小説置き場2

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あやかし姫~白(2)~.

「驚いた、ここに来ることが出来るものがいるとは」
 見知らぬ男が座っている。何かを、口に運んでいた。
 男の喉を、ごくりと丸いものが通る。
 男はその手をとめ、ゆっくり近づいてくる。
 怖い、そう思った。
 逃げたいと思った。ここから早く離れないと・・・
「まあ、いい。ゆっくり、眠るがいい・・・深い、真っ白な夢の中へ・・・」
 男が、手をかざした。
 腰が、すとんと落ちた。
 目をつむってはいけない。そう思っているのに、身体が言うことを聞かない・・・
 震え。
 寒くないのに、止まらない。
「嫌だ!いや・・・・・・太郎さん!クロさん!葉子さん!みんな!・・・」
 まぶたがゆっくりと・・・
「とう・・・りょう・・・」
「そこまでよ」
「な!?」
 あの小さな白蛇だった。
 いつのまにか、私の、前に。
 男が、驚いていた。
 私の目がまた開いていく。
 震えが、止まった。
「見事じゃ、見事な腕前じゃ」
 男の姿が、ぼやけていく。
 獣の姿。書物のなかで、見たことがある。
 獏。夢を喰らういきもの。
「夢を喰らうだけでは飽きたらず、魂をも喰らう獏がいるとは聞いていたが・・・ここに来るとは、おもわなんだ」
 白蛇の姿もぼやけていく。
 大きくなっている。
 獏が背を向けた。
 逃げようとしているようだった。
 ぴたりと、動きが止まった。
 いや、止められた。
「この子がいなければ、わしも危うかった、魂を喰われるところであった・・・いやはや、残念じゃの」
 白蛇が、大きく口を開けた。
 そこから、また蛇の頭がでてきた。
 八つ。漆黒の蛇。
 純粋な黒。
 燃えるような紅い目、紅い舌。
 八頭の蛇が、獏を取り囲んだ。
「おまえ・・・いや貴方様は・・・・・・まって、助け・・・」
「・・・・・・」
 無言で、蛇達が大きく口をあけた。
 目の前が、真っ暗になった。
 きらきらと光る玉が、いくつも闇の中に浮かんで消えた。
 
「う・・・・・・」
 日の光が眩しかった。
 起きあがる。
 自分の部屋。
 葉子さんを揺すってみる。
「あ、おはよう~」
 葉子さんも、起きあがった。
 眠そうに、目をこすっている。
「あれ、姫さま、今日は早いね」
 二人で、部屋の外に。
 とりあえず、顔を洗おうと。
 妖達もぞろぞろと。
 私達の後をついていく。
 皆、眠そう。
 お日様は、もう天高く。
「え・・・・・・もうお昼?」
 葉子さんが、驚いて。
「そうみたいです・・・」
「太郎の奴、起こすのさぼったな!でもクロさんも頭領も誰も起きなかった?変なの」
 私は、葉子さんに「今日どんな夢みました?」と聞いた。
「夢?今日は見てませんよ」
 そういう返事だった。
 みんな、今日夢を見ていなかった。
「この寝坊助!」
「うるさいやい!」
「面目ない・・・」
 廊下で、葉子さんが太郎さんとクロさんに。
 妖達が、葉子さんも!そう言うと、葉子さんもご免と言った。
「うるさい・・・静かにせい」
「あ、頭領」
 頭領も、眠そうだった。
「ああ、彩花。こっちに来なさい」
「はい?」
 私が頭領のそばに行くと、「助かった」そう言って、頭を撫でてくれた。
 昔から、私は頭領に頭を撫でてもらうのが好きだった。
 皆、きょとんとしていた。
「ほら、めしにするぞ。今日はわしがつくっておいた」
 そう言って、頭領が居間に向かう。
 頭領の目が紅い、
 ような気がした。
 私は、頭領のあとについていった。