
子猫がしっぽをゆらりと揺らした。
「かみなりさまとも仲良くなって・・・」
かみなりさまたる光と桐壺。
光は葉子と一緒におあげをむしゃむしゃ。
桐壺は黒之助と庭で話に華を咲かせていた。
「酒呑童子様に娘さんが生まれました」
朱桜が、顔を上げた。姫様の左隣。
姫様と同じように縁側に座っていた。
「色々、ありました」
「ありましたね」
姫様達の、足下にうずくまっている、巨大な狼。それが声をだした。
小さな牛ぐらいの大きさ。犬とはいえない。
それが本当の太郎の姿。
普通の人なら恐ろしいと逃げ出すであろう。
不思議と、姫様は怖くない。
昔から、優しい、そう感じていた。
「太郎さんもそう思いますか」
「ええ」
「茨木、なんでお前が・・・」
茨木童子。目の前には頭領と兄。
やつれていた。
「朱桜ちゃんが文を残していました」
「なんだそれ!」
こほんと咳を一つ。
「本来なら、すぐに戻って頂きたいところですが・・・」
「が?」
「まあ、よしとしましょう」
「さすが茨木!」
ちらりと遠くの朱桜のほうを見る。また視線を戻す。
「しょうがない、か。八霊、とっとと俺も中に上げてくれ」
「うむ・・・それで茨木、身体は良くなったのか?」
「大分ましになったよ。あと百年もすれば元に戻る」
「百年、か」
茨木の足下に寺の妖達が何匹か集まっていた。
「やっほう!彩花ちゃん、遊びに来たよ」
「どうも」
「にゃ~ん」
「鈴鹿御前様、藤原俊宗様、鈴ちゃん・・・」
「あれ、嬉しそうじゃないね」
「え・・・」
姫様は困っていた。既に鬼の先客がいるのだ。
やらなければならないこともあるし・・・
「およ、強い鬼がいるねえ」
「酒呑様と、茨木様が・・・」
「ほう」
俊宗が声をあげた。
「そりゃあ、面白い。八霊と一緒?」
「ええ、三人で」
「じゃあ、あたしも混ぜてもらってこよ」
いそいそと鈴鹿御前が行ってしまった。
「大丈夫でしょうか・・・」
東と西の鬼の仲があまりよろしくないということは、姫様も知っていること。
「八霊殿がおられるから大丈夫でしょう」
「俊宗様、そうでしょうか?」
「そうですよ」