小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

プロジェクト参加小説~舞い2~

「もうし・・・もうし・・・」
「うん?」
「こんなところで寝ていらしては風邪をひいてしまいますよ」
「風邪?」
 男が目を開けた。震えが、止まっていた。
「なんだこれは?」
 また、吹雪いてきていた。
 それなのに、男を中心とした光の小円内には何も降るものがなかった。
 起きあがる。女と、目があった。
「あ、どうも」
 女に、会釈する。
「どうも」
 女も会釈を返した。二十五、六に見えた。
「あの・・・・・・天女さまかなにかですか」
 女は答えなかった。
 白い着物を着ていた。
 肌が恐ろしく白い。
 鮮やかな口紅が、目をひいた。
 ただただ、美しかった。無機的な美しさであった。
 男は、頭をかいた。
「もう、俺は死んだのかな。それであの・・・貴方がお迎えに・・・」
「いえいえ、まだ生きていらっしゃいますよ、黒斎様」
「生きている。そうですか・・・・・・何故俺の名を?初めてお会いすると思うのですが?」
「さあ、何故でございましょうか」
 ふふ、と女が笑った。
 雪の降る音、風の音。
 そのような音は何も聞こえず、女と己がたてる音だけが耳に入る。
「化生の、もの?」
「そうですね。そう言われております」
「あの、これは?」
「ああ、これでございますか」
 女が手を挙げると、吹雪に視界が遮られた。
 寒い。
 鼻水が凍る。
「ふふ」
 女が口元を袖で隠した。そして手を下げた。
 また、雪がやんだ。
 光の、円。
「私の力でございます。私はこの山を統べている雪の精。人がこのような山に住むことは珍しいので、気になってずっと貴方様を見ておりました」
「雪の・・・精・・・・・・ずっと、見ていた?」
「今日もどんどん道を外れていくので気になっていたのですが、案の定迷っていらしたのですね」
「どのあたりから迷っておりました?」
「山に入りしときより。いつものことでございますが、貴方様なかなかの方向音痴でございますね」
「むう」
 女がまたくすくす笑った。
「今日は、特別でございますよ。特別にお助けしたのですよ。本来、誰が死のうと私達には関係ないことでございますから」
 ぞっとする声になった。 
「うん・・・特別とは?」
「いつも、貴方様の剣舞には楽しませてもらっておりますので。そのお礼に」
剣舞・・・いや型なんですけど・・・・・・」
「なかなか良いものですね」
 男が、恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「・・・ありがとう。褒められたのは、初めてです」
「流派は一体?」
「一応、月真派に入門しましたが半年で追い出されまして・・・それ以後はずっと我流です」
「そうなのでございますか」
「どうも人と同じ動きが出来ないのですよ。習った通りにやらず、自分のしたいようにやっていると師に怒られまして。そのようなことばかりするなら、ここにいる必要はないと」
「まあ・・・それで一人でこの山に籠もって」
「ええ」
 会話が途切れた。
 厚い雲より光がさした。
 雪もやみつつあった。
「もう、大丈夫でございますね」
「・・・あの、もしよろしければ家まで・・・・・・」
「はいはい、貴方の小屋まで私が案内しましょうか」
 女が、また朗らかな笑い声をあげた。