小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫~白(1)~.

 なんだろう・・・この感覚は・・・

 私の姿はここにあるのに、心が、どこか遠くにある

 遠くから、私は私を見ている

 不思議な、感覚

 そう、まるで・・・

「門?」
 自分の部屋で葉子さんと一緒に寝ていたはずなのに、目の前には寺の入り口。
 真っ白な世界に、お寺の門。
 よく分からない。
 私の横に小さな白蛇。
 とぐろを巻いて、赤い舌をちろちろだしていた。
 怖くはなかった。
 門をくぐってみる。
 白蛇が、その赤い目で私をじっと見ていた。
 
 庭に出なかった。寺もない。
 目の前には川。
「あれ・・・」
 日差しがまぶしい、暑い。
 日を遮ろうとした手は、小さい。
 まるで、朱桜ちゃんの・・・?
 ゆっくり自分の姿を見ると、それは私の幼いときの・・・
「彩花ちゃん、冷たくて気持ちいいよ。足だけでも水につけてみる?」
 太郎さんの声。
 小川に、顔を出していた。
 寺の妖達も、太郎さんの周りに浮いていた。
 私の周りには、小さな白蛇だけ。
 川以外は真っ白な何も無い世界。
 私は、太郎さんに近づこうと思った。
 皆に近づこうと思った。
 太郎さんが慌てた顔で、声で、何か言っている。
 気にしなかった。
 ざばざば、進む。
 深いよ、流れが急に、そんな音が聞こえる。
 不意に、皆の姿が見えなくなった。
 それでも、近づこうと思った。
「起きた?」
「う・・・」
 私は、太郎さんの、巨大な狼の背にしがみついていた。
 全身が濡れていた。
 首を曲げて、太郎さんが金の瞳と銀の瞳で私を見た。
 何かを言っている。
 謝っているみたい。
 太郎さんと、私と、あとは真っ白。
 いや、太郎さんの足下に、白蛇の赤い目と赤い舌が見えた。
 太郎さんは、自分の瞳が嫌いだっていつも言ってるけど、私は好きだな。
 そんなことを考えながら、あったかい背中に身体を預けて、目をつぶった。

「これは・・・」
 葉子さんだった。葉子さんの前に、子供が二人いた。
 真っ白な世界に、三人の姿。
 遠くから、白蛇と一緒に三人を見ていた。
 私の姿は元に戻って。
 三人とも、銀色尻尾を生やしていた。
 子供には、頭に狐の耳も見える。
 私は、三人の目に入らないようで。
「姉様、遊んで」
「葉子さん、遊んで」
 しょうがないねえと葉子さんが笑う。子供が遊んで遊んでとせがむ。
「葉美、木助、なにして遊ぶ?」
 聞いたことがある名前だった。
 不意に、女の子が大きくなった。
 男の子の姿が見えなくなった。
 大人になった女の子は、怖い目で葉子さんを睨んでいた。
 葉子さんは、目をそらしていた。
 唇を、かみ締めていた。
 たくさんの書物が葉美さんの後ろにあった。
 日付が書かれていた。
「私は・・・」
 葉子さんの声は、よく聞き取れなかった。
 視界が、真っ白になって、私も、真っ白になって・・・

「大天狗さま、何故です!」
 クロさんの、声。
 烏天狗の姿。
 目の前に、長い鼻の老人。
 僧衣を纏い、手には団扇の老人の姿。
 また、真っ白な世界。
「黒之助、すまぬがおぬしを天狗にはできぬ」
「何故ですか!」
 クロさんは、怒っていた。
鞍馬山烏天狗のなかでは最もおぬしが強いであろうな」
「それならば・・・」
「おぬしは、強いだけじゃ。その強さに溺れ、小さな世界で満足しておる。世は広い・・・」
「・・・」
「わしの知り人に八霊という男がおる。そこにしばらくいるがよい」
「・・・はい・・・」
 苦しそうなクロさん。私が知らないクロさん。
 いこう?という風に、小さな白蛇が。
 私は、どこかに歩き出した。

「なるほどね、話は分かった」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 寺の妖達。
 白い世界で誰かを、妖達が取り囲んでいた。
 そういうふうに見えた。
 妖達のなかには、知らない顔もちらほらあって。
「いいよ、やってやろう」
「「「やったー!!!」」」 
 場面が変わった。
 同じように誰かを妖達が囲んでいるのに、変わった。
 何故かは分からないけど、そう思った。
「しかしな~」
「この辺りを治める妖がいないんです!」
「お願いします!」
「・・・・・・まあ、よいか」
 妖達が、歓声をあげた。
 その誰かが、どうせ行く当てのない身、悪くはないな。そう言った。

「これは・・・何?」
 
 また門。
 見たことのない門。
 閉じられていた。
 少し押してみる。
 少し動いた。
 力一杯押してみる。
 ゆっくりと、門が開いていく。
 白くはない。
 たくさんの色が主張しあって、混沌とした世界。
 何かが、そこにいた。
 知らない、なにかが。