小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

プロジェクト参加小説~舞い~

翁が舞う

白髪が踊る

手に持つ白刃が光を、雪に負けじと反射する

翁は、泣いていた。泣きながら踊っていた

それを見ている男も涙を流していた

涙を拭うこともせず、流れるままにしていた

目をしっかりと見開き

一挙一足も見逃すまいと

翁の長い、長い剣舞

 それを終えたとき、翁は剣を雪の上に置いた。
 二人、雪の上に座る。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 二人、それだけを言い合った。

「聖宗様、無事に麓についたでしょうか?この大雪・・・・・・道に迷われていなければよいのですが。本当に、一晩ぐらい泊まっていかれてもよろしかったのに」
 三十ばかりの美しい女であった。
 翁の杯に酒を注ぐ。
「あやつが道に迷うなどと間の抜けたことをするかよ・・・・・・それにここは狭い。二人でしまいよ」
 翁が口に杯を近づける。
 杯が空になる。
「そうですね。しかしそのようにわがままをお言いになられるから・・・」
 また、女が杯に酒を注いだ。
「なんじゃ?」
「いえいえ」

「なあ、雪音。おぬしと出会うたのもこのような雪の強い夜であったか」
「急に一体何を?」
「五年前であったかの?いや、忘れたわけではないぞ」
 女がくすくすと笑った。
「ええ、ええ。そうでございますよ」
 いろりの火がぱちぱちと音をたてている。
 外の音は、小屋の中には聞こえてこない。
 良い造りであるのだろう。
「いや、昔のことを思い出していての」
「まあ」
「一つ、不思議な話をしてやろうか」
「不思議な、お話?」
「うむ不思議な話じゃ」



「さてと・・・・・・今からどうすればいいんだろうか」
 男はぽりぽりと頭をかいた。
 若い男であった。 
 火にあたっているのに、震えが止まらない。
 周りは一面の雪景色。
 今は収まっているとはいえ、いつまた降り出すか分からない。
 男は、雪山で遭難していたのだった。
「このまま凍え死ぬのか・・・それもまた良いかな・・・」
 そういって寝転がる。
 すぐに起きあがる。
「良いわけ、ないか」
 一応は頭を働かせるのだが、何か案が出ることもなく。
 剣を振って身体を動かすが、それも長くは続かない。
 そのうち、男は眠くなってきた。